16話 厄龍に成り果てたアラン

ロレッタ視点


「皆んな逃げて!」


 広場に集まっていた国民は私の声に急かされて一斉にその場を離れた。兵士たちが懸命に避難誘導をしているが、当然厄龍サタンが待ってくれるはずがない……


「焼け果てて死ね!」


 巨大な火の玉が雨の様に街に降り注ぐ。このままだと皆んなが焼け焦げてしまう……そんなことはさせない!


「エアーストーム!」


 足元から発生した風は上空に舞い上がり、火の雨を押し返した。だけどまだ足りない……もっと威力を出さないと!


「ロレッタ、私も手伝うわ!」


「ロレッタ姉さん! 俺たちも加勢しますぜ!」


 逃げまどう国民の波を通り抜けて、親友のカトリーヌと子分のユーゴが私の横に立つと、風の魔法を放った。


「2人ともありがとう!」


 荒れ狂う風はハリケーンの様に勢力を増して厄龍アランが放った火のブレスを押し返した。灼熱の炎は厄龍の羽に直撃する。


「おのれ……人間どもめ!」


 羽が焼けた厄龍アランは地面に墜落すると、金色に輝く目で私たちを見下ろした。今なら蛇に睨まれたカエルの気持ちがよく分かる。足は震えるし、頭の中で危険信号が鳴り響く。だけどここで引くわけにはいかない! 


「おとなしく我に殺されろ!」


「悪いけどそれはできないわ! だってなんだもん!」


 街ゆく人々の楽しそうな声、優雅なドレス、そして歴史ある建物。初めてこの世界に転生した時は嬉しさのあまり感動した程だ。絶対に守ってみせる!


「そうか……だったら守ってみな!」


 厄龍アランは不意に笑みを浮かべると、逃げ遅れていた子供に向かって火のブレスを放った。


「………っ! 何するの!? やめて‼︎」


 一瞬魔法で相殺しようと思ったけど、呪文を唱えている暇がない! 私は無我夢中で走ると、両手を広げて子供を抱き抱えた。瞬く間に全身が炎に包まれる……


「きゃああぁーッ!」


 地獄の様な熱さと、皮膚が溶けていく痛みに襲われて私は悲鳴をあげた。痛い、熱い! 熱い‼︎


「ロレッタ! 今消すわ!」


 カトリーヌの唱えた水の魔法のおかげでなんとか消火された。でも全身に酷い水脹れが出来て少しでも動くと激痛がはしる。


「貴様……よくもこんな酷いこと!」


 クリフト様は私の有り様をみると、怒りを露わにして厄龍を睨みつけた。普段の優しい性格からは想像もつかない、冷たくて殺気のある口調だった。


「ロレッタ、傷口をよく見せて下さい!」


 カトリーヌが私の傷口に手を当てて回復魔法を唱えてくれた。針で刺されていたような鋭い痛みが緩和されていく。


「カトリーヌ殿、ロレッタの手当てを頼む」


「ロレッタ姉さんは休んでいて下さい!」


 クリフト様とユーゴがアランの足止めをするが、徐々に押されていく。早く私も戻らないと!


「………っ‼︎ いっ……たぁっ‼︎」


 慌てて体を起こしたせいで傷口がズキズキと痛む……まだダメージは残っているようだ……


「ロレッタ、まだ動いちゃダメだよ!」


 厄龍アランが薙ぎ払った爪がクリフト様とユーゴに直撃して私のすぐ隣まで吹き飛ばされる。このままだと全滅する……


「終わりだ!」


 今度は口を大きく開いてブレスを放とうとする。クリフト様とユーゴは満身創痍だし、私も全身ボロボロでまともに動けない……


「死ね!!!!!」


 誰もが諦めかけたその時、1匹の白い影が私たちを守るように割り込んで来た。


「えっ、シャーロット⁉︎ どうしてここに?」


 オッドアイの白猫のシャーロットは低く構えると全身の毛を逆立て威嚇声を上げる。


「シャアァァァ!!」


「命知らずの奴だな、猫1匹が助けに来た所で何もかわらん!」


 巨大な口から灼熱の炎がチラチラと見える。あんなのに当たったら間違いなく死ぬ。何か、何かこの状況を打破する方法はないの? 







「じゃあ、どうかしら?」


 頭をフル回転させて必死に生き残る方法を考えていると、突然女性の声がした。あれ? この声はまさか……


「ストップガン!」


 聞いた事のない魔法によって厄龍アランの動きがピタッと止まる。行き場を失った火のブレスは口の中で大爆発を起こした。


「クソ! 今度は誰だ!」


 口から黒い煙を出しながら厄龍アランは声がした方を見上げる。私もつられて見上げると、屋根の上にがいた。

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