第27話 聖神の謎

 遺跡の中を進み続けるゼロの一行。その途中で大きな扉が彼等を阻んでいた。



「さっさと出口を探したいな」



 そう言ってゼロは大きな扉を開けた。



『──ここは試練の扉。試練を突破しなければ開けることはできぬ。試練とは問いに答えることである』

「さ、行こっか」

「あれ? お兄様、試練の扉って言ってるわよ」

「もう古い遺跡だから錆びれてるんだろ」

「なるほど、確かにそうね」




 そう言ってゼロ達は通り過ぎた。しかし、本来なら問いに答えないと扉は開かないようになっているので、不思議な声はプログラムを続けるように通り過ぎた後ろから響き続けた。



『我らが問いに答えよ』

「通り過ぎたのに語りが後ろから、聞こえてくるの遊園地のお化け屋敷みたいだな」

「お兄様何か言った?」

「いや、イルザは可愛いなと言っただけ」

「えー!? え!? えー!? ふふふ、ありがと!! お兄様もかっこいいわ!!」



 きゃぴきゃぴといった表情で元気いっぱいにイルザはゼロに抱きついた。やはり兄妹なのか、顔が並ぶとそれなりに似ている。



 淡々と進み続ける四人。その途中でその先に道はなく行き止まりとなった。しかし、そこには何やら怪しい石像が置いている。鳥の頭の石像で口の中に手を入れられるようなスペースがある。




『その石像に手を入れよ。そして質問に答えよ。正解すれば道は開く。間違えれば手を貰おう』




 五人に向かって壮大な声が再び聞こえてきた。どうすれば道が切り開けるのは全員が理解したのだが、失敗した際のリスクが大きくことも分かってしまった。





「アタシが手を入れるわ」

「いや、僕が入れるよ。ここで王女である僕がやるのが務めだよ」

「ナナ様にさせるわけに行きません。護衛騎士の私が」

「いやいや、神である私が」




 失敗をすれば自身の手が切断されてしまうと言うこと。大きな恐怖が伴うデメリットであるが四人は一気に自身の命を賭けることを決めた。



「いや、俺がやるけど」

「お兄様なんて魔力使えない雑魚なんだから引っ込んでなさいよ。アタシがやるから」

「多分、お前の腕切れるぞ」

「お兄様の腕切られるよりマシよ」

「お前の腕切れたらママンとパパンに顔向けできん。当主になるのもお前かビッグシスターだし。こんな場所で下手に命張るなよ」




 ゼロは淡々と腕を銅像の口内に手を入れようとした。しかし、それをイルザが彼の手を無理矢理に掴んでそれを止めさせた。



 そのまま彼を脅すように魔力を放射する。




「やめて」

「怒ってんの」

「お兄様、落ちこぼれでしょ。黙ってアタシの言うこと聞いてればいいのよ」

「お前ツンデレなのに、最近ツンが全然ないと思ってたけど急に出してくるじゃん」




 イルザの魔力量は以前よりも十倍に跳ね上がっていた。それに伴い魔力操作技術も向上している。



 その理由は




 ──代行者である




 彼の戦いを間近でみることが多かった彼女は必然的に彼の魔力技術を、僅かながら盗んでいた。


 微々たる部分であるが盗むことができるのは……代行者と魔力の質が似ているからだ。彼等は兄妹なのだから。




 ゴルザ、エルザ、アルザ、そしてイルザ彼女もまた天才の一人。それがゼロには遠く及ばなくとも天才である。




「なんという魔力……護衛騎士である私よりも数倍はある……」

「王族の僕よりも……多いよ」

「神である私よりは少ないですね。まだまだですね」




 三者三様で反応するが、ゼロは全く微動すらしない。何食わぬ顔で彼女を見つめたままだ。



「取り敢えず、お前はやめとけ」

「いや!」

「なら、二人で一緒に入れるか」

「それならいいわ」



 渋々納得という表情でイルザは手を入れた。



(お兄様こういう時、絶対に譲らないから。シスコンだし、妹であるアタシを守るために必死なのね! シスコンで困るわね! 納得!!)


 

 ニコニコしながらイルザとゼロはてを入れる。すると不思議と声が響き。問答が始まった。



『これより先、勇気ある者しか進めず……お前の手を砕けば先の道を開く。手を暫し置くか、別の者の手を置くか』




 そう言われ、互いに兄妹は顔を見合わせた。



「推し量るに絶対一人手は食いちぎられるんだろ」

「嫌な試験じゃない。いいわ」

「いいの? 手消えるぞ」

「もし、互いに一本ずつ消えたら互いに手を合わせて支え合いましょ」




 そのやりとりが終わると突如として、銅像の口が閉まる。その僅かコンマ数秒前にゼロはイルザの手をもう片方の手で掴んで引っこ抜いた。


ゼロの手を残したまま口内が閉まる。




『おいおいおい、待て待て』

(ゼロの手が一切傷つかないのでビビり散らかす試練)



