第40話 闇に堕ちた信徒

 大家族はヤバい奴らだった。聖神を復活させたいだとか、どうとか言っているヤバい奴ら。


 神を復活させるにはどうするのか?



 そう問うてみると必ず、そんなのは分からないと言うだろう。盲信をしている愚者であるのだろうね。



「それで、私の家族なんだけどね。聖神アルカディアを復活させる使命を持っている一族なの」

「あ、そう言う一族なんですね」

「素晴らしい! あっぱれ! なんて良い人達なんでしょう! ブラボー!」




 どう考えてもヤバい一族だったか。パパンの知り合いって変わった連中しかいないんだなぁ。



「それで、復活はどうされるつもりなのですか?」

「それは知らないわ。調べてる途中だから」

「復活させようとする気持ちが大事です! ラブラブどきゅーん!」




 ほれみたことか。一族とか大層なことを言っても何をしたら良いのか知らないんじゃないか。いや、知らないって言うよりそもそも存在しなんだろうなぁ。




「まぁ、私は色々と神について調べてるのも家柄ってわけよ。ゴルザ君が私に目をつけたのも歴史に詳しいからだったしね」

「あ、そう言う」

「神に詳しい家柄ですか。私も詳しいんですけど!」


 パパンは厨二病時代があったから、生きる設定資料集みたいなイルマさんが欲しかったんだろうな。



「私の一族は信徒の末裔らしいの。清廉一族って聞いたことある? 聖神の血を飲んだ不思議な力を持っている一族なんだけど。それとは違って、純粋に信仰をしているのが私達らしいわ」

「イルマさんも信仰してるんですか?」

「そこまでしてないわ。みたことないしね。ただ、歴史とか見てると、もしかしたら居たのかもしれないわって思うわ。でもね、仮に過去にアルカディアと言われる何者かが居たとして、それが神だなんて言えるかは話が違うと思ったりもするわ」



 冷静な判断を持っている人だ。でも、神について調べる考古学者だったか……まともな人なのか、厨二病の人なのか判断に迷うな。




「居ますよ神はね。いつも這い寄っているのです」




 信徒も行き過ぎると問題だな。こんな山奥に家を作って復活の機会を伺っていたとか、笑い話だもん。




「私はね。聖神を復活させるって言う使命がどうにもしっくりこなくて……六大神が仮にいたとして、それを聖神が倒せるかなんて分からないじゃない。封印するのが精一杯で、歴史は歪められて存在が愚神とされてしまった神に誰が耳を貸すと言うのってね」

「そ、それは……さ、最近、持ち直してるんです! 信仰上がってきてます! みてくださいこの力こぶ!」

「ぷよぷよね、二の腕少し細くした方いいわよ」

「うわぁぁぁぁぁ!!」




 

 イルマさんは聖神を復活させる家に生まれながら、色々と複雑な考えを持って育っているらしい。


 厨二って大変なんだよねぇ。その時期だけは楽しいけど、のちから振り返ると地獄だったりするしねぇ。国王様も娘に黙ってたし、パパンも俺に黙ってたし。


 この一族がいつ大人になるかは知らんが、後から振り返ったら地獄だぞ。




「──なぜ帰ってきた! この一族の恥が!!!」




 むむ! 急におばあさんの声が聞こえてきた。



「これは……ひーおばあちゃんの声ね」

「確か、ルダーマさんでしたっけ?」

「ゼロ様違いますよ。ロロマーレ様です」

「ラオダーマよ」




 ややこしいな




「ややこしいですね」




 思っても言うな





「何か緊急事態見たいね。ちょっと見てくるわ」




 イルマさんは俺の部屋を出ていった。折角なので俺も見に行くか、一応は婚約者の立場ではあるしね。




 見に行くと大家族が一人の男をじっと見ていた。大家族の名前は全員覚えてないけど、一番老けているラオダーマひーおばあちゃんがその男と話している。




「何をしにきたんだい。ガルマ」

「ひどいなぁ。ひー孫に向かって」

「聖神様の神器を勝手に持ち出して、よく顔を出せたもんだねぇ」

「まだ聖神を信仰するとか言ってるのか。ここの連中は相変わらず変わらねぇなぁ。進歩ってんのがてんでない」




 気だるそうな男性……ガルマと呼ばれている。



「ガルマ兄さん?」

「イルマか。お前もしけた顔してるな。まだこの家にいたのか」




 兄さんね。なるほど、兄弟だったのか。うむ、俺とイルザの方が美男美女兄妹だな。こっちの兄妹も美人であるのは間違い無いんだけど。



「まだ、聖神とか言っているとは阿呆すぎるぜ。いい加減目を覚ましたらどうだ」




 おや、ガルマ兄さん俺と同じで現実主義者かな?



