第5話・ギルドの教官ってこんなんだったけ?
アイシアの能力試験が開始されたが……。
男性教官がアイシアの一撃を受け、漫画のギャグシーンみたいに綺麗に吹き飛んだ。
「ガハッ!?」
「あら? 手加減しすぎたかしら?」
「え、えっと?」
今回の男性教官って元腕利きの冒険者だったはず。
ただ、アイシアが不思議そうに頭をコテンを傾けており、不覚にも可愛く見えてしまう。
……やっている事はえげつないが。
「と、特殊なのは知ってましたがここまで強いとは」
「流石に驚きますよね」
「ですです。それにギルドの教官は腕利きなので、アイシアさんの強さが突出しているように見えます」
観客席で座る俺の隣でさっき以上に驚いている唯我さん。
その姿は少し面白く感じるが、状況を見ると驚くのは仕方ないと思ってしまう。
「勝ったわよ!」
「おう! 次も頑張れよー」
「今度はもう少し本気を出すから期待していてね!」
「へ?」
喜んでくれてよかった。
フィールド内でアイシアが嬉しそうにピョンピョンと跳ねている中、次の対戦相手である女性教官が少し震え始めた。
「さてと、次は貴女が相手なのね」
「え、あ、はい」
なんというか、ご愁傷様。
少し震えている女性教官は自分の頬を叩いて気合を入れていた。
その姿は勇ましいが、先程と違う獲物を見る目をしているアイシアに若干後退りをしている。
「今ほど事務方でよかったと思う時はないです」
「少しタイプは違いますが自分も同じ気持ちですね」
「で、ですよね」
マジでそうだよな。
瞬殺された男性職員の姿を見て、俺と唯我さんは同じ気持ちになったみたいだ。
俺は唯我さんと共に頷いていると、半泣きの女性教官が訓練用の片手剣を手に取った。
「や、やるしかない!」
「そんなに震えていて大丈夫なの?」
「新人の貴女に気遣われるほどあたしは弱くないわ」
見た感じ二十歳中盤くらいの女性教官。
彼女は気が強いのか、今の状況を見ても戦意がギリギリ失われてないっぽい。
うん、女性教官の生きの良さにアイシアの目が輝いているような?
「それなら楽しませてもらうわよ!」
「こ、こっちのセリフよ!」
さあ、どうなるかな?
気絶しているのか地面でピクピクしている男性教官が治療部門の職員さんに運ばれていく中、女性教官は片手剣の切先をアイシアに向けた。
「準備が整ったみたいですね」
「ええ!」「ああ!」
「では勝負開始!」
ドームに響く審判の叫び声。
その瞬間に女性教官は片手剣を構え、アイシアに向かって勢いよく突進を仕掛ける。
「はあぁ、スラッシュ!」
「血の気が多いわね」
「ッ! 逃がさないわよ」
訓練なのにいきなり武術スキルを使うのかよ……。
女性教官が片手剣に魔力を込めた後、アイシアに向けて力のこもった横薙ぎを放つ。
ただアイシアは涼しい顔で女性教官の攻撃を回避していく。
「この程度でアタシに勝てると思っているの?」
「なっ! あたしの力はこんな物じゃないわ!」
「それならもっと本気でやりなさい!」
めっちゃいい顔で煽るな。
アイシアの余裕さにイラついているのか、女性教官は斬撃スキルを連続で使い始めた。
その動きは悪くないが、アイシアは剣で攻撃を受け流したり楽に回避している。
「見ている限りは実力差が大きいですね」
「確かに……。ただ先程の男性教官みたいに瞬殺してないのが気になりますね」
「アイシア様が手を抜いている感じですか?」
「そこら辺は自分にもわからないです」
手加減はしてないが速攻で勝負を決めるつもりもない。
アイシアは女性教官の動きを観察しているようで、手堅く対応している感じがする。
そう思っているとアイシアの足掛けが疲労している女性教官にヒットした。
「くうぅ! まだまだ!」
「そう来ないと面白くないわ」
「余裕そうにして!」
アイシアも楽しそうだな。
女性教官が勢いよく立ち上がり攻撃を仕掛けるが、アイシアは冷静にバックステップを踏んだ。
「貴女の実力はわかったし今から本気でいくわよ」
「ガッ!? さっきと動きが違う!」
よ、容赦がないな。
女性教官の腹にアイシアの拳がめり込む。
その一撃を受けた相手は渋い表情で後ずさりお腹を抑えるが、その隙をついたアイシアが後ろに回り込む。
「これで終わりよ!」
「きゃゃあ!?!?」
ええ!?
目にも止まらない速さで動いたアイシアは剣に魔力を込めて振りこんだ。
彼女の攻撃は女性教官のお尻に直撃し、本人は涙目になりながら吹き飛んだ。
「い、いったあ!?」
「フフッ、これで勝負はついたわね」
「「……」」
結構えげつないな。
お腹の方は防具があったのでまだマシだが、お尻の方はズボンなので防具はない。
そこにフルスイングの一撃が突き刺さり、女性教官は気絶はしてないが動けなくなっていた。
「それとももう一回攻撃した方がいいかしら?」
「ま、まいりました!」
「面白くないわね。あ、これで訓練は終わりなの?」
「えっと、はい!」
審判の男性職員がアタフタしながら頷く。
アイシアは勝負が終わった事で一息吐いた後、嬉しそうにダッシュでコチラの方に近づいてきた。
「ダンナー」
「うおっ!?」
流石に重い!
観客席の方にジャンプしてくるアイシアをなんとか受け止める。
ただ彼女は白銀の鎧姿なので、俺は潰されたカエルのようになってしまう。
「大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか」
「それはよかったです」
コチラを心配そうに見てくる唯我さんに反応しつつ。
子犬のように顔を擦りつけてくるアイシアの頭を撫でていく。
「これでアタシの試験はクリアでいいの?」
「大体は大丈夫ですが、後はギルドの判断になりますね」
「わかったわ」
なんとか能力試験が終わってよかった。
お尻を押さえたままの女性教官はタンカに乗せられて、今下に運ばれて行った。
俺は女性教官が悶えている姿を見て、なぜか心の中で興奮してしまうのだった。
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