第41話 代行者様万歳!!
私達の前に現れたのは、悪魔だった。私の兄……ガルマは天明界に入り、悪魔を所有している。
その事実が私と、私の家族に重くのし掛かる。
見た目は、人の形をしている。赤い肌、人の肌よりも遥かに重厚に見える。目はなく、代わりに目元に大きな炎が猛々しく燃え上がっている。口はあり、常にニヤニヤと笑っているようだ。
「これは俺が作った……【アルカディアの負の遺産】ってやつだ」
「はぁ!?」
「正確には、遺産に悪魔を融合させたものだけどな。融合魔法はこんな使い道もあるんだぜ」
兄さん、なんてものに手を出しているの!
【アルカディアの負の遺産】。私の調べでは神々の戦いが止んだ後、聖神アルカディアの信仰を消し飛ばした最悪の兵器。
聖神を信仰する者達が作り上げた物だけど、そんなのをどこで……
「天明界のやつら、かなり良い物持ってるだろ。大したもんだ。まさか、この遺産に辿り着いてるとはな」
「兄さん……それに手を出しちゃいけないなんて分かっていたことでしょう。嘗て、世界を崩壊させようとした兵器だなんて!!」
「分かってねぇ。神の力を制御する奴らだ。こんな兵器だって扱えるようになるんだ。動け【ディア・ゾーン】」
「──さgjがおわがが」
言葉にならない謎の言語を発して、【遺産】は右手に黒き炎を顕現させる。更に、その背中には紋様が入った神々しいサークルが出現する。
「──ふぁgじぇあ;fw;あg;あw」
黒き炎が私達の家に放たれる。流石に兄さんも私達を殺すつもりはないらしい。きっと力を見せて屈服させようとしているんだろう。
悔しいけど、あの魔法を防げるほどの力は私に……
「──あぁ、もう! しょうがない信徒ですね!!」
それを防いだのは……まさかのゼロ君のメイドだった。あの炎を防げるほどの魔法を一瞬で展開するなんてただ物じゃないわね。兄さんも驚いている
「……あのメイド。【ディア・ゾーン】の魔法を防ぎやがった……何者だ?」
「──があがwがうぇあおわうぇあ!!!」
「……【ディア・ゾーン】がやけに興奮してやがる……。なんだ? あのメイド、遺産と何か関係があるのか?」
兄さんはじっとメイドを見ている。私と私の家族も彼女を見つめている。驚愕、と言う反応が場を支配していた。
「あ、あのメイドちゃんすごいわ!」
「美人で背も高くて、愛嬌もあって魔法が使える……これはマイナス45点」
「──おおい! なんでマイナス!? 3万点くらい欲しいですよ!!」
「特級クラスの魔法を防ぐとは」
「魔力量が尋常ではないぞ!!」
「すごーい! なんか聖神アルカディア様みたい!」
「──えへへ、聖神アルカディア様みたいだなんて、嬉しいですねぇ! まぁ、本人なんですけど! あ、ちょ、石投げないで! 本当なんですって! 家救ってあげたのに、なんて恩知らずな信徒ですか!!!」
魔力量は確かにピカイチって感じね。代行者の次の、カラスの次の、ゴルザ君の次くらいには魔力が多いわね。
ただ、何かしら? 前も少し感じたけど、この子……魔力の流れが独特って言うか。兄が持っている【遺産】と妙に似通っているな気がするわ。
いやいやいや、ちょっと待って……なんで、遺産と悪魔が合体した化け物とあのメイドの魔力の流れがにているの!?
ゴルザ君ならあの子の魔力が普通とは違うって察していると思うけど。それを分かった上で、ゼロ君のメイドにしてるってことは何かしらの考えがあるのかしら?
ゴルザ君は天才だったから意味ないことはしないと思うけど。
「【ディア・ゾーン】、あのメイドは捕獲しろ。何かありそうだ」
「──があえlがklwgj」
「──え!? あわわわ、わ、私一般メイドで大したこととかありませんヨォ?」
「やれ」
「うわぁぁあ!! たたた、助けてぇ! 神様!! あ、私が神様でした! ってわぁあぁあああ!!!」
ディア・ゾーンと言われた兵器が更に魔力を高め、魔法を放った時。その魔法が虚無のように掻き消えた。
「この魔力……また来たのね。代行者!!」
私の頭上から飛来する存在。あの神擬き以降、二回目の邂逅となるけど、改めて感じてしまう。
あいつ、ぱねぇ……。普通一回体験したものって衝撃が薄れてしまう。でも、代行者はそれがない!!
