第十話 初めてのファ・ア・ム

 迎えにきてくださったホストファーザーのピックアップトラックに乗り込んで、およそ一時間。

 

 文字通り野を越え丘を越えて、フロントガラス越しに肌を南半球の太陽にヒリヒリと焼かれながら、辿りついたのは大きな牧場だった。


 入れ替わりで出てきた巨大なタンクを引いたトラックに驚きながら、我々が乗った車は牧場の敷地に入る。

 「このトラックは、うちで育てている豚の子供を育てるためのミルクを持て来てるんだ」とホストファーザーは言った。一瞬、ニュージーでは豚が牛の乳を飲むのか、となったが、たしかに人も飲むし何も不思議はなかった。


 そのまま敷地の奥まで進むと、いかにも養豚場な建物にサイロ、馬のいる原っぱに囲まれたホストファミリーの家に着いた。

 日本の一軒家とサイズはあまり変わらず、犬小屋と言われたりもするわーくにの家も、そこまで小さいのではないのだなぁ、と感じた。

 

 車から降りて、荷台からスーツケースを下ろしていると、ブロンドの髪をしたお兄さんと、ホストファーザーと同様に大柄な女性、それと二匹の犬が迎えてださった。


 荷物を家の中に入れつつ、それぞれ挨拶を交わす。犬は人懐っこく、撫でて欲し気に我々に背を向けてきた。黒の犬はガッシリしていたが瘦せていて、茶色の犬の方はもはやガリガリだった。毛もバサバサしており、日本の犬とはだいぶ違ったことに軽く衝撃を受けた。


 車を降りると、30分くらい休んでいなさい、とホストマザーに言われたのでお言葉に甘えて案内された部屋で荷ほどきをした。

 二階建ての家。二階がリビングとホストファミリーの部屋で、一階が水場と我々の部屋だった。

 部屋は広さ的には一般的な教室の4分の1ほどで、そこにシングルベッド2つと二段ベッドが一つで4人用の部屋だった。壁にはスターウォーズや指輪物語のタペストリーや色々な本が飾られており、映画で良くみる海外の男の子の子供部屋、と言った感じがした。それぞれテキトーに腰を下ろし、スーツケースをほどく。しかし、まだニュージーについて一日目なので、特にやることもない。このまま引きこもっているのも退屈なので、我々は上にあがることにした。

 

 「じゃあ、山羊でも見に行ってきなさい」

リビングで料理の準備をしていたホストマザーに言われ、我々は外に出る。忙しかった他のホストファミリーに代わって、案内してくれたのはホストシスターだった。

小柄な女の子だったが、金髪で――たしか青い目をしてた。


 車で家に来たときに、チラッと見えていた柵の内側に入る。庭と言うには広すぎた。木、壊れた機械、タイヤの置物。まるで動物園の一角のような場所だった。

 なぜかは訊かなかったが、パイプとビニールテープで固定された角を生やした山羊。それが数匹。大人しく草を齧っているのもいれば、岩の上を跳ねているのもいた。静かにしているのに近づき、そろそろと撫でる。ごわごわとした触感で、生命を感じた。

 聞けば、山羊は牧場の家畜としてではなくペットとして飼っているのだそうで、この家では先ほどの犬たちとこの山羊たち、それと猫がいるペットとして飼っているのだそう。

 ニュージーランドはなんとなくペットが多そうだと思っていたが、まさかここまで多いとは思わなかった。ただ、このペットと言うのが日本と違うように感じた。

 

 日本ではペットとは一般に赤子のように手塩にかけて可愛がるものだ。しかし、ニュージーランド――少なくともこの家においてはペットとは動物の家族であり、良くも悪くもテキトーに扱っている。家族として同じ所に生きるが、過保護に甘やかすのではない。このような動物と人間の関係もあるのだなぁ、と感じた。

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