第2話・なんでこんなに好感度が高いんだ!?

 どうしてこうなった?

 突然現れた鎧姿の金髪の少女に唇を奪われた後、なんとか話せる空気になったので互いに地面に座りながら会話を始めた。


「改めて聞くがお前は何者なんだ?」


「何者って言われても契約精霊としか返せないわよ」


「マジで契約精霊なんだな……」


 契約精霊テスタメントは主人に従う下僕のような存在。

 有名どころではエルフやドワーフなどの亜人タイプ、ゴブリンやウルフなどのモンスタータイプなどが存在している。

 まあでも、俺が知っているあやふやな情報ではこんなもんだよな。


「他に何に見えるのよ。まあ、今はダンナの事を知りたいわ」


「なあ、なんで俺の事をダンナって言うんだ?」


「そんなの一目惚れをしたからに決まっているじゃない!」


「……え?」


 16年の人生で落とされた爆弾の中でトップクラスの出来事。

 てか、親の離婚に次ぐレベルなので固まっていると金髪の少女は嬉しそうに腕を絡めてきた。


「てなわけでよろしくね」


「うおぅ!?」


 騎士鎧が固いんだが?

 俺は違う意味で軽い痛みを感じていると、金髪の少女に頬を舐められた。

 

「な、なんで好感度が高いんだ?」


「さっき言ったじゃない」


「お、おう……」


 一目惚れが理由なのか?

 ほぼ冗談で聞いていたがガチっぽいので、俺は緊張するように唾をゴクリと飲む。


「そういえばダンナの名前は?」


「お、お前な……」


 名前を聞く前に惚れたのかよ。

 微妙な笑みを浮かべる彼女に突っ込みつつ、自分の気持ちを落ち着けるように息を吐く。


「はぁ、俺は氷室霧也ひむろきりや。高校に通いながら冒険者として働いている」


「ほうほう。あ、ダンナの趣味ってサブカルってやつよね」


「そうだけど? ん、なんで知っているんだ?」


「フフッ、そんなのアタシがダンナの記憶の一部があるからに決まっているじゃない!」


「なるほど……。え?」


 俺の記憶の一部がある。

 その発言を聞いて過去の黒歴史を思い浮かべていると、彼女は嬉しそうに笑った。


「ダンナってイケメンなのに過去にキモい奴扱いされて心が折れたのね」


「俺はイケメンじゃない! てか、その黒歴史を知っているのかよ!?」


「ええ! 他にはせっかく作った料理なのに妹に不味いって言われたりね」


「……心が痛いんだが?」


「フフフッ」


 マジで俺の黒歴史じゃん。

 過去の思い出したくない、封印している出来事を彼女に言われて涙が出かかってしまう。

 うん、これ以上は心がもたないので話を変えるしかない。


「と、とりあえず! 今度はお前の名前を聞きたいんだが?」


「そういえば自己紹介をしてなかったわね」


「そうそう!」


 黒歴史から遠ざける為に必死に頷く。

 すると彼女は口に手を置いた後、いやらしくペロリと舌なめずりをしていた。

 うん、こいつに対しては容赦しなくてもいいかもしれないな。


「その表情も美味しそうねー。あ、アタシの名前はアイシア・ルーンベルクよ」


「ほうほう。ちなみに何が得意なんだ?」


「アタシはだから基本的に戦う事ね。ちなみに趣味は美味しい物を食べることね」


「な、なるほど……」


 マトモなのかそうじゃないかアヤフヤなラインだな。

 いや、俺が知っている女性の中では少し荒々しく感じるような気もする。

 ただ無闇に突っ込むと痛い目に遭うかもしれないので、ここはスルーした方が良さそうだな。


「あ、好きな相手はもちろんダンナよ」


「ああ……。ち、ちなみに戦闘タイプは前衛アタッカーか?」


「基本的に剣を振り回すのが得意だからダンナの言う通りよ」


「やっぱりそうだよな」


 彼女の左腰に装飾された片手剣が装備されている。

 この時点で近接戦闘が出来るのはわかっていたので、概ね予想通りの返答が返ってきた。

 ……なんか戦闘狂みたいな雰囲気を感じるんだけど?


