第7話・アイシアへの処遇決め

 ギルドビルの六階にある会議室。

 ここで午前と同じメンバーで状況の確認やアイシアへの処遇を話し合い始めた。


「上と話し合った結果、アイシア様は冒険者として活動する事ができます」


「それってダンナと一緒にダンジョンを潜れるの?」


「もちろんです。ただ契約精霊の都合上、氷室様と一緒にいてもらう事になりますね」


「一緒にいるのは特に問題ないわ」


 た、確かに俺もアイシアと一緒なのはそこまで問題ないが。

 肉食獣のような目をしたアイシアを見て若干引いていると、疲れ果てた唯我さんが声を絞り出した。


「だいぶお疲れのようですが何かありましたか?」


「氷室様は召喚精霊が主人から離れられない特性を知っておられますか?」


「その辺は一応知ってます」


「ほうほう。では氷室様が黒鉄学園に行く場合、アイシア様が同伴する事になりますよね」


「もちろんよ!」


 アイシアは召喚精霊で主人が俺になっている。

 そうなると付き添いになるはず……あ、そもそもアイシアは黒鉄学園の敷地に入れるのか?

 

「なんとなく気づかれたみたいですね」


「……そうですね」


「ん? その学園にアタシも入ればよくないかしら?」


「理屈ではそうですが今から黒鉄学園に編入するのは少し難しいのです」


「え?」

 

 理由づけが面倒ではありそう。

 基本的に冒険者の能力スキルが目覚めるのは十五歳の誕生日が多かったよな……。

 それに特殊アイテムを使わない限りは能力スキルが手に入るのはほぼないと偉い学者さんが発表していたはず。


「それってダンナと一緒にいられないのか?」


「何もしなかった場合はその通りです」


「旦那を攫足がないな」


「ちょっ!? 気持ちは理解できるが攫うのはやめてくれ!」

 

 どこに逃避行するんだよ!?

 目が座っているアイシアに腕を強く抱きしめられている中、コチラの状況を見た唯我さんはオロオロしながら手を前に出した。


「お、落ち着いてください! 別にアイシア様が氷室様と別々になるわけじゃないです」


「で、でも! ダンナが学び舎に行っている時はアタシは別行動になるのよね!」


「それはあくまで対応をしなかった場合なので正規の手順を踏めばなんとかなります!」


「ッ!? それならダンナと一緒に入れるわ!」


「え、ええ……」


 嘘ならぶっ殺すぞみたいな殺意が籠った瞳。

 アイシアの威圧感に唯我さんと女性秘書さんが、半泣きになっている。

 てか俺の腕に抱きついたまま、ここまで強い殺気を出せるとは……。


「どうどう! とりあえず唯我さん達から方法を聞こう」


「フフッ、わかったわ」


「た、助かった……」「た、助かりました……」

 

 す、少しは落ち着いたかな?

 アイシアの殺意が止んだタイミングで唯我さんと女性秘書さんは荒い息を吐いていた。

 二人の表情を見た感じ、短期間の威圧でかなり消耗している感じがする。


「それでアタシがダンナと一緒の学び舎に入る方法はあるのね?」


「は、はい! アイシア様が黒鉄学園に編入する方法はわたしから説明させていただきます」


「よろしくお願いするわ」


 先程とはまた別の威圧があるような?

 アイシアのクールな笑みから感じ取れる何かに突っ込みたくない。

 てか突っ込むと今以上に話が拗れる気がするので、ここは黙って女性秘書さんの話を聞くか。


「氷室様と同じ黒鉄学園へ編入するには試験を受ければ入れます」


「試験って筆記とか実技メインかしら?」


「おおまかはそうですが面接と戦闘タイプの判断がありますよ」


「ダンナも前に言っていたけど戦闘タイプってなんなの?」


 そういえば戦闘タイプの説明してなかったな。

 アイシアが不思議そうに首を傾げている中、女性秘書さんが落ち着きながら質問に答えた。


「戦闘タイプは冒険者が持つ能力スキルで分けられます」


「例えば今日の女性教官は片手剣の能力スキルを使っていたから前衛アタッカーになるとかだな」

 

