第16話・炭鉱で金策は常識だよねー

 訓練場のドーム壁に大穴が開いた次の日。

 俺とアイシアは微妙な気分を変える為に鉄が多く取れるダンジョン・鋼鉄の山脈アイアン・マウンテの第一層に来ていた。

 

「草芽の迷路みたいに自然が満載じゃないのみたいね」


「鉄が取れる場所だから岩が多くなるんだろ」


「あー、それなら理解できるわ」


「それはよかった」


 ただ、少しきついな。

 ダンジョン前にあるギルド出張所で荷台を借りれたので、若干デコボコした地面を気にしながら引っ張っていく。

 まあ、力持ちのアイシアのおかげで楽なのはありがたいが男として少し悲しくなってしまう……。

 

「ん? 何かあったの?」


「いやなんでもない。それよりも鉄を集めにいくぞ」


「ええ! この荷台がいっぱいになるまで積むわよ!」


「あまり乗せすぎると持ち帰るのが大変なんだが……」


「最悪アタシが背負うから大丈夫よ」


 背負うってドユコト?

 確かにアイシアが力持ちなのは知っているが、鉄が山程乗った荷台を背負って?

 自分の中で色々と不思議に思っていると、アイシアが何かを見つけたのか一つ頷いた。


「モンスターを見つけたわ」


「この辺の雑魚は基本的に無視で大丈夫だぞ」


「そ、そうなの?」


「ドロップアイテムもあまり良くないからな」


 第一層に現れるのはバランスボールくらいの大きさに岩肌を持つストーンボール。

 このモンスターは防御力が高く、倒すのに一苦労するのにドロップアイテムがしょぼい。

 なので鋼鉄の山脈アイアン・マウンテに来る冒険者の大半は襲われない限りは基本的にスルーしている。


「でもダンナ、あのストーンボールは銀色に光ってないか?」


「……前言撤回。レアモンスターっぽいし倒しておくか?」


「わかったわ! ホーリー・ランス!」


 薄々予想していたがアイシア貴女はやっぱり光魔法が使えるんだな。

 こうなったら俺の存在感がなくなるので、影が薄くならないようにしないとな。

 そう思いながらもアイシアが放った光の槍がゴロゴロと転がっていた銀色のストーンボールに直撃した。


「すとっ!?」


「変な断末魔ね」


「そ、そうだな……」


 どうやって言葉を返せばいいんだ?

 ま、まあ、とりあえず色違いのストーンボールを倒したので、荷台をアイシアに任せてドロップアイテムを拾いにいく。

 するとオレンジ色のビー玉みたいな物が落ちていたので、俺は思わず瞬きしてしまう。


「え、えっと……」


 とりあえずさっさと回収しよう。

 俺は周りに見られてないことを確認してオレンジ色のビー玉を含むドロップアイテムを背負っている鞄の中に入れていく。

 そして足早にアイシアの元に戻ると、彼女は不思議そうに頭を傾けた。


「アタシと話したいのはわかるけど焦りすぎじゃないかしら?」


「確かにアイシアと話したいのはあるけど、色違いのストーンボールが落としたドロップアイテムがやばかったんだよ」


「その口調的に何か気になる物が落ちたのね」


「まあな……」


 アイシアを召喚した件といい。

 いきなりドロップ運が良くなっている気がする。

 俺は運がマイナス面に振り切った時の恐怖を感じつつ、色違いのストーンボールから回収したオレンジのビー玉をアイシアに見せる。


「これってスキルオーブかしら?」


「多分……。ただ鑑定してないからなんのスキルが入っているかわからないんだよな」


「でもスキルオーブ自体はコッチの世界でも高く売れるのよね」


「相当なクソスキル以外なら」


「この中に入っているスキルが楽しみね」


 おおう……なんか冷たい感じがしたぞ。

 スキルオーブは人が飲み込むと新しいスキルを得られるレア物。

 ただ飲み込んでも本人の適正じゃない場合、スキルが得られないので注意が必要なんだよな。


「ダンナはこのスキルオーブを売る気なのかしら?」


「中に入っているスキル次第としか言いようがないな」


「それもそうね」


 カラカラと嬉しそうに笑うアイシア。

 俺も彼女の笑みを釣られながらスキルオーブを鞄の中に戻していく。

 ただこの時、手に入れたスキルオーブのせいで大きな問題に巻き込まれるとはこの時は知る由もなかった。


 ーー


 鋼鉄の山脈アイアン・マウンテは基本的に採掘系の冒険者が多く集まるダンジョン。

 なのだが、俺のアイシアは鉄が取れる採掘場を無視して奥に向かっていく。


「エリアボスの結界をみっけ!」


「おおう……。やる気満々だな」


「もちろん! あ、今回は魔法攻撃メインの方ががいいのよね」


「武器的にそうだな」


 アイシアの武器は片手剣なのでエリアボスとの相性があまり良くない。

 なので今回は魔法メインで戦う事を事前に決め、台車をエリアボスのフィールド近くに置いて結界の中に入っていく。


「さあ、今回のボスはどんな感じかな?」


「そんなに喜ぶ事なのか?」


「ええ! 歯応えがあるならさらにいいわね!」


「前も似たセリフを聞いた気がするんだけど!?」


 数日前に草芽の迷路でボスラッシュをした時も言ってなかったか?

 俺はノリノリで右腕を回すアイシアに突っ込んでいると、エリアの中心にある青い魔法陣が光り始めた。


「ゴオォ!」


「なんかゴーレムっぽいわね」


「そりゃそうだろ……」


 今回現れたのは第一層の通常ボスの鉄の人形アイアント・ドール

 見た目は二メートル程ののっぺらぼうだが、体が鉄で作られているので少しだけ厄介なボスモンスター。


「とりあえず魔法攻撃するわね!」


「じゃあ俺も、アイス・ランス!」


「ホーリー・ランス!」


「ッ!?!?」


「「え?」」


 氷と光の槍・計十本が鉄の人形に直撃した結果。

 鉄の人気は粉々になっていき、結果的に紫色の煙になって消えていくのだった。

 

「ねえダンナ?」


「なんだいアイシア?」


「エリアボスなのに弱すぎない?」


「それは俺も思った」


 前に来た時はもう少し苦戦した記憶がある。

 ただ今回はアイシアとの連携魔法で瞬殺してしまったので、エリアボスが弱く見えてしまう。


「うーん、考えるのは後にしてエリアボスRTAを始めるか」


「そうね!」


 第一層とはいえ二人でエリアボスを周回するなんて自分でも狂っている気がする。

 ただアイシアと一緒にいると不思議と出来る気分になるので、次のボスが現れるまでにドロップアイテムを回収していくのだった。

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