第9話・草芽の迷路・第五層のエリアボス

 草芽の迷路・第五層の草原エリア。

 昼休憩を挟みながらアイシアがゴブリンの群れを討伐していく。


「無双ゲーのメインキャラみたいになってないか?」


「雑魚を蹴散らすって意味ではダンナの言う通りね」


「お、おう」


 ゲームがリアルになっているような?

 二十匹以上の群れに囲まれてもアイシアは余裕そうに圧倒している。

 一応腕利きの魔法使いメイジなら不意打ちからの範囲魔法でワンチャン無傷はあるが……。


前衛フロントアタッカーがゴブリンの群れに突っ込んでノーダメージはやばくね?」


「それだけアタシが強いって事よ」


「ほんとアイシアが味方で良かった」

  

 アイシアが敵になっていたら奥の手を使っても勝てるかわからない。

 背中に嫌な汗が流れる中、地面に落ちたゴブリンのドロップアイテムを拾い終えた。


「あのー、なんかアイシアが戦って俺がドロップアイテムを拾うだけになってない?」


「単純にダンナが出る幕じゃないだけよ」


「おおう……。そ、そう思っておくよ」


 む、胸が痛い。

 気を使われている感じなので見えない矢が胸に刺さっていると、アイシアがドリンクを飲みながらエリアを見渡す。


「この辺はゴブリン系しかいないの?」


「ゴブリンが多いけど奥にボス部屋があるから全てはないぞ」


「ボス部屋! それなら少しは本気が出せそうね」


「……え?」


 もしかして俺は失言しまったのでは?

 ボスと聞いて目を輝かせているアイシアの姿を見て、俺は後悔してしまうのだった。


「ひと休憩したらボス部屋にいくわよ!」


「やっぱりか!?」


「そりゃアタシの腕試しなら当たり前でしょ!」


 確かにそうなんだけど!?

 ボスはこの辺にいる雑魚モンスターとは比べ物にならない強さがある。

 なので基本的には腕利きの冒険者達が複数のチームを組んで戦う相手なんだが?


「ま、マジでいく気かよ……」


 一回戦った事があるが奥の手を使わないと勝てなかった。

 俺は心の中で苦笑いを浮かべていると、アイシアに腕を掴まれてしまう。


「ダンナ、このエリアのボスをぶっ倒しにいくわ!」


「あ、はい」


 今更行きませんとは言えない!?

 ここまできたら覚悟を決めつつ、俺はルンルンなアイシアに腕を引っ張られるのだった。


 ーー

 

 草原エリアにある野球ドームくらい広いボス部屋。

 周りにはボス結界と呼ばれるドーム状のバリアが形成されており、フィールドの中央には青色の魔法陣が浮き上がっていた。


「ねえダンナ、あの魔法陣からボスが召喚されるのよね」


「そうそう。まあ、フィールド内に入らないとどんなボスが出てくるかわからないどな」


「出たとこ勝負みたい」


 マジで出たところ勝負です。

 アイシアの意見に俺は頷いていると、彼女は嬉しそうに拳同士を撃ち合った。


「まあでも、少し歯応えがあるボスが出てきて欲しいわね」


「その辺は運次第としか言えないな」


「フフッ、なら強いボスと出会いたいわね」


「お、おう……」

  

 これからボス戦なのにやる気満々過ぎないか?

 アイシアの余裕さに驚きつつ、彼女に引っ張られてボスフィールドの中に入っていく。

 すると中央にある青色の魔法陣が強く光り出す。


「どんなボスが現れるかしら?」


「さあ? って、なんか魔法陣がバチバチ言ってない?」


「ッ! 歯応えがある相手が来るわよ!」


「へ?」


 なんか空気が一気に重くなったような?

 今の光景に固まっていると魔法陣の色が青から黄に変化……え?

 黄色の魔法陣って確かレアボスの確定演出だったよな。


「アイシアの願いが叶ったみたいだぞ」


「フフッ、ダンジョンも粋じゃない!」


「そ、そうだな」


 ヤケクソでボケたのに真面目に返された。

 内心で戸惑いと恥ずかしさが混ざっていると、黄色の魔法陣の中から三メートル程の翼が生えた相手ボス

 その姿は藍色の肌に鋭い爪を持つ悪魔っぽく、ボスとしての風格は充分にありそうな見た目をしている。


「あまり見た事がない相手ね」


「まあでも、雰囲気的にかなり強そうだな……」


「その辺は気にしなくても大丈夫!」


 腰から剣を引き抜いたアイシアが勢いよく相手に突っ込む。

 その動きにボスは右手に青い炎の球体を作り出し、彼女に向けて飛ばした。


「グオォ!!」


「その程度の攻撃がアタシに通用するかしら?」


 なんで遠距離攻撃を剣で切り払っているんだよ!?

