第36話・もうやるしかないよな……

 魔法使いメイジの俺VS前衛フロントアタッカーの九条さん。

 タイプ相性的に先手を取りたいが、相手が居合いの構えをしているかは難しそうだな。


『それでは、試合開始!』


「ハアァ!」


「やっぱそう来るよな」


 開始の合図と共に黒い雷を纏いながら突っ込んでくる九条さん。

 その動きに俺は短剣を構えつつ、冷静に氷魔法を発動する。


「アイスシールド!」


「ッ! ボクの居合いを軽く防ぐなんてね!」


「ランカーを舐めるなよ」


 持ち堪えられてよかった。

 作り出した氷の盾に居合いの一撃がぶつかり、大きな音が周りに鳴り響く。

 

「ならもっとボクを楽しませて!」


「それはコッチのセリフだ!」


 氷の盾を斬り裂けないと理解したのか、九条さんは体に魔力を纏ったまま高速で動き始めた。


魔法使いメイジの先輩に追いつけるかな?」


「別に追いつかなくても問題ない」


「へ?」


「アイスビット!」


 動きで追いつかないなら魔法で追いかければいい。

 相手を追尾が出来るアイスビットを使い、あちこちに動き回る九条さんを制限していく。

 ただコチラが放った氷の礫が、パリンと次々と砕かれた。


「最初は焦ったけどこの程度なら壊せる!」


「だろうな!」


 このタイミングで切り込んでくるのかよ!

 九条さんは先程以上にスピードを上げて切り込んできたので、俺は体を捻って斬撃をギリギリ回避する。


魔法使いメイジなのに動けるんだね」


「近接戦はだけとな!」


「そうは見えないけど」


 うおっ!?

 切り返しで頬が軽く切られ、少しだけ俺の血が舞う。

 ……わかってはいたが、近接戦闘は向こうに分があるよな!


「チッ! ならこれはどうだ?」


「ぐっ!?」


『ま、魔法名や詠唱をしてないのに魔法が発動した!?』


『これが冷血がトップランカーに入れる理由ですよ』


 コッチは疲れるからあんまりやりたくないんだけどな。

 俺は氷の鞭を複数作り出し、反応が遅れた九条さんを吹き飛ばす。

 ただ彼女も少し顔を歪めながらもすぐに立ち上がった。


「無詠唱なのかな?」


「間違ってはないが少しズレがあるぞ」


「ッ! また面倒な!」


 これで防御はなんとかなる!

 氷の鞭は自由に動かせるので、防御メインに使い射撃魔法で攻める。

 これが俺の戦い方……うん、自分で言っていてビビりな気が。


「たなわけでアイスレイン&アイスボルト!」


「そんなのアリなの!?」


『冷血が連続で詠唱破棄をして範囲魔法を放っている!?』


『高位技術を当たり前のようにしないで欲しいです』


 今回は負けたくないんだよ。

 そんなわけで容赦なく範囲魔法を放つと、流石に避けきれなくなったのか九条さんは少しずつ被弾している。


「こ、これがトップランカー……」


「やり方はともかく新入生トップを圧倒しているのかよ」


「というか一方的すぎないかしら?」


 これくらいしないとランカーじゃないだろ。

 少し余裕が出来たタイミングで観客達の声がコチラに届く。

 その声は大体驚きが多いが、一部は否定的な意見があるので耳が痛くなる。


「余裕そうにしているけどもう勝ったつもりなの?」


「いや、


飄々ひょうひょうとして!」


 うわぁ……。

 さっきよりも強力な魔力放出。

 これは少しマズイと思っていると、九条さんは刀を腰の鞘にしまい屈んだ。


「黒雷の一閃!」


「ッ! まずっ!」


 氷の鞭を使いガードしたのはいいが。

 九条さんが勢いよく突っ込んできて、氷の鞭を破壊したと同時に俺の前まできた。


「ハアァ! 黒雷の鉄拳!」


「ぐっ!?」


 さ、流石に痛いな。

 なんとか氷の盾が間に合ったが、即席だったので砕かれた。

 そのまま威力が落ちた拳がガード上から当たり、後方に吹き飛んでしまう。


『あ、あの冷血に攻撃が当たった!?』


『彼女もやりますね……』


「まだまだ! 黒雷の装衣!」


「ッ!」


 ハッ、マジかよ。

 攻撃を受けたのは久しぶりだな。

 地面に転がるが立て直しつつ、俺は地面にしゃがむ。


「アイスフロア&アイスレイン!」

 

「ええ!? ちょっ!?」


『ええ!? こんなのアリですか!』


『れ、冷血の魔力量なら出来ますが……』


 少し派手だが訓練場のフィールドをスケートのリンクみたいに氷で埋めていく。

 すると九条さんは焦り始めながら高く飛んだので、氷の雨を放ち逃げ道をなくす。


「コイツで、アイスブラスター!」


「ッ!?!?」


 これでどうだ!

 相手が氷の雨を空中でガードしている中、大技であるアイスブラスターを放つ。

 

「……チッ」


 三メートルほどの魔法陣から出てきた氷の砲撃が確実に直撃はした。

 そのまま九条さんは結界の壁にぶつかって爆発したが、煙が上がってまだ見えない…。


「まだ終わったわけじゃないよな」


 ダメージは入っているだろうがトドメには持って行けてない。

 自分の中でそう結論づけていると、バリーンと氷が派手に割れる音が周りに響いた。


「お、おい、あの攻撃を受けても耐えたのかよ!?」


「新入生トップもやばいわね……」


「すげぇ戦いだな!」

 

 やっぱりそうなるよな!

 空気中がバチバチと音が鳴る中、九条さんはボロボロになりながらも嬉しそうに笑っていた。


「こんな面白い戦いを終わらせたくない」


「ハハッ、それは同感!」


 久しぶりに楽しめる。

 そう思いながら俺は頬を緩ませつつ、気持ちを切り替えながら迎え撃っていくのだった。


 

 

 

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