第五話 旅立ちの日(1)

 出発の日は素晴らしく晴れていた。

 

 集合は1時に横浜某所。

 

 なぜこんな中途半端な時間か。

 東京、厳密には成田からニュージーランドのオークランドへの飛行機は一日に一便しか出ていない。

 朝、向こうを旅立ち、夕方に到着した飛行機を使って日本を出ることになるので、こんな中途半端な時間になるわけだ。


 おかげ様で、10時起床などと言う、旅立ちの日とは思えぬ優雅な朝を過ごすことができた。

 

 昼に朝食として食べた、とあるハンバーガーチェーン店の和風バーガーの味を思い出しつつ私は横浜駅のプラットホームに降り立つ。

 少なくとも七日はあの醤油っぽいジャンキーな味には絶対にありつけないと考えると、妙な惜しさが出てくる。

 

 改札を出たら、あとはガラガラと集合場所までスーツケースを押し運ぶ。

 集合場所まで、少し距離があったが、チラホラとスーツケースを持った本校生徒と思しきキッズたちがいたので、迷うことはなかった。


 集合場所に私がついたのは定刻の15分ほど前だったが、すでにそこには人だかりができていた。

 自分のクラスのメンツが集まっているところに行き、テキトーに会話を交わす。


 普段、制服姿の野郎どもしか見ていなかったので、そこそこ洒落た私服を着ていると、内心「おぉー」と驚嘆ではないが、何か感じるものがあった。


 「お前のスーツケースデカすぎだろ、何が入ってんだよ」

 「いやいや、お前のが小さいだけだから。逆にそんな装備で大丈夫か? 」

 「大丈夫だ、問題ない(迫真)」


 なんて他愛のない会話を交わしていると、集合時刻の一時になっていたようで、点呼された。

 

 幸いなことに、私のクラスは一人の遅れもなかった。


 揃った状態で成田までのバスに乗り込む。

 人と荷物が全て乗った、バスは旅を前にした高揚感でいっぱいにだった。

 

 バスは二時間。

 各々が始まった非日常を楽しんでいた。

 

 前の方ではニュージーでのナンパをかけた麻雀大会が、後ろの方では人狼大会が行われ、それらの隣で寝たり。

 

 ちなみに私はオタクらしくラノベを読んでいた。


 バスは横浜を出たあとに東京方面へ進み、そこから羽田空港付近を経由して千葉の奥地まで行った。


 その途中で、京葉線と並行で走る高速道路を使ったわけだが、そこを走てっていると、あの青屋根に金の、洒落た作りの建物が見えてくるわけだ。


 それを見た野郎どもが「ディズニー行きてー」なんて子供のように――実際子供だが、幼く言う様子はとてもシュールで、これからの旅は愉快なものになりそうだ、と私に感じさせた。


 そこから、酒々井まで進み、休憩となった。

 私は旅の始まりを記念してリンゴジュースを買った。

 

 このSAを出るタイミングで、私たち旅行会社両替して頂いたニュージーランドドルを受け取った。

 それはとても、おもちゃのようだった。

 日本人の思い浮かべるお金と言えばいわゆる紙幣だろう。その紙幣、と言えば紙に地味な印刷がされたアノ感じのものを思い浮かべるだろう。


 だが、ニュージーランドドルは違った。

 まず、種類ごとに色が違う。

 私が受け取ったのは50ドル札が2枚、20ドル札が4枚、それと5ドル札が3枚だった。これらのお札はとてもカラフルで、50ドルは紫を、20ドルは緑を、5ドルは山吹色をしていた。

 カラフルな点にも驚いたが、何よりも驚嘆したのはその素材だった。

 日本のお札は紙でできていて、あの肌触りだが、ニュージーランドドルはすべすべと、まるでビニールでできたおもちゃのような感じだった。

 また、端には透明な箇所があり、浮かびあがって3Dになりそうな雰囲気のマークも入っている。


 なんとも異国間が漂う体験だった。

 いや、まだ母国にいるわけだが、何にせよ旅は楽しく始まった。

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