チョコレートの箱
奈那美
第1話
「……うん、甘い」
彼女が教室でそうつぶやいた。
その時教室に入りかけていた僕は、そのまま動けなくなってしまった。
なぜって……その声が、とても寂しそうだったから。
そっと中をのぞくと、彼女──
ぼくがいる場所からは顔は見えない。
ぼくが来る途中、安藤さんと仲良しの
もしもふたりがケンカをしたのだったら、新川さんは怒った顔だったり泣き顔だったりだと思うから、ケンカはしていないはず。
だとしたら、声が寂しそうだった原因はきっと……。
ぼくは意を決して教室の中に入った。
「あれ?安藤さん、まだ残ってたんだ」
「あ……遠藤君。うん、ちょっとね」
「さっき新川さんが嬉しそうに走っていくのを見たんだけれど、今日は一緒には帰らないんだ?」
ぼくがそう言うと、安藤さんの顔から一瞬だけ表情が消えた。
でもすぐにいつもの笑顔で答えてくれた。
「うん……あのね、有紀ってば──言っちゃっていいのかな?うん、いいよね。有紀ってば、加藤君にチョコあげて。それで早速、一緒に帰ることになったんだって」
「……いいの?大丈夫?」
「大丈夫って……なにが?」
安藤さんが真顔になって、ぼくを見返してくる。
大きな目……だけど瞳が泳いでいる。
「その……新川さんと加藤がつきあっても」
「だ、大丈夫だよ?有紀が加藤君を好きで。それでチョコあげてつきあうことになって。有紀の
「じゃあ聞くけど、安藤さんの恋心は?叶わなくていいの?」
「私の?」
ぼくはうなずいた。
「私は……いいの。叶わないから」
「うん……わかってる」
「え?」
「……ぼく、気がついていたんだ。安藤さんが新川さんのことを好きでいること」
安藤さんが目を大きく見開いた。
「うそ……」
瞳の中に、ぼくが映っているのが見える。
「ぼく、安藤さんが好きで、ずっと目で追ってたから──だから気がついたんだ」
ぼくの突然の告白に、安藤さんは驚いたような表情を浮かべた。
「……ありがとう。でも、今は……ゴメン」
「ぼくのほうこそ、ゴメン。でも、告れたから、ほっとしてる」
頭をかきながらそう言うぼくに、安藤さんは手にしていたチョコレートの箱のふたを開けて差し出した。
「友チョコ、どうぞ召し上がれ」
チョコレートの箱 奈那美 @mike7691
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