「さてと、ダンナは他に聞きたい事はあるかしら?」


「質問したい事はあるが先にやることがあるだろ」


「フフッ、そうね」

 

 地面に生えている短めの草がガサリと揺れる音。

 その音を耳にした俺とアイシアは互いに顔を合わせた後、気持ちを切り替えるように動き始める。


--

  

 アイシアってめっちゃ強くね?

 十を超えるゴブリンの群れが襲いかかってきたが、殆どはアイシアが討伐した。

 彼女は右手に持つ片手剣を腰の鞘に戻しながら息を吐く。


「もっと強い敵と戦いたいわね」


「ハハッ、どう突っ込めばいいかわからないな」


「褒めてもいいのよ」


「お、おう……」


 甘えるように近づいてきたアイシア。

 その姿は子猫のように可愛いので、引っ張られそうになりながら彼女の頭を右手で撫でる。

 

「フフッ、幸せ」


「それは良かったな」


「ええ!」


 幸せそうなのは良かった。

 アイシアの頭を撫でつつ、少し気になった事を言葉にしていく。


「契約精霊が強いのは知っていたが思った以上だな……」


「アタシが特殊な契約精霊なのを説明してなかったっけ?」


「その辺は何も聞いてないな」


 基本的な契約精霊の情報は俺でも知っている。

 特殊なタイプって何?と気になっていると、頭を撫でられているアイシアが嬉しそうに話し始めた。


「捻くれているダンナに説明すると、契約精霊にもランクがあってアタシはその中でもトップクラスなのよ」


「それってアイシアがトップクラスのランクの認識で大丈夫か?」


「そうそう。まあ、まだ本気は出してないけどね」


「ゴブリンを瞬殺してるのにか」


 コイツ、どんだけ強いんだよ。

 ゴブリンの群れを近接アタッカーがソロで瞬殺。

 有名クランのランカーくらいしか出来ない内容をアイシアは余裕でやっていた。

 

「ゴブリンがどんだけ通うが負けるつもりはないわよ」


「今の発言を聞いても頷いてしまう自分がいるな……」


「それは良かったわ! あ、アタシが特殊な契約精霊である理由を話してなかったわね」


「ああ、改めてよろしく頼む」


 本題に戻して、特殊な契約精霊ってなんだ?

 コチラの疑問に答えるようにニッコリとしたアイシアは俺の右手をいきなり掴んだ。

 

「……え? 剣の交差のマークに三日月のアザ?」


「これはアタシとのリンクの証よ。まあ、アザよりも紋章と言って欲しかったわ」


「なんかごめん」


 どっちでもいいような。

 少し疑問に思っていると、アイシアは不服そうに頬を膨らませた。


「仕方ないわねー。あ、話を戻すと固有ユニーク契約精霊は能力の格が違う以外に召喚主マスターと相性がいい奴が呼ばれるのよ」


「ほうほう。そうなると俺とアイシアは相性がよさそうだな」


「そりゃそうよ!」


 俺の右手を掴みながら顔をグイッと近づけてくるアイシア。

 彼女の碧眼は肉食獣っぽいのは変わりないが、先程よりも自信ありげな気がする。

 ……見た目がかなり整っている異性にここまで顔を近づけられるとは。


「と、特殊な契約精霊の特性をまとめると、通常とは格が違うのと契約の密度が濃いんだな」


「単純にまとめるとそうね」


 理解できていて良かった。

 そう思いながらホッとしていると、少し離れたところからまたガサガサとした音が聞こえた。

 

「ッ! 今いいところなのに!」


 音がする方を見るとゴブリンの群れが現れたのでアイシアが強い威圧を放っていた。

 俺はその姿を見ながらゴブリンのドロップアイテムを拾わないとな、と考え始めるのだった。


 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る