第26話・メリットとデメリットの差が…

 黒鉄学園・生徒指導室。

 ソファに座りながら浅川先生の話を聞くが、どうにも容量を得ない。

 というか、暇すぎて眠くなってきたな。


「お前らに頼みたい担当教官ってのは、優秀な生徒がそうじゃない生徒や新人へ指導をする事だな」


「それって、落ちこぼれや新しくクランに入った奴らに色々教える事なの?」


「そうそう! だからわたしのクランへ来てくれないか?」


「話が繋がってないし、なんか勧誘になってない?」


「そりゃ優秀な生徒を囲いたいのは当たり前だろ!」


 開き直りやがったな!?

 しかもドヤ顔もしているし、浅川先生はほんと顔の皮が厚いな。

 ここまで来たら呆れを通り越して、半笑いしているとアイシアが自分の額に右手を置いた。


「悪いけどアタシ達にメリットはあるの?」


「メリットか……。まずは他のクランに勧誘はされなくなるな」


「それメリットじゃなくない?」


「そうか? 他のクソうざい奴らへの言い訳が出来るんだぞ」


「間違ってはないけど言い方ァ!?」


 ストレートに言いやがったな……。

 ここまで来たら教官先生ではない気がするので、思わず突っ込んでしまう。

 ただ突っ込まれた本人はカラカラと笑いながら言葉を返してきた。


「失言なのはわかるが、わたしもストレスが溜まっているんだよ!」


「否定はしないわ。でもアタシ達が先生のクランに入る理由が薄いわよ」


「確かにな……。なら追加でお前ら専用の部屋を用意するのはどうだ?」


「ッ!」「……」


 アカン、アイシアの目が光ったぞ。

 このままだとクランに所属させられる流れになる気がする。

 そう思ったので、少し焦りながら口を開く。


「そもそも先生のクランに入るじゃなくて担当教官のお話ですよね」


「そうだが勧誘できるならやっておきたいんだよ!」


「身も蓋もない! ただ俺は入る気はないですよ」


「そう言うと思って逃げ道を用意したぞ」


「へ?」


 さらに嫌な予感が……。

 ここぞとばかりに畳み掛けて来る浅川先生を警戒していると、向こうは追加の条件を提示してきた。


「別に。ただお前らの力を貸して欲しいだけだ」


「ッ! そうきますか……」


「悪いが使える物は使うぞ」


「それだけアタシ達に価値があると考えているのね」


「もちろん! あ、訓練ドームの壁に大穴を開けたもな」


 アイシアの情報まで漏れていたか。

 いや、担任の教師だからある程度は知っているのは当たり前。

 ただそうなると取引ではコチラの方が不利だよな……。


「アタシが大穴を開けたのは有名になっているの?」


「逆に有名にならないわけないだろ!」


「ごもっとも! ただ話がズレるので置いといてください」


「本来はもっと訳とか聞きたいが時間がないから仕方ないか」


「時間がないってどういうこと?」


 浅川先生の真顔を見て嫌な汗が流れる。

 この雰囲気的に何か地雷がありそうなので、俺は覚悟しながら耳を傾けていく。


「それは……」


「五月の頭にあるゴールデンウィークGWに行われる新入生大会が目的ですか?」


「ッ! やっぱり気づいていたか!」


「気づかない方が問題では?」

 

 このタイミングでクランに勧誘する。

 その理由を考えた結果、一番高い可能性がゴールデンウィークGWに行われるクラン大会・一学期の部。

 学期ごとに一回あるクラン大会では、結果によってランクポイントが大きく変動する。


「それで先生の狙いはクラン大会で上位を狙う事なの?」


「もちろん上位を狙いたいが」


「なんでもったいぶっているんですか?


「それは……。じ、実は本家から入学してきた奴がいてな」


 あー、なんとなく察した。

 担当教官は建前で実際は職権濫用じゃないか!?


「もしかして表向きはクラン大会狙いだけど本当は……」


「ああ、そいつの担当教官を任せたい」


「マジの職権濫用じゃないですか!?」


 そんなことをやってもいいのか?

 思わずそう突っ込んでいると、ソファに座る浅川先生がいきなり深く頭を下げてきた。


「教師失格なのは自覚している。ただアイツを、夢乃を鍛えて欲しいんだ!」


「身内の稽古ならアナタがやればよくない?」


「わたしが出来たらやるさ! でもわたしは教師の身で一人の生徒だけを見るのが難しいんだよ……」


 というか、浅川先生の実家は名家の分家なのか?

 その辺を初めて知ったので違う意味で驚いていると、隣に座るアイシアがヤレヤレと首を振った。


「それでアタシ達に話を振ったのね」


「ほんとうにすまない」


「ハァ……。どうするダンナ?」


「うーん、本人に会わないと話が進まないだろ」


「確かにダンナの言う通りかもね」


 頭から否定するのはあまり好きじゃない。

 まずは本人と会って性格の相性や状況の確認をしたい。

 そう伝えると、浅川先生はガバッと頭を上げて目をパチクリさせた。


「ほ、本当にいいのか?」


「あくまで確定ではないですが前向きに検討します」


「アタシもダンナと同じよ!


「た、助かる!」


 ほんと浅川先生って感情が濃いな。

 顔に出やすい相手を見ながら、俺のアイシアは思わず苦笑いを浮かべる。

 すると……。


「いやー、しっかしあの血も涙もなくて容赦のないお前が婚約者となら反応がよくなるとはな!」


「へぇ……。そんな事を言うならやめますよ」


「すまなかった!」


「変わり身が早いわね!?」


 ギャグのノリみたいになっているが。

 浅川先生の失言に突っ込みつつ、さっき以上に疲れた気持ちになってしまうのだった。




 

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