第37話・なんでそのダメージで動けるんだよ!?

 バリバリと氷を砕きながら地面に降りてくる九条さん。

 体のあちこちがボロボロで血も出ているが、彼女は満足そうに頬を緩めた。


「ここまでボクをボコボコにするなんて流石トップランカー様だね」


「その言い方だと最初は舐めていたのか?」


「まあね。でも氷室先輩と戦って僕の認識が間違っていたのがわかったよ」


「なんかみたいな言い方だな」


「フフッ、確かにそうかも!」


 ッ!さっきよりもギアが上がるのかよ!

 フィールドに放たれる黒い雷が凍った地面を砕き始めた。


「ハァ……。ここまできたら俺も付き合うか!」


「そ、その魔力は……」


「悪いがコッチも本気で行かせてもらう!」


 一筋縄ではいかない相手。

 新入生トップも伊達じゃないと感じながら、俺もフルパワーで魔力を放出していく。


『た、互いに魔力を高め始めましたよ!』


『なるほど……。互いに探りをやめてなったみたいですね』


『えっ!? 今までの戦いはジャブだったのですか!』


『みたいです』


 氷魔法は基本的に放出系が得意。

 ただ強化系も優秀なので、俺はニヤッと笑いながら白銀の魔力を高める。

 コチラの姿に九条さんは目を輝かせながら刀を構えた。


「負ける気はないよ!」


「それは俺のセリフだ」


 さてと、いくか!

 互いに魔力を練り込んだ後、準備が整ったタイミングで勢いよく踏み込む。


「「ハアァ!!」」


 魔法使いメイジは基本的に近接戦闘は苦手。

 ただ俺の場合は短剣術のスキルがあるので前衛フロントアタッカー相手でも戦える。

 今までの経験を元にしながら、九条さんの一撃を短剣で受け止めた。


「またボクの居合いを防ぎましたね!」


「お前な! トップランカーを舐めるなよ」


「ハハッ、それはすみません!」


「うおっ!?」


 短剣と刀の鍔迫り合いの中。

 向こうが蹴りを放ってきたので小型の氷の盾を作り出して防ぐ。


「この状況で別の魔法が使える余裕があるんですね!」


「まあな! っと、アイスチェーン!」


「ッ! はあぁ!」


 不意打ち気味にアイスチェーンを使うが、向こうは危険を察知してバックステップを踏んだ。

 そのタイミングで俺は追加の氷魔法を放っていく。


「無詠唱と詠唱破棄を織り交ぜるなんて意地汚い!」

 

「いってろ! アイスブロック!」


 意地汚くて何が悪い!

 ルール違反しなければ特に問題ないので、高速で動きながら次々と魔法を放っていく。


「黒雷の連閃! ぐっ!!」


「流石に全部は防ぎ切れないみたいだな!」


「だ、だけど掴めたよ!」


「ッ!」

 

 氷の礫を弾き返してきたのかよ。

 フィジカルのゴリ押しに少し驚きつつ、腕を交差してガード。

 ただガードの上からもダメージが入るので、歯を食いしばる。


「一気に決める! 黒雷の天閃!」


「アイスシールド!! なっ!?」


 あ、アイスシールドが斬られただと!?

 思わぬ状況に体が硬直して、その隙に九条さんの接近を許してしまう。


「これでトドメだ!」


「そうはいくか!」


 黒い雷を纏った相手の拳に対して、俺も拳に氷を纏わせて反撃。

 そのまま互いの拳がクラスカウンターみたいに直撃する。


「ちいぃ!」「ぐうぅ!」


 身長的には俺の方が高いのに被弾覚悟で攻撃に来るのかよ!

 殴られた右頬がかなり痛いが、我慢しながら体勢を立て直す。


「これでボクの間合いに持ち込めた」


「それはどうかな?」


「ひ、被弾するのは覚悟の上だよ!」


「ッ!」


 クソッ、氷の雨の中で突っ込んできやがった!

 かねりのダメージが蓄積されているはずなのに、それでも向かってくるとはな。


「流石にこれは!」


「は、はあぁ!」


「そう来るよな!」


 瀕死に近いのに前に向かう姿勢。

 彼女が放ってくる刀の一撃に対して、俺は魔力を込めた短剣で迎え撃つ。

 その結果、互いの武器が折れたと同時に限界が来たのか九条さんが地面に倒れる。


「ぐうぅ」


「ハハッ……。なんとか勝てたか」


 地面に倒れて動けない彼女。

 その彼女の方を見ながら俺は右拳を天高く上げた。


『勝負あり! 勝者、第Ⅱ戦闘学科・二年三組の氷室霧也!!』


『け、決着! 入学トップの九条澪が前戦しましたがやはりトップランカーの壁は厚かった!』


『彼女もあの冷血に前戦したのはすごいです!』


 ま、マジで体が痛い。

 勝負の決着がついたのでホッとしていると、地面に倒れている九条さんがピクリと動いた。


「ま、負けちゃったか……。でも氷室先輩との試合は楽しかったよ」


「そりゃよかった」


 とりあえず楽しんでくれたのはよかったか。

 そう思いながら俺も地面に座ると、彼女は倒れたまま顔だけを上げる。


「氷室先輩にお願いがあるんだけどいいかな?」


「ん? とりあえず話だけ聞いてもいいか?」


「うん! そのお願いなんだけど氷室先輩に魔法の使い方を教えて欲しい」


「へ?」


 魔法の使い方?

 確か九条さんは名家の出で、魔法とかも家関係で習ってそうな。

 自分の中でモヤモヤ感があるが、彼女はボロボロなのに笑みを浮かべた。


「今日の試合を見て氷室先輩のやり方に興味を持ったんだよ」


「へえぇ……。ま、まあ、ここだと目立つしその話は後でな」


「わかった!」


 なんか元気そうだな!

 ボコボコにしたはずなのに九条さんの反応がいいんだけど!?

 内心でそう突っ込みながら、俺達は医療部隊の担架に乗せられてフィールドから離れていくのだった。

 


 

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