第4話・俺が思う契約精霊の常識が崩壊していくのだが?
ギルドビルの六階にある会議室。
部屋の中に重苦しい空気が漂う中、四十代くらいで短髪の男性職員こと唯我さんが不安そうに口を開いた。
「氷室様の報告で大体はわかりましたが、本当に彼女は召喚精霊なのですか?」
「アイシア曰くそうみたいです」
「もしかして疑われているの?」
「疑うよりも実例が少ない案件なので戸惑っているだけです」
見た目が人間の召喚精霊を見たらそりゃ戸惑うよな。
俺が知っている召喚精霊はモンスターの形が多く、ヒトガタもいるがエルフやドワーフみたいな亞人がほとんどだったはず。
自分の記憶を思い出しながらソファに座っていると、女性の秘書さんがお茶を持ってきてくれたので一口つける。
「アタシみたいなタイプは少ないみたいね」
「少ないですよ。しかもアイシア様は落ち着いているのと、私と問題なく意思疎通が出来てますよね」
「えっと? 唯我さんが言っているのは当たり前のことじゃないの?」
「確かにアイシア様以外にも意思疎通が出来る召喚精霊がいますが、ここまで落ち着いておられるのはかなり珍しいのですよ」
ここに関しては俺は突っ込めないな。
どんなタイプの契約精霊がいるかは俺も知らない。
なので受け答えの基準はアイシアを基準で考えていたが、彼女は珍しいタイプみたいだ。
「アタシは特別なのは前提として、他の契約精霊ってどんなのがいるのかしら?」
「基本的に契約精霊は珍しいので私もあまり見た事がないですが、モンスター系が多かった印象があります」
「モンスター系ってゴブリンやウルフとか?」
「そうです」
やっぱり俺がアイシアを召喚できたのはかなり幸運?
自分の気持ち的に宝くじを買って高額当選したみたいに感じていると、戸惑っている唯我さんが額から汗を流す。
「自分もヒトガタの契約精霊はあまり知らないですね」
「私も有名なクランや芸能界で何人か知ってますが、それでも少数ですよ」
「なるほど……。そうなるとアイシアへの処遇はどうなるのですか?」
「えっと、本音を言わせてもらうとかなり難しいです」
だよな。
アイシアの能力がわからない状態でちょっかいをかけると痛い目に遭う。
その辺は唯我さんもわかっているみたいでよかった。
「先に言っておくけどアタシはダンナと離れるつもりはないわよ」
「は、はいぃ!」
ふと隣を見ると冷たい冷気を放つアイシア。
彼女は笑っているが目が笑っておらず、コッチはコッチで怖く感じる。
「と、とりあえず、冒険者を志望している人みたいに能力検査をするのはどうですか?」
「そうですね! では、係の者に連絡をしておきますね」
コチラの助け船に嬉しそうに頷く唯我さん。
壁の近くで待機していた秘書さんを呼び出し、唯我さんは要件を伝えていく。
そのタイミングで不機嫌そうなアイシアが俺の右手を強く握った。
「ダンナはアタシのマスターだからずっと一緒よ」
「お、おう……」
「フフッ、このタイミングじゃなければ美味しく食べたいわね」
ドキドキするので出来れば食べないで。
アイシアの笑みとストレートな発言に頬が熱くなっていると、秘書さんへ指示していた唯我さんが話を終えてコチラに向いた。
「申し訳ありませんが、少ししたら能力訓練があるので準備をお願いします」
「わかったわ!」
訓練と聞いたアイシアがめっちゃいい笑顔をしている。
その姿はとてもかっこいいが、なんか残念さがあるのは気のせいか?
複数の気持ちが混ざってしまい、自分の中で少し混乱してしまう。
「く、食いつきがすごいな」
「ダンナにいいところを見せたいからね!」
「ハハッ、なら楽しみにしているぞ」
「ええ! 思いっきりやるわ」
アイシアがすごいやる気になっているな。
なんかやりすぎる気もするが、問題が起きてもギルドに責任を押し付ければいい。
現実逃避するように苦笑いを浮かべていると、コチラを羨ましそうに見ている唯我さんに気づく。
「今の私にはない物を持ってますね」
「と、いうと?」
「い、いえ! なんでもないです」
唯我さんはくたびれた感じがするからなんとなくわかるような。
答えがわからないが予想は出来るので虚しい気持ちになるが、今は別件の方が大切。
なので子犬のような動きをしているアイシアの頭を撫で始めるのだった。
ーー
ギルドビルの奥にある野球ドームみたいな訓練場。
いつもは新人冒険者がギルド所属の教官から指導を受けたり、自主訓練をしている場所なのだが。
今日はドームを貸し切ってアイシアの能力を判断する事になった。
「それでアタシは誰と戦えばいいのかしら?」
「まずはギルド所属の教官と戦ってもらいます」
「わかったわ! ちなみにあくまで勝負で殺したらダメなのよね」
「も、もちろんです!」
なんかやばい内容が聞こえたような?
まあでもここは気のせいと思った方が良さそうなので、俺はスルーしておく。
するとアイシアが訓練用の片手剣をギルド職員さんから借りて軽く振り回し始めた。
「あ、あの、氷室さん。私は事務方なので戦闘はからっきしですが、アイシア様の素振りが早すぎるような……」
「唯我さんの言いたい事はわかりますよ」
「つ、伝わってよかったです」
前衛アタッカーだったらアイシアの動きを見て心が折れた挙句、さらに捻くれていたかもしれない。
そう思いながらホッとしていると、アイシアの訓練を担当する二人の教官が固まっていた。
「な、なあ、どう見ても初心者じゃなくね?」
「も、元々剣術をやっていた方じゃない?」
アイシアがめっちゃいい顔をしている中。
二人の教官は硬直から復活するが、アイシアの動きを見て目が点になっていた。
「さてと、準備運動は終わったわよ」
「え、あ、はい」
審判を担当している男性職員が戸惑っている。
ただアイシアは真顔のまま訓練用の片手剣を地面に突き刺した後、ドヤ顔のまま頷くのだった。
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