第六話 旅立ちの日(2)
飛行機と言うのはロマンの塊である。
1903年にライト兄弟が人類初の動力飛行に成功してから、まだたったの百年と少ししか経っていない。それにも関わらず、あのレトロで無骨なライトフライヤー号の面影をまったく感じさせないスタイリッシュでモダンなデザインの現代旅客機たち。
この進化をロマンと言わずして何と言おうか。
空に再び上がるまで、束の間の休息をしている巨大な鳥たち。
成田に着いた我々は、空港の大きなガラス窓――と言うよりもガラス壁ごしに旅客機を遠目で見ながら、出国手続きを済ませた。
パスポートを見せ、荷物をX線にかける。
私は片手でちょうど数えきれないくらいの回数、飛行機に乗ったことがあった。 それらは全て家族旅行だったので、親と一緒にそういった保安検査やらの手続きをやっていた。
しかし、今回は違った。修学旅行で、引率の教師や友人がいるにはいるが、そう言った手続きの際はちんたらみんなでやるわけにもいかないので個人でやることになっていた。
心配性の私はミスを犯さぬよう、細心の注意を払って検査を突破した。もちろん、違法なものなど持っていないし、変な経歴もないので止められるわけなかったのだが、それでも慣れないゆえに緊張した。
ちなみに検査を終わらせてて油断したことが原因で迷子になったことは内緒だ。
重ねて、引率の担任からは「良い厄払いになった」と言われた。だが、まったく払い落しきれていなかったことも内緒だ。
まぁ、そんなこんながあって、NZに行くのに必要なのはあと飛行機に乗ることを残すばかりとなったわけである。
となると、必要なのが、そう自由時間である。
修学旅行、非日常、友達と一緒。こりゃあ、もう散策するしかないでしょう。
少年たちの目は、それはもうえらく輝いていた。
空港と言う珍しい環境。これからするであろう貴重な体験。
気持ちの高ぶりを抑えきれない野郎どもは、引率教師陣の許可の支持を聞いたその瞬間に抑えきれない好奇心を原動力に探検へと駆けだして行くわけである。
幸いと言ってよいのか、飛行機の到着が1時間ほど遅れたため、自由行動の時間も伸び、充分な時間成田空港で買い物をすることができた。
飛行機の時間はおよそ十一時間。その間に行われるであろう、少し遅めの馬の餞その支度を我々は行った。
コンビニ、ハンバーガーショップ、お土産屋。どこに行っても、見たことがあるやつがいる。普段は馬鹿なことをしている人間も、外に出ればお行儀よく列に並んで静かにしているんだなぁ、と考えると、その光景が私には少しばかり面白く思えた。
そうして歩いているうちに、自由行動の時間は終わった。
私は、片手にパスポートと航空券を、もう片手に一人晩酌セットが入ったコンビニのビニール袋をしっかりと握りしめた。
飛行機に乗り込む際、私の心は震えていた。
これから、異国の地に行くのだ。日本語は通用しない。
私は、日本語によって成立していると言っても過言ではない。
日本語に育てられ、日本語で生き、日本語で創作を行うことを趣味であり特技としている。
そんな大きなアイデンティティが一時的とは言え失われるわけである。
恐怖以外の何者でもない。
ただ、男、いや人間には恐怖に打ち勝つべき時が必ずある。未知の世界に腹を決めて飛び込むその覚悟がなければ、望む人生を手に入れることはできない。
私は、B787旅客機のドアをくぐった。
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