「お前が代行者か……やれ、【ディア・ゾーン】」
「があがをぐぁがwが」
兄さんのディア・ゾーンが代行者に襲いかかる。右手が鋭利な刀剣に変わり、切り掛かる。
その剣を代行者が拳で打ち砕いた。
「「「はぁーーー!!!!??」」」
あ、私の大家族が全員驚いている。まぁ、剣を拳で魔法なしで砕いたら意味わからない顔するよね。しかも、ディア・ゾーンは明らかに常軌を逸している兵器であるのは理解できるのに。
「す、すごい」
「あれって、噂の代行者か」
「我らと同じ、アルカディアを信仰する存在」
「あっぱれ! 代行者! 万歳だ! これでアルカディア様は安泰じゃ!」
「か、かっっこいい+45万点!」
代行者の拳、魔力迸っているわね。多分、常人よりも魔力が桁違いに多いんだわ。触れたもの全てが代行者の有り余る魔力に包まれて、殺傷力を失ってしまう。
魔法の抵抗原理をこんな形で応用するだなんて。
真似なんてできないわね……普通の人間がそもそもこんな量の魔力を持っているわけではないのだから。
「ディア・ゾーン、お前はこんなモンじゃないだろう!!」
「gひあがわが」
言葉にならない言葉を発しながらディア・ゾーンは代行者に向かう。しかし、代行者は気づけばディア・ゾーンの背後に周り、拳を繰り出す。
「がwがgぱwじぇあ!!!??」
見てるだけで、背中が痛くなるようなパンチね。全てを最小限に抑える防御を持ち合わせている癖に、自分の攻撃は最大限相手に刺さるだなんてインチキにも程があるでしょうに。
しかも、これでまだ魔法を使っていない。魔力と魔法は密接な関係がある、魔力が多大で操作に優れている者が魔法を使えば通常よりも大きな効果を発揮する。
「お、おい!! ディア・ゾーン!! そんなのに負けるのか!! ただの、愚神の信仰者だぞ!!」
「ふ……随分と面白い玩具を持っているようではないか」
「馬鹿にすんなよ。代行者!! 六大神を敵にまわし、天明界に牙を剥き生きていられると思うか」
「当然だとも。この程度、私の足元にも及ばんのだから」
拳のラッシュ、それだけでここまで……。魔法なんてわざわざ使うほどでもないってことなのかしら。
それとも……ここで使うと被害が大きくなるから私達に気を遣っているのかもしれないわね。
「ディア・ゾーン!! まだギアを上げろ!!!」
「ががあわぐぁがああ……」
「おい! 何を」
「その玩具の寿命が来たのではないかね」
「まさか……魔法なしで完全に破壊をしただと!? アルカディアの負の遺産と眷属の融合体だぞ!! 神を作る一つの破片であるディア・ゾーンを魔法を使わずに……あ、ありえない。世界の法則をお前だけは脱している!!!!」
確かに兄さんの慌てぶりもわかる。
圧倒的な力と、異様な魔力、絶対的な実力を見せつけられて混乱をしてしまう。このあまりに理解を出来ない存在を……もしかしたら『神』だなんて言うのかしら。
「まさか、お前が【神】だと言うのか?」
兄さんも私と同じことを思っている。
「お前、本当に人間か? 断言できる。お前は確実に、全盛期の聖神アルカディアを超えている!!」
「私など、あのお方の足元にも及ぶまい」
「馬鹿言うな! なんだ、何が目的だ! それほどの力でなぜ愚神を味方する。それとも、何か別の思惑でもあるのか! 愚神の復活はその思惑の隠れ蓑であるのか!!」
「ふっ、焦ることもない。私はただ、全てあのお方の思し召すままに……」
「あのお方……それは本当に聖神なのか! お前ほどの存在が肩入れをする──」
──兄の言葉を遮るように、代行者から白銀の翼が二つ生える。
「
白銀の翼から代行者の手に抽出されたエネルギーが虚無のような、異様な球体となりそれがディア・ゾーンに触れた。触れると同時に白銀の塩へとディア・ゾーンを変えてしまった。
「万歳! 代行者様万歳!」
「これでアルカディア様は復活されるぞ!!」
「我ら一族の悲願も達成される!」
「他力本願でいいのかな?」
「まぁ、いいでしょ! アルカディア様復活するし!」
「アルカディア様ってどんな感じかな?」
「そりゃ美の頂点で、性格良く、気品あり、善性の化身のような神様に決まってる! 代行者様が従ってるくらいだもんね」
「あんなに強い奴が軍門に降ってるんだから相当だろなぁ、またアルカディア様の株が上がってしまった」
「アルカディア様の人望があってこそじゃね」
「アルカディア様、流石だなぁ。代行者を手下にしてるだなんて」
「はいはい、はーい! 私がアルカディアですよ!! あ、ちょ、お皿投げないで! ほ、本当ですって! ふざけてないですって!!」
代行者……聖神アルカディアに従っているだなんて本当かしら? あれほどの神に等しい力を持っているなら私利私欲にまみれていてもおかしくはないけど。
それとも……あれほどの力を持っている存在を嗜めるほどの、聖神には尋常ではない器があるのかしら?
めっちゃ性格いいとか? 惚れちゃってるとか?
「へへへ。なんだか、ぐんと信仰がまた上がった気がしますね! ふふふ、ゼロ様のおかげですね。くくく、力が溢れてくる!! 人間の信仰でまた更に力を高めてしまいました!!」
このバカは違いそうな気がするわね。聖神と言い張っているヤバいメイドなのね。ゼロ君も大変なのね。
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