第18話・大食いなのは知っていたがどれだけ食べるんだよ……。

 四月七日のお昼時。

 黒鉄クロガネ学園の入学式が終わり、俺とアイシアは昼ごはんを食べる為に食堂に向かった。


「ここにいる人達の目がギラついているわね」


「優秀そうな新一年生をスカウトして自分の学園クランに入れたいんだろ」


「事前知識はあるけど学園クランってなんなの?」


「うーん、俺も所属してないから細かくはわからないんだよな……」


「ダンナの性格的にはそうよね」


 何回か誘われた事はあるがあまり入りたくなかったんだよな。

 てか明らかに上下関係やマウントの取り合いが多そうだったので、入りたくなかったが本音だが。


「なんか刺さったが置いといて。学園クランは個人ランキングとは別のランキングがあって、上位を取れたら学園から報酬や補助が出るんだよ」


「報酬はお金として補助は何があるの?」


「例えば製造学科への作成依頼を優先的に行えるたり、必要な物資を融通してもらうとかだな」


「それって補助じゃなくて優遇よね」


「そうとも言うな」


 味噌カツ定食のカツを食べつつ。

 次に話す言葉をまとめていると、頭が痛くなったのかアイシアは額に右手を置いた。


「ランクのせいで冒険者は実力主義が色濃いのね」


「その辺がなかなか面倒なんだよな」


「同じく。てか、一部の生徒がチラチラとコッチを見て来てない?」


「そりゃ俺達はクランに所属してないフリーだから目立つんだろ」


「あー、理解したわ」


 ついでにアイシアは編入生なのと、おとといに訓練場の壁に大穴を開けた張本人。

 これだけあればアイシアも目立つのは確定だし、今の状況もおかしくないよな。


「まあでも、チラチラと見られるのは気になる」


「なら食堂ごと吹き飛ばす?」


「流石にそれはやめてくれ」


「フフッ、冗談よ」


「……冗談でも俺の心臓がバクバク言っているんだけど?」


 じ、冗談でよかった。

 アイシアはニコニコしながらミックスフライ定食のご飯特盛を食べている。

 この状況でやばい発言をされるとは考えてなかったので、不意打ちを喰らった感じになった。


「やっぱりダンナをからかうのはいいわね」


「ほどほどにしてくれよ……」


「もちろん。あ、ご飯を食べた後はどうするの?」


「ろ、露骨に話を変えたな!?」


「あらそう?」


 話題転換のやり方が下手か!

 笑顔で誤魔化すアイシアに突っ込みながら、俺は落ち着くためにお冷を飲む。

 そしてクールダウンしたタイミングで、改めてアイシアへ言葉を返す。


「とりあえず黒鉄学園の敷地内に回ってノンビリしたいな」


「あれ? 去年の貴方って授業が終わったら速攻で訓練場に向かってなかった?」


「そうなんだけど……」


「何か思うところがあるのね」


 単純に訓練場に行きにくい。

 おとといアイシアがドームの壁に大穴を開けたので、担当の先生からマークされている感じがするんだよな。


「ならアタシに学園内を案内してよ」


「ん? それくらいなら問題ないぞ」


「やったわ! それでどこから回るの?」


「まずは戦闘学科に関係するところからかな?」


「ふむふむ。それは楽しみね」


 今は互いに学生服なのでガッツリ戦闘する気はない。

 てかここ最近のイベントでの消耗が酷あるから、すこし休憩したいのが実際のところ。


「とりあえず互いに食べ終わったし移動するか?」


「ええそうね! あ、コンビニでデザートを買ってもいいかしら?」


「特に問題はないが持てる範囲にしてくれよ」


「もちろんよ!」


 ワクワクした感じで笑うアイシアに突っ込みつつ。

 俺達は食器が乗ったトレイを返却口に戻した後、彼女の要望で食堂近くのコンビニに寄っていく。


「……一万円を超えたな」


「そうねー。まあ支払い以上に以上稼げば問題ないわよね」


「ま、まあ、そうなのか?」


 店員さんの無言の圧力は怖いんだけど?

 会計が一万円を超える中、コンビニ店員さんが真顔でコチラを見てくる。

 その姿に少しだけ恐怖を覚えながら、財布からお金を取り出して会計を終わらせるのだった。


 ーー


 黒鉄学園の敷地内にある中庭。

 近くには学園が管理しているダンジョンがあり、探索許可を貰っている生徒達が多く集まっていた。


「中庭にダンジョンの入り口があるのは違和感があるわ」


「まあな。でも人が多いからモンスターの取り合いになるんだよ」


「ふーん。それだからダンナは都市内のダンジョンに入ってたのね」


「ソユコト。まあ、学園の試練アカデミアスには何回か潜ったことはあるぞ」


「ダンナってある意味では自由すぎない?」


 そりゃ元ボッチだぞ。

 誰かに縛ららわけでもなく、ダンジョン探索許可証を持っている。

 なら潜ってお金を稼いだほうが良く感じるんだよな。


「自由って言われてもな……」


「なんか心に刺さってない?」


「ちょ、直撃はしてないから多分大丈夫だ」


「そう? ならよかった……いや、よくないわね」


 ベンチに座りながら胸を押さえる俺と少しアタフタしているアイシア。

 互いにダメージを喰らっている中、敷地内にあるダンジョン・学園の試練アカデミアスの入り口近くで怒鳴るような大声が聞こえてきた。


「お前支援サポート科のくせに文句を言うのか?」


「そんな! 僕は質問をしただけなのに……」


「お前らに質問権なんてあると思うのか?」


 視線を向けるとたまに起きる問題が発生。

 内容的には戦闘科の二年が一年生に詰めかかっているみたいだ。

 しかも一年生の方が支援サポート科みたいで、立場的に不利な状況みたいだな。


「どうするのダンナ?」


「問題が大きくなったら警備員が止めるだろ」


「確かに……」


「納得が出来ないのはわかるが、状況を判断する方が先なのは理解してほしい」


「フフッ、ダンナもアタシの性格をわかってみたいね」


 俺は自分の身が可愛いのであまり強くは突っ込まない。

 ただアイシアは正義感が強いのか、厄介事に首を突っ込みやすいタイプに見える。

 そこの差を実感しながら、俺達は問題が起きているダンジョン近くまで向かうのだった。

 






 

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