精神

 TS化。

 一か月経って段々とわかってきたのはこの女体化が何も、体だけではなかったということである。

 TS化は人の心までもを女の方に変えていってしまうのである。


 TS化した我が校の面々は徐々にその心の内も女子化。

 今まではお洒落なんて全く興味がなかったものたちもそれらに興味を抱き始め、同じくTS化した先生たちも色々と寛容で一気にメイクの自由化などが進んだ。

 ドルオタはいつの間にか推しを女から男の方に変え、オタクたちは完全に腐ってしまっている……もう、自分の知る場所は徐々に失われてきてしまっていた。

 まぁ、みんながうれしそうなのはよかったけど。


「……まさかうちの高校で女子制服が導入されるとは」


 そんな中で、とうとう我が校の制服まで変わってしまった。

 女子用の制服が用意されたのである。


「しかも強制。マジであり得ない」


 ちなみに男のままである僕以外は全員強制である。

 当然、男であることに強いこだわりを持っていた蓮夜も女子の制服を着るようになってしまっており……彼は今、それにものすごい悪態をついていた。


「多様性はどこだ、多様性は」


 もう文句たらたらといった様子である。


「まぁ、いつかは自由になるでしょ。今はちょっと混乱しているだけだって……うーん。でもそうだな」


「……ん?」


「いや、いくらお前がスカート嫌だとしてもさ。でも、一応。スカートの裾は気にして?思いっきりパンツ見えているから」


 僕は言うか、言うまいか悩んだ言葉を口にする。

 自分の前で座る蓮夜の足は大きく開けられ、そのパンツが丸みえになってしまっていた。


「ひゃんっ!?」


 それに、蓮夜は強く反応して慌ててスカートの裾を抑える。


「はい?」

 

 ずいぶんと女の子らしい彼の悲鳴。

 それを前に僕は思わず呆然と声を漏らす。


「……」


 そして、涙目になってしまった蓮夜を見てすぐに僕は後悔した。


「「……」」

 

 蓮夜は口を閉ざし、僕もかける声が思い浮かばずに言葉を悩ませる。


「……ぁ」


 そんな中でも、なんとか何を話そうと僕は口をもごつかせて言葉を話そうとする。


「……何も言うな。自分でもわかっている」


 だが、それよりも先に蓮夜が口を開く。


「そうか」


 僕はそんな蓮夜の言葉に辛うじて首を縦へと振るので精一杯である。


「「……」」


 そして、それより訪れた沈黙の果て。


「……おう。そ、それじゃあ自分は喉乾いたからジュースでも買ってくるわ。何か、蓮夜はほしいものとかあるか?」


「いや、俺はいい。いってら」


「おう」


 僕は逃げるようにこの場を後にするのだった。

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