根暗な魔法使いが好感度MAXなメンヘラ女騎士を召喚したら灰色の青春が鮮やかになりました!

影崎統夜

第1話・肉食系女騎士との出会い

 桜が舞い散る四月上旬。

 ザアザアと草木が揺れる草原エリア。

 そこでいきなり現れた金髪ボブカットの美少女に俺は勢いよく押し倒されてしまった。


「フフッ、美味しそうな顔をしているわね」


「は、はい?」


 コチラを見る透き通った海のような青い瞳が少し揺れる。

 騎士鎧を着た彼女の姿は美しく見えるが、どこか残念さを感じてしまうのは俺だけだろうか?

 そう今の状況から目を逸らしていると、いきなり押し倒してきた同年代の相手が嬉しそうに目線を合わせてきた。


「不束者だけどこれからよろしくね主人ダンナ!」


「……へ?」


 その一言と共に俺の唇は奪われた。

 しかも無理やり舌を入れ込んできたので、口の中は彼女に蹂躙されてしまう。

 

「ふはぁ! 美味しかったわ」


「え、あ……」


 突然の行動で思考が追いつかない。

 俺は彼女にキスされたという事実はわかるが、なぜこうなったかわからない。


「お、お前はいったい?」


「アタシか? アタシは貴方の契約精霊テスタメントよ」


「は、はい?」


 テスタメントってドユコト?

 出会ったばかりで相手の行動が読めないまま、俺の腹にのしかかる彼女が嬉しそうに笑うのだった。


「やっぱり美味しそうな顔ね」


「なんでだよ!?」


 やっとこさマトモな言葉が話せた気がする。

 てか、なんで見覚えのない彼女がダンジョン内にいきなり現れたんだよ。


「さてと、ダンナの名前を確認してもいいかしら?」


「い、いきなりだな……。俺の名前は氷室霧也ひむろきりやだ」


「キリヤね! アタシの名前はアイシア、よろしくお願いするわ」


「お、おう……」


 若干照れるように頬をピンクに染めているアイシア。

 その姿は可愛く見えるが、今の状況を冷静に整理していく。


「ハハッ、どうしてこうなった?」


 灰色の高校生活をしているボッチな俺が、金髪美少女に口付けされた。

 この状況になったのはなぜか、自分の記憶を探り始めた。


 ーー

 

 日本に初めてダンジョンが出現してから約300年後の現代。

 中部地方にある大都市・鯱川市しゃちかわし

 市街地にある4メートルほどの黒い渦みたいな出入り口があるダンジョン・草芽くさめの迷路。

 この場所には警備員がいる詰め所と厳重な扉がある為、国が管理する冒険者以外は基本的に中に入れない。

 だが俺も冒険者学園のランカーなので特別待遇でダンジョン内に入っているのだが……。


「ボッチな俺を心から認めてくれる相手が欲しいな」


 めっちゃ虚しいな。

 基本的に冒険者はチームを組んで探索するのだが、俺はコミュ症が原因でソロとして活動している。

 いや、ソロでしか行動の選択肢がないのが正解なんだよな。


「マジでどうすればいいんだ?」

 

 小さい頃から感じている劣等感を思い出し虚しくなる。

 慣れてはいるが心の中に穴が空いたような冷たさは嫌なのには変わらない。


「もっと俺がマトモなら暖かい仲間ができたかもしれないよな……」


 本音を言えば仲のいい人とクランを作ってワイワイと楽しみたいけど。

 ただ現実は、ソロで一年以上もダンジョンへ潜っている。


「自分がもっと上手くやれたら人が集まるのかな?」


 自分は色んな意味で下手くそ。

 その虚しさを感じながら、草木が生えるダンジョンを歩いていると、岩陰の近くに見覚えのない相手を見つけた。


「!? あ、あの騎士型のモンスターは?」


 今までの探索では感じた事のない強い威圧感。

 草原エリアに生息しているのは、緑色の肌にとんがった鼻が特徴のゴブリンと呼ばれるモンスター。

 ただ今回見つけたのは3メートル程の大きさに白銀の全身鎧を着た騎士型のモンスター。


「お、俺の記憶にないな」


 てか、どう見てもゴブリンじゃないよな。

 明らかにやばい相手に戸惑っていると、騎士型のモンスターは顔をコチラに向けてきた。


「!?」


 ま、まずい。

 騎士モンスターが振り向いたタイミングでバックステップを踏むと、俺が元いた場所に光の剣が突き刺さった。


「いきなりかよ!」


 コイツ、イレギュラーモンスターか!

 通常のモンスターとは別格の戦闘能力を持つ特殊な相手。

 基本的にはエリア内にいるモンスターとは一線を画している。


「あ、あぶねぇ……」

 

 今回は上手く回避できたが、次があるかわからない。

 俺は一連の状況を自覚して冷や汗を流しながら、襲ってきた騎士モンスターに反撃するために魔法を唱える。


「アイスビット!」

 

 右手を騎士モンスターに向けながらアイスビット(魔法)を発動。

 このアイスビットは希少属性である氷魔法の下級レベルに位置して、現れた魔法陣の中から十を超える刃渡り三十センチほどの短剣が相手に射出された。

 だが騎士モンスターは半透明のバリアを展開して氷の短剣を防いでいく。


「おいおい……。バリアまであるのかよ」


 バリア自体は氷の短剣を受けてヒビが入っているが、貫通してないので本体へのダメージはゼロっぽい。

 てか向こうは自信満々に腰から片手剣を引き抜いてない?


