第11話・黒鉄学園に来たがなんてお前がいるんだ!?

 Dライバー見習いの爆山さんが何故か俺達のパシリになった次の日。

 今日はアイシアの編入試験の日なので、巨大な敷地を持つ黒鉄学園の出入り口に到着。

 そのまま学園内に入ろうとした時、聞き覚えのある甲高い少女の声が耳に届いた。


「キリヤの旦那おはようでゴザル!」


「なんで爆山さんがいるんだ?」


「フフフ、吾輩の情報網を舐めないでゴザル!」


「あ、昨日ダンナがお手洗いに行っている時にアタシが教えておいたのよ」


「ああっ!? アイシア殿にネタバレされたでゴザルぅ!」


 そのゴザル口調はキャラ作りじゃないのか? 

 アタフタと手を振っている小柄な赤髪ツインテールの少女こと爆山さん。

 彼女はアイシアのネタバレに恥ずかしかっているようだ。


「えっと、始業式の二日前なのに爆山さんは何しに来たんだ?」


「そんなのアイシア殿の編入試験があると聞いて野次馬しにきたでゴザル!」


「傍迷惑な……。てか、ゴザルキャラはやめないのか?」


「もちろんでゴザルよ!」


 色んな意味で根性がすごいな……。

 爆山さんのキャラ作りに驚いていると、少し汗を掻いた職員さんが待合所から出てきた。


「お、お待たせしました!」


「いえいえ。それで予約は取れてますよね」


「ギルドからの要請があったので大丈夫です」


「なら敷地に入らせてもらうわよ」


「は、はい! コチラにどうぞ」


 少し焦っているのか職員さんの息が荒い。

 なので俺達は迷惑をかけないように、軽く一礼した後に黒鉄学園の敷地内に入っていく。


「ここがダンナ達が通っている黒鉄クロガネ学園なのね」


「最初に来たら驚くよな」


「ここまで広い学び舎は見た事ないわ」


 高等部の一学年の戦闘学科だけでも六十クラスある。

 そこに芸能学科やサポート学科などを含めると、百クラスくらいあったはず。

 というか、日本内にある学園の中でもトップクラスの広さがあるので普通に歩くだけでも疲れるんだよな……。


「アイシア殿、入口だけで驚いていると身が持たないでゴザルよ」

 

「それもそうね!」


「お前ら今日の目的は覚えているか?」


「もちろん!」「吾輩は知らないでゴザル!」


「……この場合はどう返せばいいんだ?」


 とりあえずスルーした方が良さそうだな。

 細かく突っ込むのが面倒になったので、苦笑いで誤魔化していく。


「よくわからないでゴザルが、もう少しでロビーに着くでゴザルよ」


「それはいいんだけど……」


「明らか目立っているハゲがいるわね」


 ロビーの出入り口に仁王立ちしている筋骨隆々の大男。

 服装は上下赤のジャージで、腕を組みながらコチラに鋭い視線を向けてきた。


「よく来たな時期ハズレの編入志望生。オレは戦闘学科で実技を受け持っている郷田だ」


「アタシはアイシアよ。今日はお邪魔させてもらうわ」


「……ほう、オレの威圧にも動じないのか」


「この程度で震えていたらダンナの騎士は務まらないわ」


「ははっ、面白い!」


 今の会話で面白い点はあったか?

 郷田先生の戦闘タイプは前衛フロントアタッカーで、見た目の通りの熱血漢。

 俺は魔法使いメイジなので授業は受けた事ないが、タイプ的にアイシアとは相性が良さそうみたいだな。


「笑ってないでさっさと編入試験を受けさせてよ」


「ん? ああ、すまない」


「きょ、教官相手にアイシア殿は普通に話しているでゴザルな」


「それがアイシアのやり方だと思う」


 丁寧語が使えないかもしれないが……。

 アイシアの口調に爆山さんが戸惑いながら突っ込み、その言葉に俺は苦笑いを浮かべてしまう?


「ハハッ、生きがいい生徒は大歓迎だ」


「そう? まあ、貴方と試合するのは楽しみね」


「オレに勝つ気かよ!」


「さあね? でもやるからにはアタシも負ける気はないわ」


 ふ、二人の間に見えない火花が散っているような?

 アイシアと郷田教官が言葉のジャブを撃ち合う中、俺はわざと熱くなった空気に水を指していく。


「と、とりあえず! 時間もあまりありませんし、さっさと編入試験を始めるのはどうですか?」


「んー、確かに冷血の言う通りだな」


「おおう……。教官にも冷血って言わるのですね」


「お前さんは学園ランカーで二つ名持ちだからな」


「キリヤの旦那があの冷血だったのでゴザルか!」


 冷血の二つ名が芸能学科まで広かっているのかよ。

 突っ込みどころが沢山あるので叫びたくなっていると、爆山さんが嬉しそうに目を輝かせ始めた。 


「俺の正体を知った瞬間に目がキラキラしているんだよ!?」


「冷血って冷酷で他人なんてどうでもいい一匹狼と噂されていたでゴザル」


「そんな噂をされていたのね」


「ウス! でも実際はポンコツなだけで話せる相手だとわかってよかったでゴザル」


「微妙に嬉しくない返答だな……」


 厨ニっぽい冷血コールドブラッドと呼ばれるのはやっぱり恥ずかしい。

 顔が赤くなる感じの羞恥心が湧き上がっていると、アイシアがコチラを見てニヤッと笑った。


「フフッ、恥ずかしがるダンナもいいわねー」


「俺の事は気にしないで試験に行ってきてくれ」


「もちろん! アタシの筆記試験が終わったタイミングで合流しましょう」


「わかった」「わかったでゴザル!」


 な、なんとかなってよかった。

 アイシアがやらしい笑みを浮かべながら真顔の郷田先生と共に校舎内に入っていく。

 その姿にホッとしながら隣にいる爆山さんに声をかける。


「時間まで移動するか?」


「ッス! とりあえず学園内にあるカフェに行こうでゴザル!」


「了解」


 玄関口に突っ立っていても何も起きない。

 何故かモジモジしながらコッチを見てくる爆山さんと共に、学園内にあるカフェに移動するのだった。

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