「ほうほう。そうなるとアタシはどこになるのかしら?」


「アイシア様の能力的には前衛アタッカーに判断されます」


「今日戦った奴と同じなのね」


 能力判断的にはだけどな。

 他に強い能力や魔法を持っていれば、戦闘タイプの判断が変わるかもしれない。

 その事を思い出していると、アイシアは自分の唇を舌でペロっと舐めた。


「ダンナの戦闘タイプである魔法使いメイジとは相性がいいわよね」


「もちろんです! てか純粋な魔法使いメイジがソロでダンジョンに潜る方がおかしいんですよ……」


「それはアタシでもわかるわ」


「なんで俺に矛先が向いているんだ?」


 傍観していたら巻き込まれたでゴザル。

 純粋な魔法使いメイジは冒険者の中でも十人に一人くらいで能力としての貴重性はわかる。

 ただ俺は人間関係が苦手でチームを組んでもすぐ追い出されてしまうんだよな……。


「まあでもダンナにはアタシがいるから大丈夫よ」


「すごい嬉しいんだけど不安もあるんだが?」


「なんでかしらね」

 

 顔は笑っているのに目が笑ってないような。

 部屋の空気が冷たくなっている中、唯我さんがアタフタしながら額をハンカチで拭いていた。

 

「若いのはいいですね」


「あ、はい。自分も今は幸せですよ」


「ダンナもそう言ってくれて嬉しいわ!」


「ラブラブするのはいいですが本題に戻しますよ」


「わかりました」


 女性秘書さん軌道修正ありがとうございます。

 子犬のように擦り寄るアイシアの頭を撫でていると、本題の話である黒鉄学園への入学の話に戻っていく。

 

「アイシア様が黒鉄学園に編入する方法は規定の試験を受ければいいのですが……」


「何か問題があるの?」


「先程行われた筆記試験の結果的には悪くないのですが、戦闘タイプ的にいつも氷室様と一緒は難しいです」


「アタシとダンナの戦闘方法が違うから?」


「そうです」


 確かに実技訓練の時はアイシアと同じにはなれないな……。

 黒鉄学園は学力の成績次第でⅠ〜Ⅲの学科クラスに分けられる。

 そこは問題なくても戦闘タイプ次第で選択科目が変わるので、一緒にいられる時間は減るかもしれないな。


「その場合はダンナと離れる事になるの?」


「訓練の時だけはそうなりますね」


「なるほどね……」


 アイシアが受け入れられるかどうかだな。

 自分の中で色々考えていると、アイシアが難しそうな表情で頷いた。


「平時は受け入れるけどダンナが危ない時は飛んでいくわよ」


「わ、わかりました……。そっち方向で調整します」


「よろしくお願いします」


 大まかにはまとまったみたいで良かった。

 内心で落ち着いていると唯我さんが冷や汗を流しながら爆弾を投下してきた。


「話は変わりますが氷室様は学園の寮暮らしですか?」


「ええ、そうですよ」


「そうなるとアイシア様も氷室様の寮に入る事になりますよね」


「もちろんよ!」


 何か問題……あ。

 俺が借りている寮は一人暮らし用の部屋なので別の部屋がない。

 そうなると荷物的に置き場所がないのと、目立つことになるのは目に見えてしまうな。

 

「広い部屋を借りたくなってきました」


「お気持ちはわかりますが契約的に難しそうですね」


「ええ……」


 父さんは仕事一筋で俺の事はあまり見てない。

 母さんだった人は妹を連れて家を出て行ったので、保証人がいないのはきついな。

 

「今は自分の部屋でアイシアと共にいるしかなさそうです」


「確かにそうなりますよね……」


「別にアタシはダンナと一緒の部屋でも大丈夫よ」


「そりゃありがたいが」


 できれば広い部屋に引っ越したい。

 俺はそう思いながら会議室での話し合いに耳を傾け続けるのだった。





 

 

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