すいみんぐ

 時に、我が学校は水泳ガチ勢である。

 管理にかかるコストや、事故が命の直結するという理由で学校の授業から姿を消しつつある水泳だが、我が校ではそんな風潮は微塵も感じない。

 自称温水のプールで、週3から4日泳ぐ。

 求められる泳力に及ばない生徒は夏休みを使って補習を受ける。もちろん、基準に達するまで解放されることはない。

 その甲斐あって、最終的には全校生徒揃っての海での遠泳ができるわけなのが、とりあえず我が校の水泳にかける情熱というものはすさまじい。


 そんな環境に身をおいた私も、もちろん泳げる。一番赤点に近い科目が体育であった私も、水泳だけはできる。


 「うちプールがあるのよね。泳ぐでしょ?」


 ホストマザーは有無を言わせぬ顔でそういった。我々4人、断ることはできなかった。飛行機で眠れなかったのと、夕飯のあとで最高に眠かった私は正直泳ぎたくなかった。だが、まぁ異国の地で泳ぐのも一興であると考えることにして素直に行くことにした。

 4人そろって水泳をする気はなく準備などなかったので、借りさせてもらったズボンを履いて、いざホストブラザーの後に続く。


 牧場の広大な敷地にある家を出て、草むらを少し歩く。すると、プール――思っていたよりも本格的なものが出てきた。25メートルプールのおよそ半分ほどの広さで、我々とホストブラザーにシスターあわせて6人で使うにはもったいないくらいの広さだった。


 我々は水に飛びこんだ。ニュージーランド人は総じて夕食の時間が早い。そのため、傾いてはいるがまだ日は沈んでいなかった。


 少し白んだ太陽の下、林に囲まれた中での水泳。アニメだったか、エルフが森の中の池で一人水浴びをするシーンというようなシーンを見たことがある気がするが、あぁ自然を感じるとは素晴らしい、と感じた。


 ところで、そのプールには飛び込み台もあった。鉄パイプを組み合わせてできた、極めてアブナイ感じのただようものだったが、ホストブラザーが飛び込んでいるのを見て我々も一人ずつ飛び込んだ。

 私ももちろん飛び込んだ。中2の頃に10mほどのバンジージャンプをしたことがあったので、せいぜい3mと少しの台から飛び降りることに抵抗はなかった。

 だが、飛び込む、という行為には少し恐怖を感じた。

 幼いころ、海上遊具――海面に浮かんでいる大きなまな板のようなものから、飛び込んだことがあった。浮き輪をつけていたので溺れる心配などないと思っていた。だが、飛び込んだ衝撃で私はひっくり帰ってしまった。水泳は習っていたが、それがまた裏目に出た。まだバタ足くらいしかろくにできず、態勢の制御が上手くできなかった私は、頭が海面を向いた状態でバタバタしたわけだ。当然、顔が海面に上がることはない。手を動かすなど試行錯誤して、なんとか生還できた。

 そんな経験があったので、遠泳ができるほどに泳げるようになったそのときでもまだ飛び込むことに関しては恐怖があった。

 だが、飛び込み台に上ってしまったからには飛び込むしかない。異国の地で日本人弱者男性の情けないざまを晒すわけにはいかじ。


 少し足は震えていたが、私は意を決して飛び込んだ。

 水しぶきが上がる。

 あぁ、もう二度と飛び込み台には上がらない。そう決意した。


 そのあとは、野郎どもで水泳選手権を開催したり、ちゃぽちゃぽ水中鬼ごっこをしていたが、そろそろ体も冷えているので上がろうということになった。


 タオルで体を拭きながら家に戻り、そのまま我々はジャグジーに案内された。

 二階のテラスにあるジャグジーに皆でつかった。

 動いていたので気が付かなかったが、水にぬれて体はだいぶ冷えていたようで、ジャグジーの温水がとても気持ちよかった。


 久々の水泳で疲れた、と思い、ふと空を見上げると空はすっかり赤くなっていた。茜色ではなく、もっと鮮やかな朱鷺色。その朱鷺色の空で、翼のような白い雲がたなびいている。日本では見たことがない景色だった。

 まさにアオテアロア。さすがは「長く白い雲のたなびく国」といった素晴らし景色。

 人も文化が違うのは当然だが、空までもが異なるとは。

 私は「世界とは多様なのだ」と知った。

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