気絶する季節
「えー魔術とは大きく分けると刻印魔術と顕現魔術の2つに分けることが出来ますねー」
白衣を着た頭ボサボサの研究者らしき先生が魔術の基礎について語っている。
入学式を終えて図書館へと行ってから1週間。
俺達は授業に出ていた。
この学園はテストの結果さえ良ければ進級に差し支えないらしいから、俺と蒼華は授業に出席する気はなかった。
がしかし、受けざるを得ない理由があった。
およそ1週間前、入学初日から図書館を出禁にされてしまったのだ。
理由は考えるまでもなく蒼華の“のじゃロリ発言”だ。
窓から飛んでいった蒼華を担いで平謝りした所、「授業を真面目に受けて昼休みに図書館に来い」と言われた。
ワンチャン出禁が解除される可能性があるので文々の指示に従っているのである。
「刻印魔術は自身もしくは相手の身体を媒介に作用する魔術でありー、顕現魔術は自然を媒介としますねー」
「ふむふむ成程、そういう事だったのか…!」
階段状になっている教室の1番後ろの席。
階段状になっていない小中学校によくある普通の教室ならば後ろの席も先生の監視が行き届くのだが、魔術学園の教室の構造的に最後尾の位置で授業を受けていれば何をしていても先生にバレる事はないのだろう。
だから俺の隣に座る蒼華は教科書ではなく今週発売の漫画雑誌を開いていた。
かくいう俺も教科書こそ開いているが真面目に授業を受けているかと聞かれれば、NOと言わざるを得なかった。
「効果の上昇率は刻印魔術は魔力出力、顕現魔術は魔力量に依存しますねー。えーまたー、戦闘において刻印魔術師は近距離の肉弾戦を得意としー、顕現魔術師は遠距離の魔術戦を得意としますねー」
しかし、蒼華と俺の決定的違いは
俺は教科書を開き黒板を見ている。
蒼華は雑誌を開き漫画を読んでいる。
例えば、教員がその様子を後ろから見ていたとしたらどう思うだろうか?
「蒼華ちゃん?入試の日にも言ったよね?」
底冷えする様な声だった。
顔に笑顔を貼り付けているものの内心怒っている事が見え見えだった。
「あっ、アカネさん……」
赤髪の姫カット。
白いシャツに黒いレギンスパンツ。
赤いリップが特徴的な女性だ。
この人に会うのは初めてではない。
何故なら、彼女は入試の日に職員室に蒼華に説教を垂れてた教師だからだ。
「うっ!?」
逃げ出そうとしていた蒼華だったが、俺でなきゃ見逃しちゃうほどのスピードで首根っこを掴まれ拘束された。
「蒼華ちゃん。また私とお話ししようか」
「響!助けて!おい!助けてぇ!」
なんと情けない声だろう。
蒼華には悪いが俺は学園の図書館で一刻も早く本が読みたいんだ。
頑張ってくれ!good luck!
###
授業が終わり俺はいち早く教室を出た。
昼休みは3時間ある為、別に急ぐ必要はない。
だから、校舎見学も兼ねてゆっくりと図書館へと向かっていた。
「双柳…響くんですね?」
その最中、声をかけられた。
俺の視線の先には、つい先程蒼華を連れていったアカネとかいう教師がいた。
本能的にこの女は苦手だ。
話せば話すほど面倒臭いタイプだと俺の直感が告げている。
「悪いけど俺はあんたと話す事は一つもないぜ」
「まあ、そう事を急かないでください」
「文々館長に呼ばれてて急いでるんで」
一応呼ばれてるはいるので嘘ではない。
「それは失礼。手短にいきますね」
どうやら学園の教師らしく話の分かる奴だったようだ。
蒼華の知り合いだから「話を聞かないなら実力行使だ!」とか言ってくるタイプだと思ったのだが違かったらしい。
「君は魔女の弟子だよね?」
「?」
魔女の弟子?
何だ?何の事だ?
「どういう訳か今は蒼華ちゃんに付き従っている様だけど君の本来の主人は魔女でしょう?」
本来の主人?
