第九話 初めてのファ・ア・ム!(2)
インターネットを使っていると、よく日本人、いやアジア人は全体的に小さいと言う主張を見かける。
なるほど、その通りであった。私は眼の前に立つご立派な体を持つイケてるオジさん――と言うか大男を見ながらそう感じた。
ホストファミリーとの対面会場にて、我々一同は観光バスを降りてホストファミリーと対面した。
どこを見ても、鎌倉の露店の前で豪快に串を握っていそうな、良い方にいかつい感じの方々ばかりで、我々は中々に緊張した。
思春期の男と言うものは中々の人見知りである。
女の子はもちろん、男同士でも緊張してしまう。
だからこそ、この時期の人間関係と言うものは非常に大切なものとして語られるのであろうが、異国の地でそんな悠長なことは言っていられないわけである。
おそらく前述していると思うが、この旅ではファームステイとホームステイを二泊ずつ行う。
ファームステイは4人班を組んでいくわけだが、我が班のメンツはと言うと、空港で充電ケーブルを誤ってゴミ箱に捨てた人間、行きの時点でスーツケースがいっぱいだった人間に加えて空港で迷子になりやがった人間――私で、4人中3人が問題ある感じであった。
何が起きても不思議でない4人組は、心配と緊張で目をきょろきょろさせていると、一人の大きくてダンディーな方が近寄ってきた。
ガイドの方だったか、先生だったかの話を聞くと、その方が我々を泊めてくださう家の方だそうで、我々はそのおじさん、いやおじさまについていった。
大きな、いや大きすぎる体。白がかった髪と髭。まさしく我々の想い描くガイジンである。いや、この国においては我々の方が「ガイジン」であるわけだが、とにかく「それっぽい」感じの人だった。
促されるままに、空港からバスに預けたままだったスーツケースをおじさまの、オレンジ色の塗装がまぶしいピックアップトラックの荷台に乗せて対面の会場を後にした。
席は日本における普通の車と一緒なので、運転席とその横に1人、後席に3人で計5人が座ることのできる作りになっていたわけだが、ここで発生するのがシャイボーイたちによる「助手席大会」である。運転席の隣に座る、と言う誉高き経験を、優しさから譲り合う――もとい押し付けあるこの大会を制したのは私であった。
名誉をそのその身で感じながら、ピックアップトラックの助手席に乗り込む。
走りだしてすぐはもちろん気まずさでいっぱいだった。
だが、少しだが会話をして、空気は静かではあるが安定してきた。
すると、楽しくなってくるのである、助手席が。
ニュージーランドの魅力は、なんと言っても豊かな自然と言われる。
特に、海に近い学校とは言え人工物に囲まれて暮らしていると、やはり雄大な大自然が恋しくなってくるものであるが、助手席はその自然への渇望を満たしてくれた。
ピックアップトラックの大きな窓から見える、ニュージーランドの遥かな大草原。
限りなく青く、どこまでも続く空。
丘をいくつ越えても、果てしなく続く鮮やかな緑の草原。
その二つを繋ごうとする、遥かな山々。
平地が少ない日本では、とてもではないが滅多に見ることのできない自然を、思う存分に眺めることができた。
心の洗濯、とはまさにこの時のことを指す言葉だったのだろう。
定期試験、空港での迷子、眠れなかった飛行機と言った心理的負荷に、仲間との旅と言う多大な興奮から疲れ切っていた心を、ニュージーランドの自然は癒してくれた。
あぁ、これは良いなぁ。ニュージーランドに着いてから1日目も終わっていないが、私はニュージーランドが好きになりかけていた。
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