第8話・Dチューバとの出会い
会議室での話し合いが一通り終わった次の日。
今日は四月四日で黒鉄学園の始業式である七日まで時間があまりない。
というよりも明日はアイシアの編入試験があるので、今日は能力確認の為に一昨日潜っていたダンジョン・
……したのは良かったが、早朝から見慣れない赤髪の少女が元気そうに叫んでいた。
「リスナーのみんな〜! おはバクはんやー! 爆破はお手の物、バクガルでゴザルよ!」
「な、なあ、ダンナ。ダンジョンの入り口で奇抜な格好をした奴がいるぞ……」
「お、おそらくDライバー系の冒険者だな」
「ニュースでやっていた職種だったわよね」
「そうそう」
見た感じ年齢は俺と同じ高校生くらいだが、彼女の姿は少し奇抜というかなんというか。
濃い赤髪にツインテールに少し低めの身長、見た目は整っておりアイドルっぽいフリフリの衣装も似合っている。
ただ危険なダンジョンに潜る装備としては場違いにみえてしまうが。
「なんかあそこだけ浮いてない?」
「ま、まあ、ひとりで撮影しているからそう見えるな」
「やっぱりダンナも同じ事を思ってたのね」
「まあな」
動画撮影に必要な機材は空中に浮かぶ特別性のスマホのみ。
これだけあればソロでもライブ撮影が出来るので、比較的手が伸ばしやすい。
……ただ護衛やアシスタントがいないところを見ると、まだ新人っぽく見える。
「さてと彼女の挨拶が終わりそうだから俺達もダンジョンに入るか」
「ええ! 出鼻を挫かれたけどここからよね!」
「そうそう! 気持ちを切り替えていこう!」
朝早くから大きめの声を出すのはきついな。
若干ノドが痛いが、自分の気持ちを切り替えながらアイシアと共にゲートに向かっていくのだった。
ーー
特に問題なく入れて良かった。
ゲートを開く為に冒険者カードにタッチパネルにかざしてダンジョン内に入り少し歩く。
すると明るい天井と短めの草が生える第一層の野原エリアに到着した。
「一昨日も来たけど風が気持ちいいわね」
「なんかノビノビしてない?」
「ダンジョンに入った程度で緊張してたらやってけないわよ」
「それもそうだな」
アイシアがいるおかげで余裕ができる。
自分の気持ちが少し軽くなりながら、彼女と共に第二層に降りる為の階段がある場所に向かっていく。
「この辺は冒険者が多いからモンスターがいないわ」
「見つけたところから狩り倒されるからな……」
「やっぱりそうなるわよね」
第一層は雑魚モンスターが多いので新人の冒険者でもやっていけるが、人が多いので取り合いになってしまう。
「とりあえず奥に向かいたいが大丈夫か?」
「もちろん! てかこの辺の雑魚じゃ腕試しにもならないわよ」
「そうだよな……」
アイシアの実力はギルドの教官を軽くボコれるレベルだしな。
この辺の雑魚モンスターなら一撃で沈みそうなので、アイシアと出会った草原エリアまでは行きたいな。
「基本的にこの辺のモンスターはスルーでいいのかしら?」
「襲ってこない限りはスルーで大丈夫だ」
「了解!」
雑魚モンスターのドロップアイテムは基本的に安値。
今回は稼ぐのはそこまで意識してないが、倒してもそこまで旨味がないのでスルーが安定。
そう思いながら腕をクルクル回してやる気なアイシアと共に奥に潜っていく。
「今日は何も起きませんように」
少し不安材料はあるがおそらく大丈夫だろう。
この時の俺は楽観的に考えていたので、大きな問題が起きるとは思ってなかった。
いや、イベントに対して無自覚に目を逸らしていたかもしれない。
ーー
ダンジョンに入ってから約二時間後。
第五層の草原エリアに到着したので、警戒度を上げながらアイシアと共に歩いていく。
「ここってアタシ達が出会ったエリアよね」
「そうそう! って、初対面はかなり驚いたけどな……」
「フフッ、アタシは気持ちよかったわ」
「す、すとれーと」
めっちゃ恥ずかしいんだけど!?
