収集癖

クロノヒョウ

第1話



 岡崎くんに付き合ってと言われた時は夢かと思った。


 私はたいして可愛くもないし太っているし何の取り柄もない。


 職場には可愛い子がたくさんいるのにどうして私なのだろうと戸惑った。


「広瀬さんってめちゃくちゃ俺のタイプなんだよね」


 そう言われて付き合ってみることにしたものの、三ヶ月経った今でもまだ騙されているのではないかという思いはぬぐいきれなかった。


 よく聞く詐欺師のように金銭を要求されたことはない。


 いつもご飯をご馳走してくれるし会話も楽しいし、何より時折岡崎くんは私のことを熱いまなざしで見つめてくる。


 それでも不安なのは、デートと言ってもいつも食事だけだからだ。


 手をつなぐこともキスも、もちろんその先も何もない。


 やっぱり私はからかわれているだけなのだろうか。


「あの……岡崎くん」


 今日こそは岡崎くんの本当の気持ちを聞いてみようと思っていた。


「ごめん! そうだよね、広瀬さんの言いたいことはわかってる」


「えっ?」


「俺さ、人前ではあんな感じだけど、実はその……結構なオタクなんだよね」


「オタク……?」


「それを知られたら広瀬さんに嫌われるんじゃないかって不安で」


「そんなこと、あるわけない」


「本当に? じゃあ今から俺んちに来てくれる?」


 いきなり家にとは思ったものの、私は嬉しくなって岡崎くんの家にお邪魔することにした。 


「俺、箱を集めるのが好きでさ」


「わっ……すごい」


 玄関を入ってすぐの部屋は箱であふれていた。


 色も大きさも素材も様々な箱が綺麗にディスプレイされている。


「綺麗……痛っ!」


 箱を眺めていると突然頭に衝撃を感じた。


 視界がぼやけ体の力が抜けていく。


 岡崎くんは倒れた私を引きずっていた。


 隣の部屋に入ると私と同じような太った女性が何人も透明な箱に入っていた。


「広瀬さんは理想の箱だよ……」


 岡崎くんは私を空っぽの箱に押し込んだ。


 そうか。


 意識が薄れる中でやっと理解ができた。


 私は岡崎くんのコレクションのひとつになったのだ。






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収集癖 クロノヒョウ @kurono-hyo

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