27話 交流会②

ロレッタ視点


「本日は我が国にお越し頂きありがとうございます」


 私は王宮内の大広間に集まった来客を見渡して挨拶を述べた。カトリーヌやバーバラやユーゴが前の方の列で私を見守っている。あとは知らない顔だった。


 今日は初めての交流会。普段はガラリとした大広間もこの日のために準備を進め、テーブルに料理やお酒が準備してある。やばい、緊張してきた……


「ロレッタ、そんなに緊張しなくてもいいんだよ」

 

 隣にいたクリフトが耳元で囁くが、とても無理な話だ。それに今日のクリフトは外交のためか、いつもより何倍もかっこいい。 


 黒色のタキシード風の衣装と金色の糸で施された刺繍がよく合っている。まさに中世ヨーロッパの王子様。スラリとした体型と相まってエレガントな雰囲気が溢れている。


「ねぇ、私って場違いじゃないかな? こんな凄い会に参加しても大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。今日の会は僕の王妃を皆んなに自慢する目的もあるからね。安心して、どんな令嬢よりも君が一番可愛よ」


「そっ、そういうのが緊張するからやめてよ!」


 クリフトは恥ずかしがる私の様子を見て楽しそうにクスクスと笑い出す。意地悪!


「さぁ、せっかくだから踊ろうか!」


「えっ、でも私ダンスなんてほとんどやった事がなくて……」


「大丈夫。僕がリードするよ」


 クリフトは私の手を取ると会場の中央に向かった。そして音楽が流れると優雅に踊り始めた。


 初めは少しぎこちなかったが、徐々に足並みが合ってきた。次は何処に行くのか? 何をしたいのかが手を取るように分かる。


「上手だよロレッタ」


「あっ、ありがとう」


 私たちはステップを踏みながら少し開けた場所に向かった。そこでターンを決めるとフワリとドレスが舞い上がる。


 音楽は徐々にペースを上げていく。それに合わせて私たちのダンスも激しさを増していく。無事に曲が終わると一斉に拍手が送られた。


「素晴らしいダンスでしたよロレッタ王妃」


 乱れた呼吸と髪を整えていると、知らない人から褒め称えられた。えっとこの方は確か隣の国の……


「申し遅れましアシリア王国第一王子のアンドレイと申します。それとこっちが弟の……」


「カールです、以後お見知りおきを」


 よく似た2人の兄弟は律儀に挨拶を交わす。どちらも顔はよく似ているけど、兄の方はどこか強気な……弟の方は少し不安げな表情をしているのが気になった。


「ベルシス王国、王妃のロレッタです。本日はお越し頂きありあとうございます」


 私はドレスを軽く摘み上げて会釈をすると、簡単な自己紹介をした。


「ロレッタ王妃、このパーティーが終わった後で構わないので、2人で話しませんか?」


 兄の方のアンドレイ様が私を指名する。チラッとクリフトの方を見ると、渋々頷いてくれた。他の男性と私が2人きりになるのが嫌なのかな? 


「分かりました。中庭のテラスあたりはどうでしょうか? あそこなら誰も来ないので」


「それはいいですね!」


 アンドレイ様は満足そうに頷くと一足先に去って行く。1人取り残された弟のカール様は、周辺を見渡すと声を潜めて話しかけてきた。


「ロレッタ王妃……兄はその……あまりペルシス王国の事をよく思っておりません。どうかお気をつけて下さい」


 カール様の不穏な発言に隣にいたクリフトが眉を顰める。


「それはどういう事だ?」


「兄はその……ペルシス王国とは仲良くするよりも制圧して自分の領地にするべきだと主張していまして……」


「「せっ、制圧!?」」


 つい声が大きくなって周りの視線が集まる。私たちは慌てて口に手を当てて声を落とした。


「しかし、どうしたものか……僕もついて行こうか?」


「いえ、大丈夫です。私1人で行きます。下手に警戒されても困るので。それにいいアイデアがあるので任せて下さい」


 私はクリフトとカールに会釈をして離れると、急いでカトリーヌとバーバラの元に向かった。


「あっ、ロレッタ、さっきのダンス凄がったよ!」


「一体いつの間に練習していたのですか?」


 早速2人が私のダンスを褒めてくれた。気持ちは嬉しいけど、今はそれどころじゃない!


「ねぇ、2人とも、少しお願いがあるんだけど……」


 私は簡潔に作戦を伝えると、自分の部屋に向かった。




* * *


第一王子 アンドレイ(兄)視点


「いいかよく聞け、この交流会が終わったらロレッタがこの中庭に来る。そしたら背後から忍び寄ってこのナイフでブッ刺すんだ。それで任務完了さ」


 俺は追放者のテスタとコンスタンスに全身隠せるローブとナイフを手渡した。


「流石にお前たちが望む拷問をしている暇はないからな、サクッと殺して逃げるぞ」


「そうか……まぁ、仕方ないか……」


「出来ることなら沢山痛めつけたかったのになぁ……」


 2人は少し残念そうにしていたが、バレてしまったら意味がない。まぁ、こいつらには適当に報酬を与えておけばいいだろう。


「じゃあ時間になったら頼んだぞ。俺が手を叩いて合図を送ったら出てきてくれ」


 俺はコンスタンスとテスタに念押しをすると、無駄な交流会が終わるまで適当に時間を潰した。


 あの王妃もまさかこれが最後の舞台になるとは思わないだろうな……




* * *


ロレッタ視点


「よし、これで準備おっけいね」


 交流会が終わり、私は軽く身支度を整えると、中庭に向かった。テラス席にはアンドレイ様が座っている。向こうも私に気がついたようで、席を立つと手招きされた。


「お待たせしてしまい、申し訳ございません」


 私は軽く謝罪を述べると早足でテラス席に向かった。すると、アンドレイ様は突然手を叩いた。その瞬間、背後から茶色いローブ姿の人影が現れて私を突き飛ばした。


「──っ‼︎ 痛った……」


 茶色いローブの二人組は、私に馬乗りになると、ナイフで突き刺した。


「きゃぁーーーっ!!!」


 ジンワリと赤い液体が地面に広がる。アンドレイ様は苦しむ私を見ながら楽しそうに高笑いを上げた。


「はっ、はっ、はっ! いい悲鳴だ! そうだ苦しめ! お前は邪魔だからここでくたばれ! この国は俺が占領する」


 アンドレイ様は私を軽蔑の眼差しで見下ろすと、部下らしき茶色いローブの二人組を引き連れて夜の街に消えていった。

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