第四話 荷造り
試験最終日の次の日。
私が目を覚ましたのは昼過ぎだった。
幸いなことにその日は休みだったので、遅刻にはならない。
それにしても、中々遅い起床である。
慢性的な寝不足に重ねて、試験期間は充分な睡眠が取れなかったこともあって久々にこんな時間帯まで寝てしまった。
旅行の始まりは明日。
試験期間明け、唯一の最高にフリーダムな日がすでに半分過ぎていることに「やらかした感」を覚えつつ、朝食のような昼食を取る。
パンと牛乳を胃袋に納めたら、荷造りが始まった。
今回の旅は6泊7日。
先日配られた旅のしおりを見ながら必要そうな物をぶち込んでいこう。
黒い大きなスーツケースと迷彩柄の登山用っぽいリュックを広げ、その周りにざっと必要そうな衣服やらコンセントやらを置くと、もう自室の床はいっぱいになり、足の踏み場がなくなってしまった。
元々私の部屋は綺麗ではなかったので、こう言った状況には慣れていた。
だが、誤りでコンセントやパスポートなどの踏んではいけなさそうなものを踏みつけてはいけない。
可及的速やかに、スーツケースに荷をまとめねばいけなかった。
私はファッションにこだわりがある人間ではない。
平日は家に帰っても制服だし、休日はテキトーにパーカーを羽織るだけである。
外に出る時は白のシャツに適当なズボンを合わせるだけ。
そんな生活なので、外に行けるような私の私服はとても数が少なかった。
とりあえず下着を日数分必要だったが、さすがにそれくらいはあった。
上に着るものも長袖と半袖のシャツ、それとパーカーを一着で、何とかなった。
問題はズボンだった。
私はまともな、シャツと合わせてもおかしくないズボンを二着しか持っていなかった。一着はあるにはあるが、ぱっつんぱっつんでとても履けるものではない。
制服を必ず持って行け、と言われていたので、それを含めても4着。
足元は汚れやすいので、これではとてもではないが、心もとない。
ファッションに興味はないが、最低限の羞恥心は持ち合わせている。家族と行く私的な旅行ならまだしも、友人がいる中ですねすねが少し出たみっともないズボンを履く気は起きなかった。
結局、私は新しい物を調達した。
普段服が欲しいなんて言わない私を珍しく思い、両親は何も言わずに買ってくれた。
そうして向こうでの着替えを調達し、あとは詰め込むばかり。
無駄なシワが付かないように、シャツとズボンはしっかり畳んでプラ製のカゴに入れてスーツケースへ。
シャンプー・洗顔料の類は液漏れ防止でジップロックに入れて、機内持ち込みはできないので、これもスーツケースへ。
ヲタ芸用につかう物――ペンライトとカボチャ頭の男が着ていそうな黒いヒートテックも忘れずに入れる。
コンセントの類は機内で使いたいのでリュックに入れた。
床に置いてあったものを全て詰め終わり、最後にしおりについてあるリストと照らし合わせ指さしで確認。
スーツケースに入れる物も、リュックサックに入れる物も、不備はなかった。
最後にもう一度パスポートだけ確認する。
私は盗難防止に肩掛け鞄を用意し、その中にパスポートを入れていた。だが、それごと忘れてはいけないので、まだスペースに余裕のあったリュックに入れておく。
そしてスーツケースに鍵をかけ、旅の支度は終わった。
この時、時刻は22時。
買い出しやら挟んだせいで半日ほどかかってしまったが、なんとか終わった。
正直、行く前の準備の段階でだいぶ疲れた。
だが、それと同じくらい「自分は明日ニュージーランドに行くんだ」と言う実感が湧いてきて、静かな、しかし確かな高揚感に包まれていった。
この荷物を持って七日間、言語も文化も、何もかもが異なる遠い異国の地で生きていくのだと思うと、親しみすらも沸いてくる。
これからよろしく、と思わず言いたくなった。
だが、それをするとやばい人であるのでやめた。
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