偽物!?

 大阪で死ぬほど笑い散らかした後、私は京都の友人夫婦を訪ねることにしました。


 この日とは別の機会に訪れた大阪では、友人のやっている店に、客がいない隙を狙って「強盗だ!」と入って行き、「ひぃぃお助けを~」という遊びをしたのはまた別のお話です。大阪人、ノリがいいぜ。


 しかし、そこで母から電話。


『ちょっと、いつ合流するの?仕事終わった?』

「あ~あ~、今大阪だから無理ぃ」

『はぁ?』

「あ、和歌山の友達に桃貰ったから、そっちに送るね!」


 そうだ、仕事があるから、先に子供達だけ行く設定だった。


 すっかり忘れていました。私は、友人がくれた桃1箱を、近くのコンビニから発送しました。どのみち箱を抱えて移動するのは大変なので、1個だけ味見して、後は子供達と両親に食べて貰うことにします。賄賂と荷物の軽量化、一石二鳥です。


 身軽になった私は、青春18切符で京都に向かいました。次は約束もしてないし、急ぐ旅でもないので、気になる場所で途中下車しながら楽しく進みます。


 友人の店は、漫喫……ではなく漫画中華料理店です。壁一面の本棚には漫画が並び、美味しい中華を堪能しながら漫画も読める素晴らしい店でした。

 店主の名前を取って「〇〇ちゃんの店」というシンプルな店構え。私はウキウキしながらお店に入ります。サプライズをしようと思っていたので、行くことは告げていません。


 店内に入り、カウンターの中を見ると、そこには萎びたオジサンが1人。知らない人です。まさかSNSだからって、写真盛った?いや、それにしても別人じゃね?奥さんどこ?2人でやってるって言ったよね?

 私は混乱しながら、カウンター席に座り、カツカレーを注文しました。漫画はいっぱいあるけど中華料理店ですらない。カレーを待つ間、携帯を取り出しSNSで公開質問しました。


『今、ここにおるんやけど、なんか違くない?店名合っとるよね?漫画もいっぱいある。でも〇〇ちゃんがおらん』


 返事はすぐ来ました。例の大阪の友人達です。


『鳥ちゃん!そこ〇〇ちゃんの店やない!すぐ出ろ!』

『カツカレー頼んでもうた……』

『アホォォ!!www』


 友人達は親切に、〇〇ちゃんの店までの地図を送ってくれました。私はカレーを食べた後、ナビに従ってそこに行こうとしました。

 しかし、友人の店は中華料理店。私に美味しい麻婆豆腐を食べさせたいと言ってくれていたのに満腹です。


 アカン。運動してから行こ。


 私は急遽行き先を「貴船神社」に変更しました。電車に乗って坂道を歩いて神様に日頃の怠惰とアホっぷりを懺悔し、腹ごなしは完璧です。


 夕方。店に辿り着くと、友人夫婦は驚きながらも優しく歓迎してくれました。麻婆豆腐と瓶ビールを堪能し、それまでの経緯を話すと、彼らは腹がよじれるほど笑っていました。


「偽〇〇ちゃんの店」はしばらく語り草でしたが、偽扱いはちょっと失礼よなと、私は心の中であのご店主に詫びたのでした。


つづく?

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