第32話、ジュラックエリアス

 恐獣の広場ジュラック・エリアス・第三層。

 次々と現れる緑肌トカゲだったが、倒し続けると流石に数が減ってきた。

  

「マラソンをやっている気分だな……」


「うーん、どうせなら二人三脚の方がいいわ」


「確かにな! っと、アイス・ランス」


「ホーリー・スラッシュ!」


「「「きゅえっ!?」」」


 これで最後だな。

 緑肌トカゲの群れが壊滅させた結果、ドロップアイテムが大量に落ちている。

 なので違う意味で頭が痛くなるが、互いに体力を使ったので少し休憩していく。


「いきなり不意打ちを仕掛けてくるとはな」


「アタシもビックリしたわ」


「その割には反応してなかったか?」


「襲われたタイミングで体が勝手に動いたのよ!」


 それって反射的に動けてないか?

 まあでも、確か武道の達人は頭で考えるよりも先に体が動くと聞いた記憶が。


「それはすごい事じゃないの?」


「うーん、前にアタシがいたところは騎士団の隊長レベルは大体出来ていたわよ」


「どんだけすごいんだよ……」


「伊達に大国を名乗ってないからね」


 もう突っ込むのが疲れたんだが?

 アイシアと出会って約一週間くらいしか経ってないのに、何年も一緒にいる感覚がある。

 それはもちろん気持ちいいのだが、何かが心の中で引っかかってしまう。

 

「アイシアが前にいた世界ってどんな感じなんだ?」


「ダンナにわかりやすく説明すると中世ファンタジーに魔法技術が追加されたみたいね」


「なにその、わかりやすいが微妙に突っ込みたい説明は……」


「アタシも同じことを思ったわ」


「思ったんかい!」


 アイシアの属性がボケ寄りなので俺が自然と突っ込みになっているような?

 なんか疲れるが、その代わりに楽しいのでプラマイではプラスが大きいのは救いかな?

 自分の中で色々調整していると、アイシアが勢いよく立ち上がった。


「さてと休憩は終わりにして次に行くわよ!」


「いや、次に行く前にやることがあるぞ?」


「え?」


「え? じゃなくて! 地面に落ちているドロップアイテムを拾うぞ」


 確かにこの量を拾うのが面倒なのはわかる。

 ただ回収しないとギルドで換金できないから仕方ないんだよ。

 

「なんかモンスターと戦うよりも疲れない?」


「俺はどっちもどっちかな?」


「フフッ、ダンナもしんどそうね」


「拾う時にしゃがむから腰が痛いんだよ!」


「おじいちゃんみたい」


 失敬な、俺はまだ十七歳だぞ。

 というか数日前の誕生日……うん、あの時を思い出すと恥ずかしいな。

 

「なんか思い出したわね」 


「いや、何でもない」


「そう? でも顔に出ているわよ」


「お、おう……」


 アイシアの手のひらに転がされている気がする。

 なので俺は違う意味で恥ずかしくってしまい、気を紛らわせる為にドロップアイテム拾いに集中していくのだった。


 ーー

 

 恐獣の広場ジュラック・エリアスの第三層にあるボスエリア。

 他のダンジョンと同じく周りには半透明の結界があり、フィールド中央には青い魔法陣が光り輝いている。


「ここのボスはどんな感じかなー」


「遠足気分で入ろうとしてないか?」


「いやだって数日ぶりのボス戦だから楽しみなのよ」


「そ、そうなのか……」


 アイシアさん。

 貴女は鋼鉄の山脈アイアント・マウンテでやったボスRTAをしようとしてませんか?


「さてと、アタシの準備は終わったわよ!」


「お、おう。コッチも大丈夫だし中に入るぞ」


「ええ!」


 さあここのボスは何が出てくる?

 俺はドキドキとしながらアイシアと共にボス部屋に突っ込む。

 すると中央の青い魔法陣が光り輝き、中から博物館で見る肉食の恐竜みたいな相手が現れた。


「ギャオオオ!」


「こっちもうるさいわね!」


 ボスのの大きさは4メートル程で皮膚はオレンジに近い茶色。

 とりあえず仮の名前はオレンジ恐竜でいいか。


「作戦通りアイシアは防御重視で俺が氷魔法で攻めていくぞ!」


「了解! さあ、コッチに来なさい!」


「キュアアァ!!」


 うおぉ、マジでうるさい!

 アイシアがカイトシールドを全面に出したタイミングでオレンジ恐竜が勢いよく叫ぶ。

 その声がボスフィールド内に響き、あまりにもうるさいので俺は耳を塞ぐ。


「くるわよダンナ!」


「ああ! まずはアイスランス!」


「キュアア!?」


 勢いよく突っ込んで来る相手に向けてアイスランスを放つ。

 すると相手の足に氷の槍が突き刺さり、そのまま勢いよく転んだ。


「「……」」


「と、とりあえず安定重視でいくぞ」


「え、ええ」


 見かけ倒しなのか?」

 片足にダメージが入った事でオレンジ恐竜の動きが悪くなった。

 なので俺達は相手の動きに合わせて、反撃や魔法を放つタイミングを見極めていく。

 

「キュアアァ!!」


「ッ! 相手が怒り始めたわよ!」


「だろうな! っと、動きも変わった」


 先程までは物理攻撃が主だったオレンジ恐竜だが、いきなり口から炎のブレスを吐いた。

 その一撃に対してアイシアは腰を落とした後、カイトシールドを前に出す。


「ぎゅあ!!」


「なかなかの衝撃ね!」

 

 余裕そうに防いでない? 

 アイシアの防御力が高いのか、ダメージがほとんどなさそう。

 なのでオレンジ恐竜も固まっておら、そのタイミングで俺は横から氷魔法を放つ。


「アイス・チェーン!!」


「ギャァアグ!?」


「ナイスダンナ!」


「おいぃ!?」


 美味しいところをとられた!?

 このままトドメに持っていきたかったのに、アイシアが片手剣に光の魔力を込めた大技を放つ。


「光天流・Zライトニング!」


「きゅああ!?!?」


「……」


 今回も俺の働きがあまりなかって気がする。

 ただ本来の目的である鍛錬や連携の練習は一応できているはず。

 そう自分の中で理解させつつ、地面に沈むオレンジ恐竜に視線を向け続ける。


「少し苦戦したけど倒せたわね」


「ぶっちゃけ咆哮以外は苦戦してなくないか?」


「うーん、それもそうね」


 カラッとした笑みを浮かべるアイシアが見えない犬の尻尾を振りながら近づいてきた。

 なので俺はヤレヤレと首を振りながら、彼女の頭を撫でていく。


「……幸せだな」


「なんか言ったかしら?」


「いや何でもない」


 自然と出た呟き。

 アイシアと出会うまであまり感じなかった人の温かみ。

 その感触を楽しみながら、次をどうしていくか自分の中で考えていくのだった。

 

 

 




 

 

 

 

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る