第13話・インパクトがある美容師さんが出てきた!?

 爆山さんに絡んできた芸能学科の奴らを追い返した後。

 なぜか彼女が嬉しそうにコチラを見てきており、俺が見返すと若干頬を染めていた。


「な、なあ、なんで爆山さんはガッツリ俺の方を見るんだ?」


「キリヤさんは気にしなくてもいいッスよ」


「お、おう」


「ついでに今はプライベートなので爆山じゃなくて一香いちかって呼んで欲しいッス!」


「け、検討しておくよ」


 なんかさっきよりもグイグイきてない?

 店員さんに作ってもらった持ち帰り用のアイスコーヒーにガムシロップを入れながら内心で突っ込む。

 てかさっきまでのゴザル口調はどこにいったんだよ!?


「アイシア殿が羨ましく感じるッスね」

 

「よくわからないがお店を出るぞ」


「了解ッス!」


 これ以上は恥ずかしい。

 俺はなんとも言えない空間に逃げるようにスタダから出ていく。

 そのタイミングで爆山さんの方を見ると、ニコッと頬を少しだけ吊り上げていた。


「……爆山さんの表情に見覚えがあるな」


 どこかで見た光景。

 ただあまり深くは突っ込みたくないので、俺は目を逸らすように雲ひとつない晴れた空を見上げる。

 

「午後まで暇だしどうするか」


「あー、なら学園内で行きたい場所があるッス!」


「うん?」


 どこだろう? 

 少し気になったので頷くと、爆山さんは嬉しそうに俺の手を握って引っ張るのだった。


「ど、どこに連れていくつもりだ!?」


「多分キリヤさんが知っているところッス!」


「え?」


 彼女が連れていきたい方向には……。

 少し先に目を向けると奥には大きなドームがあり、自分の中で理解はするが。

 学園に来た時からほとんど行った事のない場所なので、少し緊張してしまう。


「戦闘学科の俺にはあまり縁がないな」


「そうッスよね!」


「……なんでそんなにテンションが高いんだ?」


「さあ? お楽しみにしておいてくださいッス!」


 ここで突っ込むのは野暮か。

 俺はそう思いながらおそらくの目的地である芸能学科の校舎に向かっていくのだった。


 ーー


 芸能学科の校舎内にある美容院。 

 そこで俺はとんでもなく濃い相手と会話させられていた。


「あらあらバクちゃん! 昨日の配信は災難だったわねー」


「荒川さんはウチの配信を見ていたんスか!?」


「もちろんよー。って、ダイヤの原石みたいな塩顔の彼はいったい?」


「魔物に囲まれた時に助けてくれた戦闘学科のキリヤさんッス!」


「へぇ、それは感動的ねー!」


 え、えっと?

 フリフリのドレスに厚めの化粧に合わないゴリ……筋骨隆々さの男?

 いや、漢と書いて乙女と呼ぶ相手かもしれない。

 

「な、なあ、ソチラの方は美容師さんだよな?」


「もちろんッス! しかも元は超有名な美容院に勤めていたマーシャトさんッスよ」


「説明ありがとうねバクちゃん」


「あ、はい」


 クネクネと嬉しそうに体を左右に振っているマーシャトさん。

 そのインパクトにドン引いていると、いきなりガシッと肩を掴まれた。


「顔はかなり整っているから腕の見せ所ね!」


「お、お手柔らかにお願いします」


「もちろんよー」


「キリヤさん頑張ってくださいッス!」


 ちょっ!?

 ニコニコと嬉しそうに笑っている爆山さん。

 その姿に俺は助けを求めたくなるが、マーシャトさんに掴まれて奥に引っ張られるのだった。


 ーー


 一時間半後。

 いつもは手入れしてなかったのでボサボサ気味だった髪が、マーシャトさんの手によって整えられた。


「芸能学科の生徒に負けない見た目になったわねー」


「あ、ハイ」


 どうしてこうなった?

 確かにマーシャトさんの手際はかなり良く、髪を洗う時もすごくよかったが……。

 それはそれとして、容姿が整っている生徒が多い芸能学科に負けない見た目って言われても。


「戸惑っているわね」


「自分の容姿が嫌いなので固まっていただけです」


「あらそうなのー? でも贔屓なしで今の見た目はかなりいいわよ」


「ありがとうございます」


 容姿関係は母親から言われた言葉を思い出す。

 過去の記憶が頭によぎりつつ、気持ちを切り替えるように席から立ち上がる。


「もう少し座っていてもいいのよ」


「いえ、慣れているので気にしなくても大丈夫です」


「それならいいんだけどねー」


 マーシャトさんが少しだけ不安そうにしているな。

 俺は無理に作った笑みを浮かべながら一礼して、爆山さんが待つ待合室に移動する。

 すると雑誌を読んでいた彼女が顔を上げると、なぜが大きく口を開けた。


「キリヤさんスよね?」


「爆山さんの目には別の何かが見えるのか?」


「本音を言えばそうッス!」


「す、すとれーと……」


「フフッ、貴方達のやりとりは面白いわねー」

  

 そ、そうなのか?

 自分の中ではすごい違和感がある見た目なので、爆山さんが驚いているのはわかる。

 ただその驚き方がいいのは予想から離れているんだが……。


「バクちゃんは昨日も来たから今日は大丈夫かしら?」


「もちろんッス! あ、代金をお支払いするッス!」


「代金くらいは俺が払うよ」


「え、でも連れてきたのはウチッスよ」


「その辺は気にしなくいい」


 少しお高めだが問題ない。

 俺は万札を取り出しお会計した後、戸惑う爆山さんを連れて美容院から出ていく。


「少し不安定な子だけど今のところはバランスが取れているわね」


 その時にマーシャトさんが何かを呟いていたが、俺の耳には聞き取れなかった。

 


 

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