自分の頬が熱くなっていると、アイシアがウットリとした笑みを浮かべた。
その姿はとても美しいが、同時に少しだけ寒気を感じてしまう。
「美味しそうな顔をしているわね」
「ここはダンジョンだぞ……」
「警戒はしているから大丈夫よ」
「ならいいか」
いや、よくない!?
モンスターには襲われないかもしれないが、アイシアに襲われるかもしれない。
俺は内心で突っ込んでいると、さっきまでウットリしていたアイシアが急に真顔になった。
「邪魔が入ったみたいね」
「ッ! このタイミングでかよ」
中途半端なタイミングで現れたな。
ガサガサと短めの草を蹴り上げながら現れたのは、緑色の肌にとんがった鼻がモチーフの小人型のモンスター・ゴブリン。
コイツらはボロボロの腰巻きに錆びたナイフや棍棒を装備しており、集団で現れると雑魚から厄介なモンスターに変わる相手。
「今回の目的はアタシの腕試しだから戦っていいかしら?」
「それはいいがゴブリンは集団だぞ」
「十匹くらいなら大丈夫だからダンナは見ていてね」
「わ、わかった!」
とりあえず任せてみるか。
アイシアが腕利きなのはギルドでの出来事で知っているので、あくまで援護する程度に考えた方が良さそうだ。
俺は後ろに下がりながらいつでも魔法が使えるように待機していると、アイシアが腰の片手剣を勢いよく引き抜いた。
「準備運動くらいにはなってね」
「ッ!? ゴブッ!」
アイシアが余裕そうな笑みを浮かべながら一閃。
強化系のスキルを使ったのか、アイシアが一瞬でゴブリンとの距離を詰める。
その動きにゴブリンは反応できず、先頭にいた一匹がアイシアの一閃を受けて真っ二つになった。
「まさかこの程度の力で襲ってきたのかしら?」
すげぇ余裕そうだな……。
真っ二つになったゴブリンが紫色の煙になり、地面にはドロップアイテムが落ちていく。
「ご、ゴブッ!」
「「「ゴブッ!?」」」
アイシアは余裕そうだから今は傍観しているか。
仲間がやられた事で残ったゴブリンがアイシアに向かって攻撃を仕掛ける。
ただアイシアは余裕そうな動きでゴブリンの攻撃を回避して、たまにカウンターを入れて相手の数を減らす。
「強いのは知っていたがここまでとは……」
綺麗な動きの中にしっかりとした強さがある。
余裕そうに戦闘を続けるアイシアの顔はゴブリンと戦う前とほとんど変わらない。
てか一方的な戦いになっているので、ゴブリンが可哀想になるんだけど?
「ご、ごぶぅ」
「コイツで最後ね」
「こ、ゴブッ!?!?」
よ、容赦ないな。
最後の一匹になったゴブリンが錆びたナイフで抗うが、速攻で首を刎ねられて紫色の煙に変化していく。
「ダンナー! 余裕で倒せたわよ!」
「お、お疲れさん」
「アタシの戦いっぷりはどうだったかしら?」
「強いのは知っていたけど無傷でゴブリンの群れを圧倒するとは思わなかったよ」
「フフッ、ダンナの予想を超えられてよかったわ!」
戦闘時のクールさと今の駄犬さの差が激しいんだけど!?
褒めてオーラを出しているアイシアの頭を撫でた後、地面に落ちたドロップアイテムを拾い始める。
「もしかしてアイシアってとんでもないんじゃないか?」
多分だけどアイシアは本気を出してないよな。
自分の中で色々思う中、アイシアは嬉しそうな表情でコチラを見てくる。
うん、今は強さ関係な考えない方が良さそうだな……。
「またゴブリンが近づいてきたわね」
「まだ拾い終わってないし護衛は頼んだ」
「もちろん!」
俺の指示にアイシアは獰猛な笑みを浮かべた。
その結果、追加で現れたゴブリンは次々と瞬殺されてドロップアイテムに変化していくのだった。
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