第25話・なんで呼び出しを喰らったんだ?

 四月八日次の日、黒鉄学園・第II戦闘学科二年三組の教室。

 朝のホームルームで担任の女教師・浅川先生から俺を含むクラスメイト達へある事が伝えられた。


「今日から学園ランク戦が再開されるから気合いを入れて臨めよ」


「……ランク戦」


 浅川先生の発言に頭を抱えてしまう。

 てか、クラスメイトからの視線が痛く感じるのは俺だけだろうか?

 

「何名か頭を抱えてますが、わたしの出世のために頑張ってくれ」


 このクソ教師が!

 めっちゃいい笑顔で俺の方を見てくるなよ!

 こうなったら適当に負けて学園ランクを落とした方がいいか?

 自分の中で負けた感じがしていると、朝のホームルームが終わっていく。


「顔色が悪いけど大丈夫?」


「大丈夫ではないがなんとか持ち堪えた」


「無理になったらアタシに言ってね」


「お、おう」


 隣の席に座るアイシアからの優しげな笑みと同時に、一部のクラスメイトからの嫉妬が籠ったこもった視線が飛んでくる。


「冷血め……。学園ランク五位だからって金髪美少女とイチャイチャして羨ましい!」


「同じく!」


「あれ? 今まで気にしてなかったけど冷血ってかなりのイケメンじゃない?」


「確かに! でもまだ近づくのは難しそうね」


 なんか色々聞こえて来るんだけど!?

 アイシアと一緒にいるおかげで明らか目立っているような?

 いや、去年よりは嫉妬の視線が減ったからマジではあるか。


「ダンナ?」


「いや、なんでもない。それよりも一限目への準備をしないとな」


「そうねー」


 無駄に気にしても仕方ない。

 自分の気持ちを落ち着かせるように、アイシアと共に適当な雑談をしていく。

 ただこの時、ある人物の呟きが耳に入ってしまう。


「オレだって、力があればチヤホヤされるのか?」


「ん?」


 どこからともなく聞こえた男子生徒の声。

 俺はその一言が頭の中に残り、午前の授業の間でも気になってしまうのだった。

 

 ーー


 黒鉄学園にある生徒指導室。

 今日は午前の授業しかないので午後はフリーと思った矢先、何故か俺とアイシアは浅川先生に呼ばれた。


「突然呼んですまない」


「そう思うなら呼ばないでくださいよ」


「ハハッ、ごもっともな言い分だな」


 一年去年の担任なら少しは俺の性格を知っているよな。

 ただ等の本人である浅川先生は微妙な苦笑いを浮かべ、その反応にアイシアは不服そうに頬を膨らませる。


「それで貴女の要件は何かしら?」


「実はだな……。アタシが教官として所属しているクランを知っているか?」


「特に興味がないので知らないです」


「アタシも編入したばかりだから知らないわ」


「だ、だろうな」


 話の狙いが見えてきたぞ。

 この雰囲気的に去年もあった勧誘アレの流れに見えるので俺はため息を吐く。

 

「先に言いますが勧誘はお断りしますよ」


「お前はわたしの事をセールスマンと勘違いしてないか!?」


「大体その辺だと思ってますれ


「ひ、ひどいな!?」


 実際に勧誘を断っているのにしつこかっただろ。

 今までにされた勧誘の中でもわりかし酷い方だったので、渋い顔になっていると。

 チラッとコチラを見たアイシアが鋭い視線を浅川先生に向けた。


「一つ言うけどダンナにあまり迷惑をかけないでね」


「っ!? は、はい」


「フフッ、わかってくれてよかったわ」


 なんかアイシアから冷たい空気が放たれたような? 

 アイシアから放たれた冷気っぽい何かをを浴びた浅川先生は、冷や汗を流しながら敬礼。

 若干震えながらテーブルに置かれたお茶を飲んだ。

 

「な、なあ氷室。お前の彼女は色んな意味で濃くないか?」


「先生、アタシは彼女じゃなくてダンナキリヤの婚約者よ」


「……ま、マジか」


「なんで泣いているんですか?」


「わ、わたしだって! 高スペック三高のイケメンと結婚したいんだよ!!」


 今度は八つ当たりかい!

 というか生徒指導室に連れてきた生徒に言う話じゃないだろ!?

 涙目になっている浅川先生に突っ込みたくなっていると、アイシアの呆れたように冷めた目になっていた。


「先生の恋愛なんてどうでもいいので本題をお願いするわ」


「バッサリ切らないで!?」


「いい加減めんどうなので早く言ってください」


「氷室まで……。アナタ達は人の心がないの?」


「人の心はあるけど少なくとも先生には向けないです」


 スパッと言ったなー。

 アイシアのトドメにガチ泣き寸前で硬直する先生。

 その姿が面白くて笑いかけたが、流石に可哀想なので強引に話を変える。


「それで俺達を呼んだ理由が勧誘じゃないなら何でしょうか?」


「え、あ、オホン! 改めてお前らを呼んだ理由なんだが、わたしが所属しているクランの担当教官になって欲しいんだよ」

 

「生徒教官? それってどんなのかしら?」


「あー、ルーンベルクは編入生だから知らなくても仕方ないか」


「ええ! だから説明をお願いするわ」

 

 担当教官は俺もあまり知らないんだよな。

 ただタイミング的にもちょうどいいと思ったので、とりあえず耳を傾ける。

 そのタイミングでアイシアからチラッと見られ、その時にウインクされたので読まれているみたいだったが。


「まずルーンベルクは学園クランを知っているか?」


「最低限はダンナから聞いているけど先生から聞いてもいいかしら」


「もちろん! には新入生や編入生はクランと呼ばれる団体チームに所属できるんだよ」


「へえー、でもダンナは所属してないのよね」


「最初はクランに入りたかったけど勧誘者が明らかなマウントをとってきた奴だったから避けたんだよ」


 よくわからないマウントをとって来る奴ら。

 そいつらの言い分がムカついたので、断ったら調子に乗っていると絡まれた。

 なので言葉と物理でフルボッコにしたら、悪目立ちしたからいい記憶があまりないんだよな。


「わたしの勧誘がもう少し早ければ氷室を手にいられたんだよな……」


「その辺は結果論になるので元の話に戻ってください」


「お、おう。それでクランには個人ソロとは別のランキングがあって、上を目指せると色んな特典があるんだよ」


「特典に関しては前にダンナから聞いたわ」


「ならこの辺の話はいらないか」


 ただまあ、クランに入るメリットとして特典は大きな物にはなるんだよな。

 そう思うが人間関係が苦手な俺には向いてないので、やっぱりクランに入るのは難しく感じる。

 

「話をまとめると、ダンナとアタシにそのクランに入って欲しいの?」


「希望はそうなんだが今回の話は生徒教官として手を貸して欲しいんだよ」


「だから担当教官って何なの?」


「今から説明するから焦るな」


 説明を聞きたいんじゃない、早く帰りたいんだよ。

 ここのズレに内心で突っ込みながら、俺とアイシアはニコニコ笑う浅川先生を睨みつけるのだった。

 

 

 

 

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