 炎の球体を剣で切り払うアイシアは余裕そうにボスへ接近。

 そのまま横薙ぎの一撃を放ったが、相手は右腕の鉤爪を使い軽く防いだ。


「少しはやるわね」


「グオォ!」


「おっと、そんな大ぶりの攻撃は当たらないわよ!」


「……俺には出来ないやりとりだな」


 目で追うのが精一杯なんだが?

 後衛の魔法使いメイジ前衛フロントアタッカーと同じ動きは基本できない。

 そこはわかっているが、アイシアの素早い動きを見て驚いてしまう。


「ぐ、ガオオォ!!」


「ッ! さっきより動きが良くなったわね」


 ボスの攻撃に対してアイシアは剣を使い受け流し、そのままカウンター。

 ただその動きはボスも読んでいたのか、ギリギリのところで翼を翻しながら回避していた。


「流石のアイシアも一筋縄では行かなそうだな」


 青い肌を持つ悪魔みたいなボス。

 見た目からして強者オーラを出しているので、アイシアが満足しそうな相手。

 そう思いながら結界の端で見学していると、ボスがいきなり地面を強く叩いた。


「グオォ!!」


「ッ! 雑魚を召喚してきたわね!」


「数が多くないか!?」


 また面倒な……。

 ボスが召喚してきたのは理科室にある骨格標本みたいな姿をしたガイコツモンスター。

 ボロボロの服に錆びた片手剣を持っており、他のダンジョンに出てくるガイコツ兵に似ている。


「グオ!」


「もしかして雑魚を呼んだだけで有利になったと思ってない?」


「ッ!」


 数は有効な暴力なのでボスの余裕もあながち間違ってない気が……。

 ただガイコツ兵を一刀で斬り伏せるアイシアは少しイラつているのか声を少し荒げた。


「雑魚に頼るなんてボス失格じゃない?」


「グオッ!?」


「そこを突っ込むか! っと、アイスビット!」


 雑魚がめっちゃいるんだけど!?

 俺は気持ちを落ち着けながら、コチラに近づいてくるガイコツ兵の集団を氷魔法で迎撃していく。


「「「コツコツ!?」」」


「もしかしてお付きの雑魚と思われていたのか?」


「コツコツ!」


 雑魚に雑魚扱いされていたのかよ……。

 その現実を見て少し悲しくなるが、前線でボスと斬り合っているアイシアを見て頷いてしまった。


「せ、戦闘タイプが違うんだよ!」


「コツコツ」


「なんかガイコツ兵に同情されてないか?」


 理解はできるが虚しいんだよ!

 ウンウンと頷いているガイコツ兵に向かって怒りの氷魔法を放ちつつ、アイシアの援護に向かおうとするが。

 ……多少のダメージはあるとはいえ、ボス相手に優勢に戦ってないか?


「面白かったけどそろそろ終わらせるわね」


「グオッ?」「え?」


「光天流・Xレイ!!」


「グオオオォ!?」


 うおおぉ!?!?

 アイシアが持つ片手剣が強く光り輝いた後、エックスを思わせる二連撃を放った。

 その攻撃を受けたボスは悲鳴を上げながら紫色煙になって消えていく。


「少しは楽しかったわよ」


「す、すごいな」


 残ったガイコツ兵はボスが倒れた瞬間に消えていった。

 そのおかげで地面には大量のドロップアイテムが落ちているので、また拾っていく事になりそうだな……。

 

「さてと……。ダンナー!!」


「え? うぉっ!?」


「アタシ勝ったわよ!」


「ちゃんと見ていたよ」


 ボスを相手しても余裕で勝つとはな。

 アイシアが見えない尻尾を振りながら抱きついてきたのでなんとか受け止める。

 その姿はさっきまでのクールさとは違うかわいさがあり、無意識に彼女の頭を撫でてしまうのだった。


 

 




 


 


 



 

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