第15話・予想内の出来事と予想外の出来事

 試験内容は戦闘学科の特待生二人との模擬戦なのだが、アイシアの意向で一対二の対戦になった……。

 

「おれ達を舐めているのか?」


「さあね? でも貴方達じゃアタシには勝てないわよ」


「なんですって!」


 アイシアの煽りを聞いた女子特待生は訓練用の薙刀を軽く振り回した後に切先を向ける。

 対する男子特待生はイラっとしながらも片手剣と盾を構えた。


「高等部ランカーのおれ達を蹴散らせる力がお前にあるかどうか試させてもらうぞ」


「やる気満々ねー。まあでも、勝つのはアタシよ」


「ッ! ほんとうに頭が来る女ね!」


 ギャアギャアとうるさいな。

 アイツらもカフェの時のイキリと同じに見えてきたので少し不快だな。

 そう思いながらフィールドを見ていると、アイシアが腰にかけている片手剣を勢いよく引き抜いた。


「アタシも準備運動をさせてもらうわね」


「お、おう。わかった」


「ちなみに結界とけ貼らなくてもいいの?」


「まだ試験ではないが一応お願いしておくか」


 アイシアの呟きに郷田先生が答えた後、そのままポケットから取り出したスマホでどこかに連絡。

 その結果、フィールド部分に半透明なバリアが形成された。


「これで少しだけ本気が出せるわね」


「あ、ああ! 魔法も使えるから人に向けなければ大丈夫だぞ」


「へぇ……。ならご自慢の結界の耐久力を試させてもらうわ」


「え、ちょ!?」


「なあぁ!?」「きやぁぁ!?」


 あ、これはやばい。

 アイシアが魔力を放出し始め、その余波を受けた郷田先生達は軽く吹き飛ぶ。


「さあいくわよ! 光天流・クイーンオブタクティカル!!」


「「へ?」」


 アイシアが本気で魔力放出をして放った一撃。

 片手剣に纏った色濃い魔力は光属性に変わり、大砲のようなビームがドームの結界を突き破り壁に大きな穴を開けた。

 ……どうしようコレ?


「は、はい?」


「え? あたし達こんな化け物と戦うの?」


「……とりあえず戦闘試験は合格にしておこう」


 結論。

 戦闘せずに戦闘試験が合格になった。

 うん、アイシアが強いのはわかっていたがさらに情報修正しないとな。

 俺はドームに開いた大穴へ死んだ魚のような視線を向けるのだった。

 

 ーー


 壁抜き事件が起きてから数時間後。

 案の定、多くの先生や生徒が野次馬みたいに集まっており、俺達は観客生の椅子に座りながら大穴が開いた壁から目を逸らす。


「もしかしてやりすぎた?」


「やりすぎであるが、確認自体はしてたし大丈夫じゃないか?」


「ならよかったわ」


「いやいや!? 明らかにアウトッスよ!」


 俺も内心では爆山さんの意見に賛成だよ。

 ただ訓練中の事故なのとドームはともかく人員的には大きな問題ない。

 なら後は責任者に問題を押し付けて逃げるのが一番だろ。


「爆山さん、これなんだと思う?」


「えっと、ボイスレコーダーッスか?」


「そうそう。この中にはカフェで絡まれたやつらの声以外にもある物が入っているんだよ」


「ま、まさか! キリヤさんは鬼畜ッスね!」


「ハハッ! 自分で言っていて性格が悪いな……」


 最初は気を紛らわせるために笑うが、俺の背中は冷や汗がダラダラ。

 と言うか、正直かなりやばいのは理解できるので帰りたいんだけど?

 俺は内心で焦りまくっていると、状況管理をしていた先生が笑顔……いや目が笑ってない顔でコチラに近づいてきた。


「これ程の大きな問題が入学式前に起きるとは思ってなかったですよ」

  

「アイシアに本気でやれと言ったのは学園側ですよね」


「ッ! そこは把握してますが明らかにやりすぎですよ!?」


「あ、はい」


 確かに状況的には狭間先生のおっしゃる通りなんだよな。

 七三分けで黒縁メガネをかけている三十代後半くらいの男性教師こと狭間先生が顔を真っ青にしている。

 というか一年生去年の学年主任をやっている時よりもげっそりしている気が……。


「事故なのはわかりますがドームに大穴を開けなくてもよかったのでは?」


「ドームに穴を開けた理由はアイシア当人が説明します」


「ん? ああ、アタシが説明すればいいのね」


「えっと? なんでこの状況でキリヤさんの腕に抱きついているんスか?」

 

「ダンナとアタシは一心胴体だからよ!」


 確かに一心胴体は間違ってない。

 ただ今の状況で満足そうな表情をしているアイシアに抱きつかれると、ヘイトが集まるような?

 しかも今の発言で狭間先生の目が点になったし、口も大きく開いた。


「か、彼女を編入させても大丈夫なんだろうか?」


「多分なんスけど、キリヤさんと一緒にいる時はまだ安定していると思うッスよ」


「氷室君と離れ離れになる方が問題なのですね」


「付き合いは短いッスけどそんな感じがしまス」


「け、検討しておこう」


 汗がダラダラな狭間先生。

 その姿はかわいそうに見えるが、原因を作ったのはこっちなので下手な事は言えない。

 なので適当に黙っていると、状況整理が終わったのか整備班のリーダーがコチラに近づいてきた。


「一通りの確認が終わりました」


「ありがとうございます。それで範囲の問題はどうなってますか?」


「大穴が開いた場所は完全に貫通しているのと、資材の一部が外に落ちてますね」


「学園内にいる人達への被害はどうです?」


「人への被害はほぼないですね」


 ホッ……。

 外にいる人達への被害がほとんどなくてよかった。

 てか入学式前で人が少なかったのが幸いしたかもしれないな。

 そう思いながら後の状況を整備班のリーダーさんから聞いていくのだった。

 

 

 

 

 


 

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