陳腐な恋愛小説

「本は全て儂が管理しておるんじゃ」


「へー」


俺は本を読みながら文々の話に適当に相槌を打った。


「知ってるか?この図書館の本は全て寄贈されたものなんじゃぞ?」


正直に言うと殆ど話を聞いていない。

蒼華に至っては書架の上で昼寝をしているし、もはや文々が只々独り言を言い続けている様な状況だ。

先ほどまでは俺も相槌どころか無視していたのだが、誰も聞いてないない事を悟った文々が半べそをかいていたので流石に可哀想になり、真面目にではなくとも少しは聞いている。


「寄贈本だからか、どんな内容の本であろうと覚えてるんじゃよな。やっぱり寄贈してくれた奴らを本を通して思い出すんじゃよ」


「へー、いいね」


ただの自慢話かと思ってけど意外と良い話だった。


というか、この本面白いな。

魔術界の図書館とか、論文に歴史書とか辞書みたいなお堅いもんばっかだと思ってた。

もちろん、そういう本も好きだけど読むならやっぱり小説だ。

現実世界とは常識が少し違うからか独特な世界観でどれも面白い。

いやあ、良い作品に出会えたぁ!


「ん?その本は西の大陸の政治家が200年前に書いたものじゃな!偏った考えを持つ奴じゃったが、どうじゃ?面白いじゃろう?」


「うん。良かった。前半は冷めたタイプで共感出来ない主人公として書かれてたけど、後半になるにつれて伏線が回収されて主人公の胸の内が明かされる。上下巻で綺麗にまとまってたし最高だね」


「そうじゃろう!そうじゃろう!」


文々はまるで自分の事かの様に誇らしげだ。

むふっーと鼻息を吐いて腕を組み仁王立ちしている。


「しかーし!儂がお主に読んでほしいのはコッチじゃ!」


そう言って俺を指差す。

すると数秒もしないうちに遠くの書架にあった本がひとりでに動き出し、飛んできた。


「これじゃな、儂がお主に勧める本は!」


「エッセイ?」


「いや、小説じゃな」


どうやら小説だった様だ。

よくある文庫本の4割程度の厚みだ。


「どうゆう話?」


「よくあるタイムリープ恋愛小説じゃな」


「今日中に読んでおくよ」


「そんな焦らずともよい。その本はくれてやる。ゆっくりと読め」


まさかのプレゼントだ。

俺は文々に貰った本をブレザーの内ポケットへといれる。

他のポケットよりも大きく出来ているここならば本が折れたりすることもないだろう。


「「「!?」」」


昼寝をしていた蒼華も飛び起き立ち上がった。

この場にいる3人とも異変に気がついたのだ。

何か学園に満ちている魔力の雰囲気が変わった。

つい10数秒前までは爽やかで涼しげな魔力だったのに急にネットリとベタついた魔力に変化した。


この学園で何かが起き────────



ボォォォォォン!!!!!!

入試の日に蒼華が放った魔術とは比べ物にならない爆音。

音からして校舎というより海上で何かが爆発したと考えた方がいいだろう。

間違いなく誰かが戦っている。


「響!行くぞ!」


未だ鳴り響く戦闘音から位置を割り出したのか蒼華は迷うことなく一直線に走り出した。

俺はそれに追従する。


「儂は万が一の為に図書館に結界を張っておく。後で合流するから先に行っとれ」


既に術式の展開を始めた文々は結界を構築し始めていた。

それを横目に俺と蒼華は開いていた窓から飛び降りて校舎の外周、海に隣接する道路を走る。


「学園の東側に知らない魔力が多々あるな」


「さっきの爆音がした場所からはアカネと黒い魔力の2人分感じた」


俺より感知が優れている蒼華が言うのだから間違いないだろう。

蒼華は心なしか上機嫌だ。


「突如現れた多数の魔術師。学園教師と戦う黒い魔力………」


蒼華は口元を歪ませて言う。


「襲撃だ!」





──────────────


※補足


学園の校舎は五つあり、その全てが外壁に覆われています。(響達がいるのは第一校舎です)

壁の中に学舎、食堂、時計塔、寮、運動場などがあり1つの町の様になっています。

図書館は壁にめり込んでおり、南側の外壁の一部は図書館の壁となっています。

だから、響達は図書館の窓から飛び降りる事で外壁の外へ出て海側へと行くことが出来ました。


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