第26話 護衛騎士

 ナナ・ラキルデュースと言う第三王女の護衛を任されている女騎士。



 ディズレット・メロポー



 貴族として魔法学園に通い優秀な成績を残した騎士である。彼女は現在では王女の護衛騎士に選ばれるなど大きな立場へと成長をしている。


 


 しかし、彼女にはある悩みがあった。




 それはこの世界の歴史に対しての不信感であった。何故、愚神はたった一人で六大神と戦ったのか。負けるのが分かっているような戦いに挑むほどにその神は愚かであったのか。



 そんなにも馬鹿な存在が神であるのだろうか。



 その違和感を彼女は拭うため彼女は歴史を考察する考古学者としての道も歩んでいたのだ。




「それで聖神アルカディアについてなのですが」




 そんな道の最中、彼女はとある女性メイドと出会う事になる。銀髪に澄んだ青い瞳を持つ美女、身長も高く顔立ちも異常に整っている。




 レイナ




 聖神アルカディアにやたら詳しい彼女は一体全体何者なのだろうか。聖神に絡む遺跡に入ってから彼女は遺跡についてまるで全てを知っているかのように語り続けていた。




「大先生、と呼んでもいいでしょうか?」

「かまいませんとも。聖神を知るのは良い事ですから」




 ディズレットはメモをとりながら彼女の話を熱心に聞いていた。しかし、その最中に遺跡内で転移が起き、遺跡の別のところへ移動をしてしまった。




『汝、進め。そこに神なる聖神の歴史あり』




 どこからか声が聞こえる。謎の大きなライオンのような銅像が宙に浮き、ゼロ、レイナ、イルザ、ナナ、ディズレットを見下ろしている。



 最初にナナが殺されかけたが、ゼロのおかげでなんとか事なきを得た。



「ナナ様! 大丈夫ですか!? 申し訳ございません!!」

「き、気にしなくていいよ。そ、それより、替えの、そのぱ、パンツ」

「ナナ様! くっ、一生の不覚!! お許しを!!!」

「あ、うん、いいからさ、それよりちょっとビビって漏らしちゃって」

「ナナ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! お許しをぉぉぉぉ!!!!」

「だから、良いって言ってるよね!!?」



 結局ナナは漏らしたまま進む事になる。それは置いておくとして、謎の銅像はずっと五人を見下ろし続ける。


 誰も動かぬ中、レイナが満を持して一歩前に出る。




「ふふふ、分かりますね? この神々しいオーラを。そう、私こそ、聖神アルカディ──」

「──黙れ、全員試練を受ける者だ」

「ぎゃあああ!!!!」




 突如としてまたしても矢が一本飛んでくる。彼女の脳天を撃ち抜くかと思ったが咄嗟にゼロが彼女を抱き寄せてなんとか躱した。




「俺がいなければ死んでたな」

「うううぅ、ゼロ様ぁ。私悲しいです、誰も神様って信じてくれなくてぇ」

「はいはい」

「私を祀っている遺跡なのにぃ」

「よしよし」

『ほぉ、今のに反応するとは……案外歴史を知るに相応しい者かもしれん。では、最深部にて会おう。この試練は無限迷宮を突破する事で乗り越えられる』




 それだけ残して銅像はどこかに消えていった。




「あーあ、帰るに帰れないじゃん。魔力ここじゃ使えんし、下手に実力出したら面倒になるし」

「ゼロ様、ここは試練を一緒に突破するしかありません」

「こんな馬鹿げた試練を作る奴がいるなんてね。神様の信仰もここまでくると感心するかも」

「ゼロ様案外落ち着いてますね」

「前世でも海底遺跡とか探索してたから」

「流石ですゼロ様、略してさすぜろ」





 はぁとため息を吐きながら彼等は迷宮を進み始めた。しかし、先頭に立つゼロの手を引いて、第三王女のナナが他の三人とは距離を離す。




「あ、あの」

「パンツ?」

「そ、そう、持ってない? この際オーダーメイドとかどうでも良いと言うか……」

「まぁ、なくもないけど」

「じゃあ、頂戴!」




 ここでゼロはあることを考えついてしまった。いや、思ってしまった。




(こいつ、ちょっと痛い目あったほうがいいんじゃないだろうか。こいつの父親はまともだ。血が繋がっているのだから、こいつだってまともになれる可能性は残っていると考えられる)




