第39話 大家族

 さて、新たなる芥川の本を求め俺はイルマさんの家にやってきた。彼女はどうやら、母親や父親、祖父や祖母などから結婚をいつになったらするのかと言われているらしい。


 更にひーおばあちゃんがそろそろお年を召しているようで、体の体調が悪い時がしばしあるらしいのだ。そのため、私が結婚相手を連れてくるまで元気で居て欲しいと言ってしまったらしく



 彼氏役を探しているらしい。




「てな訳で俺がやると」

「そうよ」

「認めません」

「レイナちゃんは……愛人ってことでいいかしら?」

「良い訳ないでしょ!! 正妻ですよこっちは! まぁ、気持ちだけの正妻ですけど!!!」




 レイナは愛人設定になってしまった。



「とりあえず、それでいくわよ。貴族のゼロくんなら愛人いても不思議じゃないし」

「わかりました、ハニー!!」

「おおい! ゼロ様はもっと反抗して!! 二つ返事しない!!」




 ぽかぽか背中叩かれるが本があるので俺は従うしかない。すまない、レイナ。あんまりすまないって思ってないけど。



「まぁ、イルマさん、レイナはメイドってことにしておきますか」

「そうね、愛人ガチで持ってる人を堂々と紹介するのもアレだし」

「だから! 正妻って言ってるでしょ!! 気持ちだけは!」





 このメイドは騒がしいが置いていくわけにも行かないので連れていくしかない。と言うかこれ以上はぶったりして気を損ねると奇行に走ってしまう恐れがあるのだ。




「これはデートですね。しかも一回では足りません」

「分かったから。メイドに徹してくれよ」




 イルマさんはかなりのぼんぼんなのだろうか、それとも貴族なのだろうか、彼女が案内してくれた家は……俺の家よりもでかい!!



 領地含めれば当たり前だが俺の家だが、家だけならイルマさんに軍配が上がるほどだ。


 格式がある扉を潜るとイルマさんに似たおばさんとおじさんが居た。



「お父さん、お母さん」

「久しぶりだな」

「久しぶりね、貴方が連れているそのお方は……結婚相手として良いの?」

「そうよ。付き合って三年くらいなの」

「そう、ならその男性の横で苦虫を噛み締めたような表情をしている綺麗な女性は?」

「こ、この人は彼のメイドさん。彼貴族だから」




 おおい、早速ボロを出してるじゃないか。




「ゼロ様のメイドです。よろしくお願いします」

「そう、彼貴族なのね」

「貴族とは良い人を婿にするんだな」




 イルマさんの両親が俺にグイッと目をむける。この両親、体鍛えてるな。ムキムキって感じの足と腕してる。




「どうも、結婚します」

「前もそうやって、誰かの結婚式に出てましたね」




 レイナは少しスルーしておこう。



「中にどうぞ。お二人とも、私達は歓迎します」

「えぇ、イルマ。貴方は大婆様に挨拶を」




 イルマさんは母親と一緒に大婆様と言う人の部屋に行ってしまった。俺は彼女の父親に部屋に案内された。


 レイナは二人きりになると露骨にむすっとした表情になった。



「むすー」

「むくれるなよ」

「だってー、だってー」

「本を集めないと心の平穏が保てん」

「ならハグしますね。私の平穏も保てないので」





 ベタベタしながら時間を潰す。レイナと二人きりにされたこの部屋は綺麗で清潔感もあり過ごしやすい。


 玄関でも思ったがこの家は建築にかなりお金をかけているな。


 どう考えても普通の家ではないだろ。パパンが作った家もここまでじゃないのに。



 


「待たせたな、ゼロ君。きてくれるかな」

「あ、はい」




 イルマさんの父親に呼ばれて部屋を出た。案内されたのは大部屋だった。でっかい机には大人が十人ほど、子供は六人、大家族である。その中心には目つきの鋭い老婆が座っているのだ。



「大家族ですね」

「私達の通例みたいなもんでね。大家族に紹介するんだ」

「お兄ちゃん! 顔かっこいいね!」

「ふーん、もしだったら私が大きくなった婿にしてあげるわ!」

「確かに顔はかっこいい。髪も金髪でサラサラ、92点」

「子共達は大分ませているが気にしないでくれ」



 イルマさんの父親、ニコニコしながら説明をしてくれているが事情に追いつけない。


 ってか、餓鬼共がませすぎだろ! でも92点なのは正直嬉しい!!



 子供って正直だからな。うむうむ嬉しいなぁ!! 



「さて、ゼロ君。私から家族に紹介させて頂戴。私の父親のローマ、母親のアーマ。それでそっちの人がお母様の兄のヤーマ、結婚相手がネーマ、その子供がノーマ、ソーマ、そしてミミよ」



 いや、最後の子だけミミって名前なんかい! ミーマとかで良かったのでは?



