HAHAHAHAHA
「学園入学に金が必要なのは教えてくれたけど他に必要なものはないのか?」
「んー?」
俺に晩飯の用意を任せてソファで寛ぐ蒼華に聞いた。
部屋着という名のパジャマに身を包み、テレビを流しながら本を読む。
晩飯前だというのにお菓子とつまみを貪っている。
一人暮らしを始めたばかりの大学生でもそんな不摂生ではないぞ。全くどうしたら良いものか。
「んーとねー。確か受験に必要なのは金、身分証明書、筆。そんくらいだった気がするー」
出来上がったハンバーグの匂いを嗅ぎ取りのそのそと食卓へと移動してきた。
それにしてもコイツ、普段の生活はだらしないが食べ方だとか所作は品を感じさせる貴族の様な華麗さである。
自身の見た目にあまり頓着していないのか身だしなみは粗雑ではあるものの恵まれた容姿がギリギリで体裁を保たせていた。
「金、身分証、筆。本当にそれだけか?必要なもんは」
「しつこいなー。私が言ってんだから大丈夫大丈夫。必要なものはその3つだけ。明日の受験の用意もバッチリ!響は私の従者として入学出来るから試験を受ける必要もなし。私が試験を合格すれば万事解決って訳よ」
フォークをクルクルと回しながら自らの計画を話していく。
もう何度もした会話だ。
俺が同じ事を何度も聞いているからである。
そんなに何度も聞く必要がない事は分かってる。
しかし、それでも同じ質問をしてしまうのは蒼華の性格を知っているからであった。
まだ1ヶ月と短い期間ではあるが共に過ごして分かった。
蒼華は詰めが甘い。
何かしらミスをすることが多々ある。
ここ1ヶ月で蒼華の魔術師としての実力が高い事も把握している。
その為、試験での失敗はない。
だから今回の場合、持ち物だったり遅刻だったり、そういったもので失敗する可能性が高い。
試験に落ちて学園に入学出来ないからといって死ぬ訳ではないのだから、そこまでムキになる必要もないのだが、どうせやるならとことんやるべきだ。
美味い美味いと俺の分のハンバーグまで食った蒼華の頭に手刀を入れて食事を続けた。
蒼華の笑みに一抹の不安を覚えながら。
###
翌日朝6時半。
蒼華に伝えられた試験会場への入場開始が朝10時だった事を考えるともう起こした方がよいだろう。
蒼華の部屋をノックし起きているか確認を取る。
「朝だぞー。起きてるかー?」
「……」
返事がない。
まだ寝ているのか?
入るぞと一言言ってから扉を開けた。
「お!偉い。起きてるじゃん」
部屋へと入ると寝巻き姿で佇む蒼華の姿があった。
どういう訳か。声をかけても反応がない。
その姿を不思議に思い蒼華へと近づく。
ふむ。蒼華は何か紙を見ているようだ。
「あ、あの非常に申し上げにくいのですが……」
蒼華はこちらを見て丁寧な口調で話し始めた。
「試験開始時刻を10時からって言ったんですけど」
「うん」
「現地時刻で10時だったみたいで」
だんだん話の意図が見えてきた。
どうやら俺の悪い予感は当たったみたいだ。
つまりは─────
「日本時間の場合、試験の開始が6時半だったかもしれなくてですね……」
俺と蒼華の間にしばしの沈黙が流れる。
そして数秒の後、やっと頭が現実に追いつき思考を始めた。
「HAHAHAHAHAHA!」
爆笑する俺に蒼華がキレる。
「何笑っとんじゃ!はよ車出せえええ!!!」
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