第29話・デート中に乱入してくるやつー

 エアンの映画館でコメディ系の映画を見た後。

 アイシアと共にショッピングモール内をブラブラと歩いていると、見知った顔に声をかけられた。


「キリヤさんとアイシア殿!」


「聞き覚えのある明るくてポンコツそうな少女の声は!」


「そう! キリヤさん達のパシリのバクガルッス!」


「貴女、前のゴザル口調はどこにいったのよ」


「あれはキャラ作りなので素はこっちなんスよ!」


 最初はキャラブレしてなかったに……。

 私服姿のバクガルこと爆山さんに出会い、残念さを感じているとアイシアが微妙な笑みを浮かべた。


「なんで声をかけてきたの?」


「も、もしかしてデート中だったスか?」


「見ればわかるわよね」


「すみませんッス!」


 あー、そういう意味でアイシアが怒っているのか。

 彼女の怒りを察したのだが、今回に関しては少し理不尽にも感じる。

 なので俺はアイシアの頭に右手を置いて撫でていく。


「だ、ダンナ?」


「お前の気持ちはわかるけど爆山さんも悪気はないみたいだぞ」


「確かに不運な事故はあるのは仕方ないわね」


「じ、じこ……」


 なんか傷ついているやつもいるような?

 ただ今はアイシアの気持ちを落ち着かせるのが先なので、被害が広がらない範囲で爆山さんには最低限のダメージを負ってもらおう。

 うん、自分でも酷いことを思っている気がする。


「それにパシリって使用人みたいだから気にしなくても大丈夫だろ」


王城実家にいるメイドや執事みたいな感じ?」


「多分そんな感じだと思う」


「な、なんかおかしな方向に行ってないッスか?」


 シャラップ! 

 とりあえず爆山さんは無駄に突っ込まない方がいい。

 俺は彼女の失言にビビりながら、落ち着いてきたアイシアの姿を見てホッとする。


「フフッ、もう落ち着いたから大丈夫だけど撫でるのは続行してね」


「別にいいけどせめて近くのソファに座らないか?」


「それくらいならいいわよ」


「キリヤさん達の関係は理解しているッスけど、口から砂糖を吐きたい気分になりまスね……」


「そりゃ婚約者だからこれくらいはするわよ」


 そういえばいつの間にか婚約者になってない?

 自分の中でモヤモヤするところはあるが、突っ込むと後が面倒になりそうなので今は流した方がいいな。

 そう思っていると爆山さんが、目を点にしながらコチラをチラチラと見てきた。

 

「こ、婚約者ッスか……」


「そうそう! あ、悪いけどドリンク屋でグレープとオレンジのスムージーを買ってきて!」


「いきなりッスか!?」


「あー、ついでにお前の分もコレで買ってきていいぞ」


「ダンナは太っ腹ッス!」

   

 少し多めに渡しておくか。

 とりあえず財布から千円札を二枚取り出して彼女に渡すと、本人は嬉しそうに走って行った。

 その姿にアイシアは少し頬を膨らませていたが、ソファに座って改めて頭を撫でると機嫌を直してくれた。

 

「それでダンナはアイツを庇ってたけど何かあるの?」


「やっぱりバレていたか……」


「露骨だったからね」


 前言撤回。

 アイシアに俺の内心がバレていたみたいなので思わず苦笑いを浮かべる。

 それと同時に彼女からの視線が強くなったので、俺は諦めながら言葉を返す。


「損得的な話で爆山さんはいいパシリになると思うんだよな」


「というと?」


「今回みたいにアイツにも得させると、速攻で動いてくれたからな」


「ふむふむ。でもそれって下の者だと普通じゃないの?」


「それはどうかなー?」


 下の者だって人間だし不満が溜まる。

 そうなった場合は裏切られたり、変なことになる可能性が上がってしまう。

 

「ダンナも思うところはわかったわ。でもアイツのためにアタシのご機嫌取りをするのはムカつくわね」


「それはごめん……」


「フフッ、半分は冗談よ。あ、アイツが帰ってきたわ」


「なら迎え入れるか」


 爆山さんはスムージーを抱えながらにっこりとした笑みで戻ってきた。

 そして俺とアイシアは彼女からスムージーを受け取って、ソファに座りながら飲み始める。


「そういえば爆山さんは一人でエアンに来たのか?」


「今日は個人的な買い物だから一人ッスよ」


「ふーん。その買い物って貴女が右手に持っている紙袋に入っているの?」


「ええ! 新しく手に入れた配信用のDフォンのカバーとかを買ったッス!」


 爆山さんのDフォンはトレントに破壊されたんだよな。

 てか、数日前の出来事なのにここ最近が濃すぎて忘れていたな……。

 ここ数日の濃さにビビっていると、アイシアが勢いよくスムージーをストローで吸っていた。


「そうなると貴女自身の買い物は終わったの?」


「ウチは終わったッスけどアイシア殿は何かあるんスか?」


「なら今から荷物持ちね」


「え、ちょっ!?」


 まあ、そうなるよな。

 雰囲気的に流れはわかったので、俺は黙ってスムージーを飲んでいく。

 とまあ、こんな感じで爆山さんは荷物持ちになったので負担が軽くなった。


「とりあえず頑張れ」


「き、キリヤさん!?」


「さあスムージーを飲んだら買い物を再開するわよ!」


「……マジでか」


 爆山さんドンマイと思っていたら俺も楽できないパターン?

 荷物が分担されたおかげで軽くはなったが、ルンルンなアイシアが追加で服や必要な物をドンドン購入していく。

 そのおかげで最終的には三人で持ち運ぶにはギリギリのレベルの量になるのだった。

 



 


 


 

 

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