第14話・一方的にボコられているのが可哀想に見えてきた
お昼時。
筆記試験が終わったアイシアと合流……したのはよかったが。
玄関ホールから勢いよく出てくるアイシアを見て思わず冷や汗を流す。
「ダンナー!」
「え、ちょっ!?」
「少し疲れたし癒してもらうわよ!」
「昨日も見たッスけど仲睦まじいッスね」
いつもの鎧装備だから抱きつかれるとクソ硬いんだけど!?
ただ満足そうに抱きついているアイシアを見て、俺は苦笑いを浮かべながら頭を撫でていく。
「最近の若者は元気があっていいな!」
「なんか暑苦しいッスね」
「暑苦しいのはオレの特徴だから慣れてくれ!」
「わ、わかったッス……」
爆山さんが明らか戸惑っているな。
まあでも郷田先生は悪い人ではないから戦闘学科の生徒からは人気があるんだよな。
「郷田先生、これでアイシアの筆記試験は終わりですか?」
「ああ。ただ午後の戦闘試験は忘れるなよ」
「もちろんよ!」
俺を抱きしめたままアイシアは獰猛な笑みを浮かべる。
その姿に郷田先生は満足しながら校舎の中に入っていく。
「さ、さてと。これから昼飯でも食べにいくか?」
「ええ! 今日もガッツリ食べるわよ」
「ウチもお腹が減ったからちょうどよかったッス!」
とりあえず学園内にある食堂の方が良さそうだな。
自分の中である程度考えていると、抱きついていたアイシアが抱きつきをやめて俺の右手を取った。
「さっさといくわよ!」
「わ、わかったから引っ張るなよ……」
「キリヤさんも苦労しているッスね」
「それは言わないで」
振り回されるのも新しい感覚なので悪くない。
今までにない刺激に楽しみながら、アイシアに振り回されるように俺達は学園内にある食堂に向かっていくのだった。
ーー
昼休憩を挟んだ後。
黒鉄学園内にあるドーム状の訓練所内でアイシアの試験を受け持つ相手が現れた。
「こんな時期に編入生が来るなんてね……」
「まあでも、ギルドからの依頼だから仕方ないだろ」
「それはわかるけど特待生だからっていいように使われてない?」
「ハァ……。ならさっさと試験を終わらせるぞ」
「もちろんよ!」
どっかで見覚えのある奴らが出てきたな。
黒鉄学園の特待生は能力が優秀な生徒への補助制度だが、その分使いっ走りをさせられる。
なので俺は受けてないが、奥から現れたヤツらは受けているみたいだな。
「高等部の上位ランカー二人が現れたッスね」
「知っているのか?」
「ええ……。逆にキリヤさんは知らないんスか?」
「あんまり覚えてないな」
「そ、そうなんスか……」
二人が来ているジャージの色的に同い年なのはわかるが。
というかガチ装備のアイシア相手に防刃ジャージで挑む二人に合掌したくなるな。
「とりあえずオレ達の相手は、なんかガチ装備で来てないか?」
「どこかのお嬢様みたいね」
「お、おう……。なんか嫌な予感がするぜ」
「そう? あたしは目に物見せたくなるわ!」
二人の反応がだいぶ違うな。
そう思いながらフィールドに現れたアイシアと審判っぽい郷田先生は不敵に笑った。
「とりあえず手抜かずにやればいいのね」
「もちろん! てか本気でやってくれ」
「本気? 本当に本気を出していいのね」
「当たり前だろ! てか、本気を出さずに試験を突破しようなんて思っていたのかよ……」
「まあね!」
アイシアは余裕そうに頷く。
その姿に郷田先生が苦笑いを浮かべており、こちらも曖昧な雰囲気になっている。
そんな中、アイシアが俺の方に視線を向けて手を振ってきた。
「アタシの勇姿を見ていてねー!」
「おう、思いっきりやってこい!」
「それってこの建物を壊してもいいの?」
「あ、その辺は郷田先生に聞いてくれ」
「サラッと責任転換したッスね!?」
いやだって修理費とか払いたくないもん。
観客席で俺の隣に座る爆山さんに突っ込まれたので、思わず返しの言葉が頭の中に浮かぶ。
「そりゃ学園の試験だし向こうが払ってくれるだろ」
「確かにそうかもッスね……」
なんか呆れられてない?
俺は郷田先生側に聞こえない範囲の音量で喋りつつ、ジト目を向けてくる爆山さんから目を逸らす。
すると特待生側の二人がこっちに気付いたのか、いきなり指を刺してきた。
「ッ! な、なんで冷血がいるんだよ!」
「へっ!? も、もしかして今回の試験にアイツが関わっているの?」
「わからんが去年の雪辱を果たしてやりたいぜ!」
「それはあたしも同じよ!」
うわぁ……。
なんで俺の方に殺意マシマシな視線を向けてくるんだよ!
「キリヤさん……。一年生の時は何をやっていたんスか?」
「それって戦闘関係の事か?」
「もちろんッス! てか話の流れ的に違う話題はないッスよね!」
そう言われてもな……。
戦闘学科の訓練は基本的にタイプごとに分かれてたから、前衛っぽいアイツらへの記憶はないんだよな。
まあでも、ランク戦や戦闘祭の時とかに戦っていたかもしれないか。
「郷田先生! この試験が終わったら冷血と戦わせてください!」
「ほう……。それは面白そうだな!」
「ちょっ!? あたしだって冷血を倒したいのに!」
「あら? アタシじゃ役不足かしら?」
「「ッ!?」」
おおう……アイシアさんがオコですね。
フィールドにいるアイシアを舐めた発言をする二人。
彼らに対して強い威圧感を放つアイシアに気付き、特待生達はバックステップを踏んだ。
「ただ今回は彼女の試験だしアイツと戦うのはまた別の機会でな」
「わ、わかりました」「は、はい」
「この程度の威圧で引くのね」
「かなり怖かったッス……」
アイシアが不服そうな気がするな。
まあでも、これで戦闘試験が始まるっぽいので俺と爆山さんは観客席からアイシアを応援するのだった。
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