「それで私の祖母がオダーマ。隣にいるのが祖父のコダーマで、その弟のソダーマでその結婚相手がミレール。その子供がルダーマとパダーマよ」



 ミレールって名前が引っかかるな。ミレーマでよくない? 



「それであそこに居るひーおばあちゃんのラオダーマ。この家でいちばんの責任者なの」

「どうも、ゼロ君。あたしがラオダーマだよ」




 もう、誰が誰だかわからん。名前全部似てるし、覚えなくて良いか。




「名前似てるから覚えにくいですね」




 おい、レイナ口に出すな! 俺も思ったけど口には出すな!!



「てか、ミミとミレーナだけ統一感ないですね」



 俺もそこ思ったけど、黙っとけ



「さて、ゼロ君。一通り紹介終わったから覚えられたでしょ」



 覚えられるわけないだろ。覚える必要もないだろうけど。




「えっと、皆んな、この人が私の彼氏なの。魔法学園でいちばん成績優秀で魔法なんて特級を息を吸うように使えて、人徳もあって人望も厚くてリーダー気質で顔もよくて金も持ってる貴族のゼロ・ラグラー君よ」

「おお!!」

「とんでもないスペックだ」

「貴族!? やっぱりあたしが大きくなったら結婚してあげるわ!」

「あれでもうちょっと明るかったら794点」

「流石に嘘だろ。そんな凄い奴が都合よく現れるかね?」

「まぁ、イルマちゃんが言ってるしな」

「貴族かよ!? いいなぁ」

「ラグラー家は優秀と聞いたわねぇ」




 あ、明るい感じのファミリーなのね。ちょっとシリアスなイメージしてたけど。




「さて、ゼロ君。紹介も済んだことだし、皆んなでご飯食べましょう……話は適当に合わせる感じで頼むわよ」



 大家族だなぁ。こんな大所帯で飯を食べるなんて久しぶりだ。貴族パーティーとかで人数多く一緒に食事のシチュエーションはあったけど、ここまで和やかなご飯ではなかったし。


 ただ、この家族って結局なんなんだ?


 貴族ではないみたいだし




「ゼロ様。そろそろ帰りましょう。イライラしてきました」

「もうちょっと待て。ほれハンバーグあげるから」

「あーんしてください」

「あーん」

「あーん!」




 もぐもぐタイムに入ったレイナは置いておいて。ただの平民がこんな大層な家を持っている理由がわからん。それに持つ理由もわからん。下手に目立って荒事とかに巻き込まれる心配はないのだろうか。



 そもそもだが、この家自体がかなり隠された場所に置いてあった。イルマさんが案内してくれが、海から離れた鬱蒼とした密林の奥にこの家がある。



 もしかして、ヤバい一家なのだろうか。まぁ、俺の家もやばいと言えばヤバい一家だけど。



「おいイルマ。その男に……あのことは言っているのか?」

「言ってないわ。ただ、彼は神の歴史に理解がある人よ」





 そんなこんなで食事会は無事に終わった。その後はレイナと一緒にお風呂に入って部屋に戻り、耳かきをしてもらいながら眠る準備をすることになる。




「うむ、やはり耳かきと太ももが最高だな」

「ふふ、そうでしょうとも」

「うむ、やはり最高だ」

「ふえへへ……しかし、この家はなんの家なんですかね? なんと言うか、普通平民がこんな家持ってないと思いますが。しかもこんな密林ですよ?」



 うむ、レイナも気になったみたいだ。こんな密林に巨大な家と大家族の組み合わせは怪しい。




「ちょっと探ってみましょう」

「えー、興味ないんだけど」

「探りますよ! 気になって耳かきの精度が落ちています」

「それは大事件だ、すぐに調査だ! レイナワトソン君」

「わ、わとそん? 誰ですか?」




 当たり前のように俺は気配を消した。レイナも気配を消すのは簡単だ。なんだかんだと言っても革命団の副団長だからな。




「ゼロ様、ここの部屋から話声が」

「うむ」



 さーて、どんな話が……






「聖神アルカディア様の信徒であることは言っていないのか」

「えぇ、でも安心してほしいわ。お父さん、彼なら理解してくれる」

「我々の使命はアルカディア様の復活だ」

「分かってる。でも、現状としては何もできていないでしょう。そう、ずっと何もできなかった。ただ祈っているだけだったの……でも、今は違う。世界に確変が起こった、代行者が起こしているの」

「代行者……例の祭典に現れた謎の男か。アルカディア様を信仰していると言うが、真に信仰をしているのは我々だ。我々こそ、復活をさせるべきだ。あの男はそれを担える人材なのか」





 ……あ、この一族ダメなパターンだ





「ふわぁぁぁ! レイナ、アルカディア復活一族好き! わくわく!」




 こいつ……ほんまに……



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