 現在、遺跡の内部にて彼等は囚われてしまっている。極限状態の中で、もしかしたら彼女は変われるかもしれないと彼は考えた。




(普段から外面だけはよくして、ちょっと仲良くなると距離感が掴めず権力を見せて離れないようにしてしまう支配欲。これを改善するべきではないだろうか。少し痛い目を見れば……この第三王女も変わるかもしれない)




 そう。痛い目を見れば……




「いや、あげない」

「へ……?」

「あげないけど」

「いやいや、冗談とかつまらないよ」

「冗談に見える?」

「……ま、待って。ほら、今までちょっと乱暴な面が僕にあったかもしれないけど、こんな状況だぜ? やばいぜ?☆」

「本気だぜ、俺は」




 真顔、全ての笑みを殺した真顔が彼女を射抜く。この男にはそれだけのガチ感が存在していた。



「欲しければ、パンツを恵んでくださいゼロ様と言え。これは命令だ」

「な、ぼ、僕はお、王族で……」

「あ、じゃそう言うことで。アンモニア臭がする王女様」

「やめて!! なんか色々傷つくからやめて!!! わ、分かったよぉ……ぱ、パンツを恵んでください……ゼロ様」

「ん? 聞こえないぞ☆ 俺にも聞こえるようにもっと言うんだぞ☆ パンツの権力だぞ☆」

「ひ、人の口癖を真似して……こ、このやろう!!」





 ナナは怒っていた、王族に対する不敬。不敬、大不敬。はらわたが煮え繰り返るほどだった。



 だが、



 だが、




 だが、心のどこかに【充足】があった。




(あれ、なんか、気分が悪くないような気も……気のせいか)




 彼女はその充足をすぐさま否定した。まさか、自身が誰かに馬鹿にされた事に充実感を得ているわけがないのだから。





「で? どうするの?」

「く、ください……」

「うむ。これから俺のことはゼロ様と呼べ。これは命令だ」

「はぁ!? 調子に」

「じゃ、これは捨てるか」

「ぜ、ゼロ様……ください」




 渋々と言った表情で彼女は頭を下げた。仕方ないなと言った表情でゼロはパンツを差し出した。



「ゼロ様くださいともう一回言いなさい」

「……ぜ、ゼロ様ください」

「語尾にワンと犬の鳴き声をつけてもう一回言いなさい」

「……ぜ、ゼロ様ください、ワン……」

「よし」




 ぶん取ったように勢いよくパンツを手に入れるとすぐさま着替え始める。



「見ないでよ、僕が美少女だからって」

「興味ないから」

「クソ野郎。馬鹿」

「おしっこ漏らし女。アンモニア香水女」

「くっ、この絶対に地上に出たらお父様にいって指名手配してやる」




 隠れながら彼女は着替え終わると何食わぬ顔でゼロの元にやってきた。しかし、そこでゼロが彼女に耳打ちをする。




「漏らしたことを大勢に知られたくなければ分かってるな」

「……お、おどしのつもり! 王族だぞ!!」

「一体いつから脅すのが王族だけの特権だと思っていた?」

「い、言わないで、は、恥ずかしい。二人のお姉様にも馬鹿にされちゃうし、僕英雄になる夢あるし。お漏らし英雄なんて言われたくない……」

「よし、なら分かったな?」

「わ、分かりました、わ、ワン」





(くっ、なんという屈辱……兄弟と思ってたけど撤回だ!! 絶対に国に帰ったら指名手配してやるッ!!!)






 怒りながら彼女はゼロの元を離れてレイナ達三人が居る場所に走って戻った。すると、護衛騎士のディズレットが首を傾げた。



「ナナ様、何かありましたか?」

「え?」

「あ、え? あ、そうだった? なんでもないかな?」

「そうですか。何かあれば護衛騎士である私に仰ってください」

「う、うん」





(笑ってた? 僕が……)





──おや、第三王女の様子が……


 

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