第38話・なぜそうなった?
四月十六日、土曜日の朝十時過ぎ。
黒鉄学園の隣にある大きな建物・
最新の医療と回復魔法のおかげで体が全回復したので、俺はそのまま退院して……。
「師匠、待ってたよ」
「なんで貴女がいるの?」
「そんなの氷室先輩の弟子だからだよ婚約者さん!」
最初は断ったのだが、この入院の期間に部屋に凸られまくった結果。
条件付きで九条さん改め澪さんが俺の弟子になりました……。
「なんか彼女も濃いわね」
「それは俺も感じる」
迎えにきてくれたアイシアと共にドン引いていると、澪さんがキラキラとした笑顔で頷いた。
「それで師匠はこれからどうするの?」
「とりあえず一旦寮に戻った後にアイシアと出かけるつもりだけど?」
「なら弟子のボクもついていってもいいよね!」
「そんなわけないじゃない!」
「決めるのは婚約者さんじゃなくて師匠じゃないの?」
待て待て!?
なんで病院の出入り口付近で言い合っているんだよ。
俺は今の状況にヒヤヒヤしながら、言い合う二人の姿に戸惑ってしまう。
「……退院したばかりなのに勘弁してくれよ」
通りかかる人達に白い目で見られているし、明らか目立っているよな。
このままだと他の人に迷惑なので、俺は二人の腕を掴んで強引に病院から出ていくのだった。
ーー
街中にある喫茶店のチェーン店・スターダスト。
アイスコーヒーのLサイズを片手に端の四人席についたのだが、アイシアが不機嫌そうに頬を膨らませた。
彼女の視線にはおそらく澪さんが写っており、その事で機嫌が悪いみたいだ。
「百歩譲ってダンナに弟子入りするのはいいわ。でも、ダンナはアタシの婚約者よ」
「氷室先輩は魅力的ですが、アナタから奪わないので心配しないでください」
「といいつつダンナに色目を使ってないかしら?」
「それくらいは勘弁してくださいよ」
話が噛み合ってないような?
ズレた会話をする二人を見ながら、冷静にアイスコーヒーを飲んでいく。
するといきなり二人がコッチを見てきた。
「ダンナはこの件をどう考えているの?」
「うーん、まずは問題を起こしてから対処で良くないか?」
「なるほど……。納得は出来ないけど理解はしたわ」
「よかった」
少しは落ち着いたかな。
頬を膨らませたままのアイシアの頭を撫でつつ、ふと視線をズラすと見覚えのある相手を見つけた。
「少し話は変わるが、田辺さんがコッチを見てきてないか?」
「あー。もしよかったら呼んでも大丈夫?」
「別にいいけど何か起きたらアナタが対処してね」
「もちろん!」
少しだけヒヤヒヤしていると、澪さんがDフォンを使い田辺さんに連絡を入れた。
その結果、彼女は真顔のまま席から立ち上がりコチラの席に座る。
「みなさま失礼します」
「いえいえ」
違う意味で田辺さんからの威圧感がすごいんだけど?
なんでこんな圧があるのかは謎だが今は置いといて。
本来の話である弟子入りの件について、アイシアは不服そうに言葉を発した。
「弟子入りの話自体は前から知っていたけどダンナとの距離が近すぎない?」
「それはわたしも思います」
「ちょっ!? なんでシレッと裏切るのさ!」
「お嬢様は九条家の直系なのをもっと自覚してください」
「そんな
名家の中でも色々あるんだな。
ただ、一般家庭出身の俺には関係ないのでアイスコーヒーを飲みながらスルー。
「お嬢様ならそれ相応の態度とかありそうよね」
「ッ! 貴女もお姫様みたいな見た目をしているけど雑でいいのかな?」
「アタシは家出中みたいなものだから大丈夫なのよ」
「へえ……」
なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。
冷たさには慣れているのに、それでも寒気を感じてしまう。
俺は無言のまま三人の言い合いに視線を向ける。
「ルーンベルク様もお嬢様なのですか?」
「うーん、厳密には少し違うけどね」
「なるほど……。まあでも、他家の方にコチラのやり方を押し付けるのは違いますよね」
「それはそう!」
なんか探されている感じがするな。
そうなるとアイシアが
綱渡りをしている感覚の中、澪さんがつまらなさそうに呟いた。
「礼儀作法の話よりも貴女がどれくらい強いか知りたいね」
「それって戦闘能力としてかしら?」
「もちろん!」
「澪様……」
は、話が流れてよかった。
心の中でホッとしていると、バニラっぽいドリンクを飲み干した澪さんが目を光らせる。
「師匠の強さはわかったけど貴女……いや、ルーンベルク先輩の強さは知らないんだよ』
「確かにアタシは
「デカい口を叩けるならボクに勝ってからにして欲しい」
「……言ったわね」
あ、やばい。
このままカフェ内で戦いが始まりそうな雰囲気。
俺はアイスコーヒーが入ったグラスをテーブルに置いた後、拍手の要領でパチンと両手を合わせる。
「勝負するのはいいけど場所を考えろよ」
「も、もちろんよ!」「は、はい!」
よし治まったな。
低めの声て言ったのが功を奏した。
ここで試合が起きなくてよかったと思いながら、まずは落ち着くために休憩していくのだった。
「……必要な時にしっかり引き締められるのは安心しました」
「何か言いましたか?」
「いえ、なんでもないです」
田辺さんが小さな声で呟いたような?
ただ特に気にする事ではなさそうなので、俺は残ったアイスコーヒーを飲み干すのだった。
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