記憶を失う前、というか抜け落ちている記憶の俺は魔女の弟子だったのか?
目の前の教師の言葉に妙に納得してしまう。
不思議とそうだったという実感があるのだ。
しかし、まあ、今となってはあまり関係のない事だ。
「悪いが身に覚えがないんだ」
響は朱音の突き刺す様な視線を背に受けるが、気づいてないふりをしたまま図書館へと向かっていった。
廊下にひとり残された朱音は呟いた。
「絶対に許さない」
###
「ヒィビィィキィィィイ!」
その叫び声と共に背中に衝撃が走った。
飛び蹴りにより床に倒れ込んだ俺に蒼華は馬乗りになる。
「後ろにアイツが居たの知ってたなら言えよ!よくも!よくも私を見捨てたなァ!?1度ならず2度までもぉ!許さん!」
ギャーギャーと騒ぎながら俺の腹を殴ってくる。
やばい。コイツ加減というものを知らない。
マジ死ぬ。廊下割れる。やばい。
儚い人生だった……。
というか蒼華に拾われてから1ヶ月の記憶しかないって事は、実質俺は生後1ヶ月????
俺は赤ちゃんだったのか!?
やばい!殴られ過ぎて判断力が低下してきてる!
朝食べたものが出てきそうだ!
「双柳!」
ふと名を呼ばれて蒼華の手が止まった。
俺と蒼華、声のした方向を向いた事で声の主が視界に入った。
そこに居たのは入試の日、蒼華が踏み付けにしていた褐色筋肉少年である。
そして後ろに控える俺最強マントマン。
あのヤバいマントマンは筋肉少年の従者だったのか!
関わりたくないランキング上位の2人である。
こんな事なら蒼華に殴られて気を失っておいた方が楽だったかもしれない。
「誰?」
蒼華は筋肉少年の事を思い出せていない様だ。
蒼華の発言に筋肉少年の額に青筋が立った。
「入試の日にお前がボコってた奴だよ!何で忘れてんだ!」
「ん?ああ!思い出した!あれか!喧嘩売ってきたのに一発蹴られただけでノビた奴!」
蒼華のナチュラル煽り癖によって、またもや筋肉少年の額に青筋が立った。
「お前!煽るな煽るな!筋肉タイプの思春期の男の子は女に負けたとかそういうの特に気にするんだよ!筋肉少年のプライドを傷つけるな!」
ありゃ?なんか筋肉少年がさっきより赤くなった様な気がする?
ん?もしかして怒ってる?
「俺の名前はオルヴィスだ!筋肉少年じゃねえー!」
我慢の限界だったのか、筋肉少年ことオルヴィスは殴りかかってきた。
蒼華はまだしも俺は上に蒼華が乗っているせいで身動きが取れない。
その事を悟ったのか、蒼華はニヤニヤしながらこっちを見た。
どうやら俺が避けれなくなる距離まで待つつもりの様だ。
終わった……
流石にアレを喰らったら朝飯が全部出る,
入学から2日で廊下でゲロ吐くとか、3年間弄られるに決まってる。
さらば青春!さらば朝飯!
…………、
……………、
………………、
…………………、
………………………?
いつまで経っても殴られる気配がない。
どういう事だ?
恐る恐る目を開けると未だ蒼華は馬乗りでいてオルヴィスは地面にめり込んでいた。
めり込むオルヴィスの上でしゃがみ込んでいるのは我らが図書館長、文々栞その人であった。
「出禁にはしたが、本当に来ないとなると流石の儂も寂しいぞ」
どうやら中々図書館へと来ない俺を館長直々に迎えにきてくれた様だ。
なんと優しい。のじゃロリツンデレ寂しん坊とか属性積み過ぎだろこの人。
「ほれ、はやく行くぞ」
そう言って俺と蒼華の腕を掴み引っ張る。
園オルヴィスの様子が気になり、ふと振り返ると俺最強マントマンが気を失ったオルヴィスを肩に担いでいた。
よく気絶してるなぁ。
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