「聖神よりも天明界に入り、六大神の力を我が物にする方が断然賢い」




 あ、現実を直視できない系統の人ですね。神の力とか言う前に自分の力を我が物にするべきだと思うのだが、それを言う雰囲気では無いので黙っていよう。


 アルカディア復活一族全員めっちゃ怒ってるし。




「なんて無礼な!」

「最悪! 一族の恥!」

「マイナス45点!!」

「ガルマ、お前一族の使命を忘れたのか!! 世界がどうなってもいいと言うのか!」

「神である私を馬鹿にするとは天誅ですよ! 天誅! やっておしまい! 信徒達よ!」

「六大神が嘗て世界を滅ぼそうとしたのを忘れたか! その神の力を操るなどと!!」




 ん? 一人、変なのが混じっていた気がするが……それはいい。やはり聖神アルカディアを信仰している奴らからすると、ガルマの思想は許せない思想なんだろう。




「あのなぁ、嘗て六大神を封印するしか出来なかった神を信仰してどうなるんだって。天明界につくべきだ。六大神はいずれ復活する、そうなったら確実に人類が滅ぶ」

「だから、そうならないように聖神を」

「無理だね。お前らは知らんかもだが神には【信仰】が必要なんだよ。一人二人じゃ無い、もっと多くのだ。歴史は隠蔽されて誰も聖神、いや愚神にはつかない」

「……くっ、だが天明界だって人間を滅ぼすかもしれないだろ!!」

「ねぇよ。多少の犠牲は出るが全滅はない。あいつらは力を手に入れて権力を保有したり、好き勝手にしたい連中だ。権力ってのは人がいるから使えるんだ。上級の人間の世話をさせるために必ず下級の人間を残す」




 おー、なんか色々と言い合ってるな。ガルマがレスバ優先みたいだけど。




「はいはい!!」

「誰だお前?」

「メイドのレイナです! 実は私が聖神アルカディアなんですよねこれが! はいはーい! 信徒の皆さん! 応援お願いし──ちょ、いた、痛い! 物投げないで! 急須が頭当たりましたよ今! ちょ、小石は痛い!」




 信徒達の怒りを買ってしまったようだ。狂信者の前で神様を茶化すような真似をするからそうなるんだ。



「うぅ、痛いです、頭なでなでしてください……」

「はいはい、痛いの痛いのとんでけー」

「はっ! 痛く無くなりました! 今のも回復魔法ですか!?」

「馬鹿で助かるよ」




 どうやら、アルカディアの信徒を辞めた後、天明界に入った。そして、そっちに家族も誘いに来たってことか。



「俺の誘いに乗れ。神器を持ってったらあっちの奴ら喜んでてさ。他にも情報とか貴重な道具がないかって言うんだ。これで天明界が世界を支配したら地位は約束されるんだ。安いもんだろ」

「兄さん……私達の事を考えてくれてるのね。でも、天明界は……」

「お前が昔、セブンクラウンだかなんだかで戦ってたところだろう? それはバレてないから安心しろよ」

「そうじゃなくて……どんだけ危険な場所か」




 あ、イルマさんとガルマが兄妹感動言い合いシーンをしている。そもそも神様なんて存在しないってわかってる俺からすると、茶番に見えてしまうが空気が俺は読めるので無視する。



 ちょ、おい、レイナ首元にキスマークつけようとするな。




「私はこの間、神の皮を被った眷属の力を見たわ。あんなのを研究するなんて正気じゃないわ」

「あぁ、海王神の抜け殻と融合か。あれは神の封印を解く魔法を扱える器……それを作れる魔法として天明界が作り出したんだ」

「……天明界は悪魔の眷属と繋がっているの?」

「どちらかと言うと神源教団と繋がってるんだろう。神を純粋に復活させたいから力を貸してるんだ。だから、俺達が作った融合の古代魔法を横流ししてるんだろ」

「天明界は神の力を我が物にしたい……その為の融合魔法」

「あぁ、古代の融合魔法はバッチリだったろ。一つミスがあるとすれば悪魔の眷属に先に抜け殻を取られた事だな。だが、実験としてはバッチリだった」




 話長いなぁ。




「そうだったのね。でも、代行者に倒されたわ。天明界につくのは考えた方がいいわ」

「天明界が行えばあの程度ではなかったはずだ。代行者も必ず殺される」




 殺されるかよ。でかいセミなんかに。でも、もっと栄養あるならカラスが喜ぶかもしれないなぁ。もっと美味しそうに食べるかもしれないし。



「兄さん、代行者を甘く見てるわ」

「──いや、お前が天明界を甘く見ている」

「そうかしら。兄さんも彼を見れば考えが変わるわ」

「そうかな。お前こそ……【あれ】を見れば変わるぞ」

「っ!!! 何かくる!」





 ──どかかーあああん!




 大きな音がして天空より、悪魔が落ちてきた。




「うぅぅ、で、出ましたね!」




 レイナ、メイドのくせに主人を盾にするのは如何なもんなんだ。




 

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