28話 交流会③
第一王子 アンドレイ(兄)視点
「よくやったお前ら。もうそのローブは外していいぞ」
アンドレイは王宮を抜けて人気のない夜道までくると、テスタとコンスタンスを労った。しかしローブの中から出てきたのは知らない2人の女だった。
「なっ、だっ誰だおまえたちは!?」
「初めまして、バーバラよ。それとこっちが……」
「カトリーヌです。アンドレイ様、無駄な抵抗はやめてついて来てもらえますか?」
知らない女が突然この俺に指図をする。なんだこいつらは!?
「どういうことだ!? コンスタンスとテスタはどこにいったんだ‼︎」
「ここだよ!」
今度は物影から背の高い男がテスタとコンスタンスを抱えて現れた。そいつは乱暴に2人を俺の隣に投げ飛ばす。
「痛たた……ちょっとどいてよ! チビ、デブ、ハゲ!」
「なんだと小娘! お前が油断するからこんな事に!」
2人は取っ組み合いをすると醜く言い争う。クソ、訳が分からない……
「残念だったわね、アンドレイ第一王子」
混乱する俺の元に1人の女性が近づてきた。
「どっ、どうしてあんたが生きてるんだ!」
一瞬悪い夢かと思ったが、間違いなくここは現実だ。どういうカラクリなのか知らないが、目の前には殺したはずの
数時間前
バーバラ視点
「本日は我が国にお越し頂きありがとうございます」
ロレッタから交流会に紹介されたバーバラは、カトリーヌとユーゴと共に最前列でロレッタの挨拶を聞いていた。
「何だかとても緊張しているわね」
「ふふっ、そうですね」
カトリーヌと軽く雑談をしつつ、私は会場を見渡した。テーブルの上にはハタマ村で取れた自慢の野菜を使った料理が並んでいる。今度村に顔を出した時に感謝しなくちゃね。
しばらく会場をうろうろしながら隣国の人と話をしていると、音楽が流れ始めた。すると、ロレッタとクリフト様が優雅に踊り始めた。
2人ともとても楽しそうだ。何だか見ているこっちまで微笑ましくなる。演奏が終わり割れんばかりの拍手が2人に送られる。
「凄い上手だよね」
隣で見ていたカトリーヌもうっとりとした表情で感想を述べる。せっかくだから本人に直接、感想を言いに行こうとしたが、ロレッタは2人の王様に捕まってしまった。
仕方なく会話が終わるまで待っていると、ロレッタが私とカトリーヌの元に駆け寄って来た。
「あっ、ロレッタ、さっきのダンス凄がったよ!」
「一体いつの間に練習していたのですか?」
私とカトリーヌが賞賛を送るけど、当の本人はどこか浮かない顔をしている。何かあったのかしら?
「ねぇ、2人とも、少しお願いがあるんだけど……第一王子のアンドレイ王子を偵察して欲しいの」
「偵察?」
カトリーヌはポカーンとした表情で首を傾げる。
「分かったわ。任せて」
私は二つ返事で頷くと、カトリーヌの手を引っ張った。事情はよく分からないけど何かありそうね。
「行くわよカトリーヌ」
「はっ、はい」
バレない様にアンドレイ第一王子の後ろをつけると、薄暗い中庭に辿り着いた。そして誰かと密談を始めた。
「いいかよく聞け、この交流会が終わったらロレッタがこの中庭に来る。そした背後から忍び寄ってこのナイフでブッ刺すんだ。それで任務完了さ」
アンドレイがテスタとコンスタンスに全身が隠せるローブとナイフを手渡した。
「流石にお前たちが望む拷問をしている暇はないからな、サクッと殺して逃げるぞ」
「そうか……まぁ、仕方ないか……」
「出来ることなら沢山痛めつけたかったのになぁ……」
「じゃあ時間になったら頼んだぞ。俺が手を叩いて合図を送ったら出てきてくれ」
アンドレイはそう言い残すと大広間の方に戻っていく。なるほど彼が黒幕ね。それにしてもロレッタの直感は恐ろしいわね。
取り残された追放者はローブを羽織ると、軽くナイフを振って試し切りを始めた。これはどうにかして止めないと!
「なぁ、お前ら何してるんだ?」
「「きゃぁ!!!」」
急に誰かに肩を叩かれた思わず悲鳴を上げてしまった。振り返ると事情を知らないユーゴが呑気な表情で突っ立っていた。
「だっ誰だ? そこに誰かいるのか?」
「えっ、嘘でしょ? 出て来なさいよ!」
コンスタンスとテスタがナイフを構えて周辺を警戒する。もう隠れていても仕方ないわね。
「ストップガン! ユーゴ、あいつらはロレッタの命を狙っているの。今すぐ捕まえるわよ!」
私は2人を拘束すると、手短かにユーゴに事情を説明した。
「ロレッタ姉さんの命を狙う? そんな奴らは俺が許さねぇ!」
ユーゴは腕を捲ると、渾身の右ストレートを2人に打ち込んだ。無防備な状態で攻撃を受けたコンスタンスとテスタは白目をむいて気絶する。
「どうしますかこの方達は?」
「そうね……2人で見張っておいてくれる? 私はロレッタに状況を伝えて来るわ」
私は急いでロレッタがいる部屋に向かって手短かに説明した。
「なるほどね、アンドレイ王子が私の命を狙っている……偵察ありがとね。相手の出方が分かっていたら何とでもなるわ」
ロレッタは私を労うと腕を組んで唸り始めた。
「確かローブを着て襲う計画なのよね? だったらバーバラとカトリーヌがそのローブを着て私を襲いに来てよ。背中なら思いっきり刺していいよ」」
「分かったわ。アンドレイが手を叩くのが合図みたいだから覚悟しておいてね」
私はカトリーヌとユーゴがいる中庭に戻ると、ローブを着てロレッタが来るのを待ち続けた。
ロレッタ視点
「さてと、そうなると少し準備がいるわね」
私は誰にもバレない様に城の地下にある武器庫に向かうと、血糊をいくつか持ち出した。騙すからには徹底的にしないとね!
「よし、これで準備おっけいね」
交流会が終わり、私は軽く身支度を整えて中庭に向かった。テラス席にアンドレイ様が座っている。向こうも私に気がついたようで、席を立つと手招きされた。
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
私は軽く謝罪を述べると早足でテラス席に向かった。すると、アンドレイ様は突然手を叩いた。その瞬間、背後から茶色いローブを羽織ったバーバラとカトリーヌに押し倒された。
「──っ‼︎ 痛った……」
バーバラが私の上に乗ると、鋭利なナイフを背中に突き刺す。
「きゃぁーーーっ!!!」
いかにも苦しそうな悲鳴と共に血糊が地面に広がる。アンドレイ様は苦しむ私を見ながら楽しそうに高笑いを上げた。
「はっ、はっ、はっ! いい悲鳴だ! そうだ苦しめ! お前は邪魔だからここでくたばれ! この国は俺が占領する」
アンドレイ様は私を軽蔑の眼差しで見下ろすと、カトリーヌとバーバラを連れて夜の街に消えていった。さてと、そろそろいいかしら?
「ロレッタ姉さん、お怪我はありませんか?」
「大丈夫よ。ユーゴは気絶しているテスタとコンスタンスを連れて行って」
私は乱れた服と髪を軽く直すと、急いでアンドレイの後を追いかけた。
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