「はやっ!?」


 騎士モンスターが片手剣を引き抜きながら地面を蹴った。

 そのスピードはかなり速く、俺は背負っているカバンを投げ捨てて全力でサイドステップを踏んだ。


「な、なんだよ。その化け物みたいな攻撃は……」


 元いた場所に空いた一メートルほどの大きな穴。

 剣を振り下ろしただけなのに、この威力はどう見てもやばい。

 俺は全力でバックステップを踏みながら、アイスビットよりも威力の高い魔法を放っていく。


「アイスランス!」


 氷魔法の中級に位置するアイスランス。

 この魔法なら多少はダメージが入ると思い、二メートル程の氷の槍を作り出し勢いよく射出する。

 だが、騎士モンスターは右手に持つ片手剣で高速で飛ぶ氷の槍を叩き落とした。


「そんなのありかよ!?」


 剣で氷の槍を防御するならまだわかるが、綺麗に叩き落とされるとは……。

 今の現実が受け入れられないので固まっていると、騎士モンスターが先程以上のスピードでコチラに向かってきた。


「やばっ!?」


 この攻撃は避けれない。

 俺は左手に装備している強化プラスチックの盾を構え、攻撃を防ごうとするが騎士モンスターは剣を振るわずにタックルを仕掛けてきた。


「ぐううぅ!?」


 斬撃ではない分マシかもしれないが……。

 騎士モンスターのタックルをマトモに受け、勢いよく地面を転がっていく。

 

「マジでなんなんだよ!」


 こちとら冒険者では珍しい後衛の魔法使いメイジなんだぞ!

 近接戦闘なんて最低限しかできないやつに、強豪のアメフト部っぽい本気のタックルを仕掛けてくるなよ!

 俺はなんとか受け身を取りつつ、イラつきながら立ち上がる。


「ハハッ、どうしてやろう」


 氷魔法だけでは相手を倒すどころか、傷を負わせられるかわからない。

 手札的に消耗は激しくて使いたくないが、奥の手を使うしかないよな。


「やっぱりそうくるよな」


 相手は油断してないのか剣をしっかり構えていた。

 その姿はまさに騎士の鑑に見えるため、コチラも容赦なく奥の手を使う事を決める。


「あまり使いたくないけどコイツで決める! 月蝕エクリプス砲撃キャノン!!」


「!?!?」

 

 固有ユニークスキルの月蝕エクリプス魔法。

 この能力は世界で俺しか持ってない超希少スキルで、魔力消費が大きい代わり通常の魔法とは比べ物にならない威力を持っている。


 ただ、この魔法はあまり使いたくないんだよな……。

 しかも攻撃や強化以外に補助や回復など、大体の事ができるので他の人にバレたら利用されるのが目に見えてしまう。


「俺に奥の手を使わせやがって!」


 ちいぃ、やっぱり魔力消費がきついな……。

 魔法名を叫ぶと白と黒が混じった魔法陣が展開され、中から極太のビームが放たれて騎士モンスターへ直撃した。


「ッ!?」


 相手は剣を盾にしてガードしたが、コチラの魔法の威力が高いため粉々に砕けた。


「トドメだ!」


 剣が砕けた音がしたタイミングで騎士モンスターの土手っ腹に大きな穴を開けた。

 そのおかげでヤツは力が抜けたように地面に倒れていく。


「ハハッ……。なんとか勝てた」


 地面に倒れながらも拳を天高く上げる騎士モンスター。

 金色の粒子になりながらも俺の方を最後まで睨みつけていたアイツの強い意志に、不覚にも俺は感動してしまった。


「とりあえず生き残れた」


 ラグビータックルのおかげで体は痛むが動けない範囲じゃない。

 俺は地面には放り投げた鞄を拾った後、騎士モンスターが残したドロップアイテムを拾っていく。


「うん? この駒はなんだ?」

 

 騎士モンスターのドロップアイテムは、殆どのモンスターが落とす魔石以外にはチェスのクイーンを模った金色の駒のみ。

 

「こりゃハズレか?」


 他にドロップアイテムがないのは残念だな。

 俺は肩透かしを食らった気分になりながらクイーンの駒に触れる。

 その瞬間、俺の手から駒が浮き上がり光り輝き始めた。


「な、なんだいきなり!?」


 チェスの駒が空中に浮きながら光り輝くとか意味不明すぎるだろ!?

 ただそこまで眩しくないので目を開けながら固まっていると、チェスの駒がいきなり砕け散った。


「……え?」


 な、何が起きているんだ?

 今の現実に思考が追いつかないでいると、地面に金色の魔法陣がいきなり現れた。

 

「ドユコト?」


 金色の魔法陣に興味が出てきたので不用心に覗く。

 すると中から現れた何かに抱きつかれて、そのまま地面に倒されてしまった。


「やっと着いたわ!」


「……へ?」


 俺の上に被さっているのは金髪碧眼の少女。

 彼女が現れた事で俺の灰色の生活は色づき始めると同時に、めちゃくちゃになるとはこの時は思ってもいなかった。

 

 

 

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