第八話 初めての、ファ・ア・ム!(1)

 案外、食べ物とはどこの物も変わらないものなのかもしれない。 

 昼食を食べながら、私はそう感じた。


 よく日本食は美味しいだとか、日本は美食の国だ、と言う声を聞く。

 だが、日本において普通に食べるくらいのレベルのものは、こちらでも普通に食べられるのである。それもニュージーランドで。


 ニュージーランドと言うのは、イギリスの元植民地である。イギリスはお察し、世界で一番食事が素晴らしい、そう太平洋三角貿易や三枚舌貿易並みにハイクオリティな国であるわけだ。となると、ニュージーランドの食事のクオリティにも期待が持てる。


 だが、そんな予想は打ち壊された。


 普通に美味しかったのである。昼食はビュッフェ形式のレストランで頂いたのだが、どの料理もおいしかった。特に魚料理。やはり我が国と同じ島国であるこの国も、海の幸に恵まれていた。


 料理の名前は分からなかったが――たぶん香草焼きの類のものは淡泊な味かつ柔らかい白身魚にスパイスが程よく効いていて非常に美味だった。

 

 美味しい食事。その上、ロケーションも最高だった。

 オーシャンビューで、大きな窓からは砂浜と広い海が見えた。

 あいにく雨はまだ降っていたが、それはそれで味が出ていてよかった。

 これはニュージーランドの印象が良くならざるを得ない。

 

 我々は、満ち足りた腹で再び観光バスに乗り込んだ。


 と、ここまでは良い。良かった。

 無事にニュージーランドの地を踏み、良い景色を楽しみながら美味しいものを食べた。ここまでは普通の、いや普通よりも良いくらいの旅行だ。


 この旅の本質はここから始まった。 


 そう、我々は6日間ニュージーランドに滞在したわけなのだが、そのうちの4泊はホームステイである。

  

 厳密には、2泊がファームステイ――農場や牧場主の家に泊めさせてもらうのと、あとの2泊ホームステイ――都市部の一般的な家に泊めさせてもらうのだ。

 

 ホームステイはホテルではない。滞在にはお金がかかるため、いくらかは――我々の保護者スポンサーが支払っているそうだが、それはあくまでお気持ち程度。

 我々はお客様カスタマーではなく、臨時の家族ファミリーとして迎え入れられる。

 

 これの何が緊張するか。それは何よりもホストファミリー――我々我々を迎えてくれる向こうの家族の方々としっかりコミュニケーションを取らなければいけないところだ。

 その家のルールはしっかり守らなければいけないし、家事、特に食事関係のものは手伝ったり、せめてそれを申し出ることと言った、家族としての最低限の礼儀と敬意と感謝の気持ちを持って全ての事に臨まなければならなかった。

 

 これは文章を読むだけなら「なんだそれ簡単じゃないか」と思われるだろうが、いざやるとなるととても難しいものなのだ。

 

 まず、当たり前だが日本語は通じないので全て英語である。 

 それも問題を解く時のように個人のペースでやっていては会話にならないので、しっかり相手のペースに最大限合わせていかなければいけない。もちろんホストファミリーとなってくれる方々は基本的に優しい方々ばかりであるので、簡単な単語や文法を聞き取りやすい丁寧な発音で話してくれることが多い。だが、それでも自分が持っている最大限の英語力を常に発揮する努力をしないといけない、と言うのはとても緊張する。例えるならば、これから6日間ずっと英検の二次試験を受けるようなものだ。緊張するに決まっているだろう。


 そして、二つ目だが、私は会話が苦手である。最も得意とする言語である日本語――もっとも私がまともに知っている言語は日本語と英語だけだが、その日本語でも私は会話を、特に初対面の人とするのが苦手だ。どこまで自分の話したいことを話してよいのかが分からないし、相手が嫌な気分にあるようなことはなるべく話したくない。そうして話題を絞っていくうちに、やがて話のネタが限りなくゼロになり、何も話せなくなるわけだ。


 だが、この点において、私には心強い味方がいた。いくらか話前に書いたように、私には陽キャ全開のペアがいて、ファームステイは私と彼の他に2人の構成だったのだ。私のコミュ障は、きっと彼らがなんとかしてくれるだろう。そして、私はそこそこ英語ができるほうであるので、まぁ、頑張ろう。


 そう言う風に考えていくと、私の中でのファームステイに関する思いは「まぁ、なんとかなるだろう」と言う感じのものに落ち着いた。というか、何とかならないと大変困った事態になっただろうが。

 

 我々の乗った観光バスは、ホストファミリーとの対面会場に向かっていた。車窓から流れるように見える、広大な草原に青い空。見えたニュージーランドの景色はえらく牧歌的で見る者を穏やかな気持ちにさせた。

 私の心も少しづつ穏やかになっていき、満腹の満足感と飛行機であまり寝られなかったこともあって、だんだんと瞼が重くなる、そして夢の世界へと落ちて行った。

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