9話 準備は全て整った

前書き


今回は第一王子アランのクズ発言があります。ですが、15話で公開処刑をするための伏線なので、不快に感じる方は流し読みで大丈夫です。



──────


ロレッタ視点


「ロレッタお嬢様、こんな夜遅くまで勉強ですか?」


 ユーゴたちにお願いしておいた、第一王子アランの報告書を読んでいると、メイドさんがホットミルクを持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


「勉学に励むのはよろしいですが、どうか無理はされないで下さいね。また寝込まれたら心配です」


 メイドさんは掛け布団を私の肩に掛けると一礼をして部屋を出て行った。バーバラの暴走を止めるために大量の魔力を使い、意識をなくして寝込んでから、より一層気にかけてくれる様になった気がする。嬉しいけど何だか申し訳ない。


 第二王子のクリフト様も定期的に様子を見に来て下さる。本当に優しい王子様だ。それに比べて第一王子のアラン様は想像以上のクズ王子だった。実際会った事はないけど、子分たちの報告書からおおよその性格は判明した。


 まず最初にこの男は女遊びが酷いらしい。国の税金を使い、夜の街で使い果たした事もあるそうだ。しかもお金がなくなると、多額の借金をして女遊びに使ったらしい。


 さらにメイドの若い女の子にも手を出して孕ませたという噂もある。当然養う気はないため無理やりおろさせたそうだ。これに関しては読んでいて殺意が湧いてきた。


 そして何より困ったのが、私の親友のカトリーヌが、このクズ王子のアランと学校の創立記念日の日に結婚してしまう。とてもじゃないけどこんな奴に私の大切な親友を奪われるわけにはいかない。


 幸い、子分たちの働きによって証拠がかなり集まってきた。設立記念日まであと1週間。もうひと頑張りね。


「ふぅ……どうして同じ兄弟でここま差が生まれたのかしら?」


 私はホッとミルクを飲んで一息つくと報告書をめくった。そこには幼馴染のシリアとも浮気をしていると書かれていた……




* * *


第一王子の兵士視点


「アラン王子! 陛下がお呼びです! 大至急お戻り下さい!」


 第一王子の兵士は主人を見つけると、真っ青な顔で駆け寄った。テーブルには大量の酒が並び、両方の席には若い女が座っていた。


「何だよ、今いいところだから後にしてくれよ〜」


「ダメです。それにまたこんなにも贅沢をして……陛下に怒られますよ!」


「いいんだよ。ボクは第一王子なんだぞ! 少しくらい贅沢をして何が悪いんだ!」


「国民から集めた税金ですよ! アラン様が好きに使っていいお金ではありません!」


 アランはムッとした表情で立ち上がると、兵士の顔に酒をぶっかけた。


「黙れ! 誰に口を聞いているんだ! ボクは王子なんだぞ! 国民はボクが裕福に過ごせるために働くべきなんだ!」


 兵士は歯を食いしばると、必死に怒りをおさめた。どうして第一王子はこれほどまでに自分勝手で愚かなのだろう? あの素晴らしいクリフト様の兄とは思えない……


「アラン様……明日は魔法学校の創立記念日です。その日にキャトラ様と婚約をするのですから今日は早く休まれた方が……」


「あぁ……そういえばそうだったな。残念だな……これでカトリーヌともお別れか……」


「カトリーヌ? 誰ですかその方は? まさか浮気相手ですか⁉︎」


「浮気とは失礼な。暇だから少し遊んだだけだ。心配するなカトリーヌは内気な弱い女だからな。ボクがキャトラと結婚すると皆んなの前で宣言すれば、何も言えずに黙って見ているはずさ」


 アランはゲラゲラとお腹を抑えて笑いだす。その姿を兵士は呆れた表情で見守っていた。


「あと幼馴染のシリアとも別れるとするか……まぁ、あいつは昔からボクの言いなりだし問題ないだろう。適当に彼女のイニシャル入りのスカーフでも渡しておいてくれ」


「貴方は3人の女性と付き合っていたのですか? 王子としてそれは流石に……」


「うるさい! 黙れ! ボクは偉いんだ! 父上だってボクが幸せそうにしていたらきっと喜ぶはずだ。お前は幼馴染のシリアのスカーフを準備してこい! カトリーヌに送った時みたいに金色の刺繍をさせるんだ!」


 兵士は深くため息をつくと、軽蔑の眼差しでアラン王子を見下ろした。もしこの人が次の国王になったらたちまちこの国は破滅する。それだけはどうにかしなければ……


「ほら早くいけ!」


「分かりました」


 兵士は店を出ると急いで刺繍屋に向かった。


「すみません、大至急、シリア様用の刺繍をお願い出来ますか?」


 店内に入ると5人組のいかにも不良ぽい男が店主と話をしていた。


 内容まではハッキリと聞こえないが、色々と質問を浴びせている。側から見るといじめている様にも見える。値段交渉でもしてるのか? 


「そうか……金の糸があるのはこの店だけ……刺繍を頼む客は稀……以前カトリーヌ用の刺繍を頼まれたと……姉さんに報告だな」


 男たちはブツブツと店を出て行った。何だったんだアイツらは?


「いらっしゃい、またあんたか……今度は誰にスカーフを送るんだ?」


「第一王子アラン様の幼馴染である、シリア様用です。大至急準備して下さい」


「また、カトリーヌの時と同じ様にイニシャル入りか?」


「はいそうです」


 店主は店の奥から白いスカーフと眩く輝く金の糸を持ってくると、慣れた手つきで針を通し始めた。


「明日の朝イチに取りに来てくれ。それまでには何とか仕上げておこう」


「お願いします」


 兵士はアラン王子から預かっていたお金で支払って店を出ると、さっきの不良の男たちが仁王立ちで待ち構えていた。


「あんた、アラン王子の兵士なんだってな、ちょっと話を聞かせてもらえるか?」


 男たちは一瞬で兵士の周りを取り囲む。5対1、無駄な抵抗はするだけ無駄か……


「答えられる範囲内だったら話すが、何だんだお前たちは?」


 万が一、暗殺者だった場合も考慮して尋ねてみると、5人組のリーダーらしき人物が口を開いた。


「俺たちは……ロレッタお嬢様の忠実なる子分さ」

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