「錆びれてるな、ほらさっさと進もう」




 ゼロの手はまさかの無傷であった。それに驚きを隠せないのにはレイナを除いた三名。




「え!? お兄様無傷なの!? ってか急に手を抜かないでよ!!」

「きょ、兄弟ってすごいぜ! あ、兄弟じゃなくてゼロ様……ですワン……くっ」

「護衛騎士の私でも、食いちぎられる予感がしたのですが。気のせいだったのでしょうか?」

「ふふふ、神の夫ですから当然です」




 ゼロ的には興味がないのだろう。銅像をもう片方の手で壊し、造られた新たなる道を進んでいく。彼がこの試練を突破した証として道が既にできている。




「行こうぜ」

「ふふふ、やりますね。ゼロ様」

「まぁな。前世では不滅の牙って名前の冒険者もしてた」

「前世から変わり者で安心しました」




 再び五人で進み続けるが流石にかなりの量を歩いていることに気づいた。そこで、メイドであるレイナが手を挙げる。



「流石にこれより先は一度休んでからにしましょう」

「そうね。でも、ここで休むのかしら? ただの道だけど」

「お任せください。結界魔法を展開します……王の仮室ロードオブプリンス




 彼女が詠唱すらせずに構築した魔法。王の仮室ロードオブプリンス。元を辿ればゼロ・ラグラーが考案をし、文字通りゼロから作り出した魔法である。



 結界とは相手を閉じ込めるなどに使われることがある。しかし、他にも用途がある。結界内は時空が歪んでおり、数人しか入らない古屋に結界を張れば百人を入れることができる。



 その性質を利用し、ゼロは結界内の空間を自由自在に変質させることで王城の一室をどこでもない場所に再現することができる。




「こ、これはすごいね! まるで王族である僕の部屋みたいだ!!」

「護衛騎士として是非とも覚えておきたい魔法です。大先生、この魔法を教えてはいただけませんか?」

「申し訳ありませんが、この魔法は教えるのは難しいのです。とある方が私に教えてくれたのですが、術式が複雑ですし」

「な、なるほど」





 部屋の中は本当に高貴な存在が住んでいる部屋のようだった。ベッドは二つ、鏡や机も置いてあり、ソファも大きなのが一つある。絨毯は赤で高価なシャンデリアも上にある。





「さて、アタシとお兄様がそこの二つ使うわ」

「ちょっと待ってください。メイドである私が作ったのです。この部屋の使用権利は私です」

「アンタ、ラグラー家のメイドでしょ。お父様に雇われてるんだから、実質アタシにも雇われてるのと一緒」

「えー? 話聞こえませーん!? なんて言いましたー!? ドジっ子メイドなので話分かりませんー」




 イルザとレイナがベッドを取り合っている間に、ナナと護衛騎士のディズレットは二人してソファに腰を下ろしていた。


「ふぁぁ、僕眠いよ」

「この結界は外側からの侵入を強く拒んでいるようです。寝ても問題ないでしょう。安全は保証されています」

「うーん、そっか」

「何かありましたらすぐに申しつけます」





 ナナは第三王女の箱入り娘でもある何時間も足を使い彼女は眠くなってしまっていた。ナナ王女、すぐさま眠りに飛び立つ。



 それと同時にベッドの取り合いをしていたレイナとイルザも疲れて寝てしまった。




「寝ないのですか?」

「俺もそのうち寝るよ」




 護衛騎士ディズレットとゼロだけが残った。互いに目が交差をする。だが、特にこれと言って心が通ったりもない。


 なぜなら、この二人は交わした口数も少ないからだ。




「貴方様はラグラー家の長男なのですよね」

「まぁ、そうだな。有名な一族だけど、魔力ゼロの落ちこぼれなんだよね。ゼロ・ラグラーだけに」

「なるほど(ゼロギャグ華麗にスルー)」





 ゼロはスルーされたことを気にしていない。互いに彼にスルーした状態で話が進んでいく。



「ラグラー家と言えばゴルザ・ラグラー様や、アルザ様の名をよく聞きます。まさに天才だとか。しかし、イルザ様も紛れも無い天才なのだと先ほどの魔力にて感じました」

「俺は魔力ゼロだけどね。ゼロ・ラグラーだけに」

「なるほど(華麗にゼロギャグスルー)」



 

 淡々と言った感じで話が進む。互いに小刻みにギャグを小出ししていく。会話が微かに切れるが、それでも終わらない。




「ラグラー家、有能な子孫がいらっしゃるのは理解しました。ただ、一番凄いのはあのメイドさんなのかもしれませんね」

「太ももの柔らかさで右に出るのはいないな」

「魔力ですよ。イルザさんよりも多いでしょう。それにこの魔法だって、みたことありません。希少性や有能性を考えたら特級クラスでしょう」

(いや、魔力ならパパンの方が上だし、考えたの俺だけど……)

「それに……聖神アルカディアについても詳しい」




 ゼロは聖神の話が始まるとあくびを始めた。基本的にマジで興味がないことには興味ないのである。なぜなら興味がないからだ。




「聖神アルカディア。愚神として、災厄の神として沢山の逸話があります。しかし、この遺跡にはそれとはまた別の歴史があります」

「二次創作なんじゃない?」

「なんですかそれは? とにかく、本来の歴史とは違う歴史があるのです」

「神ってそもそも居るのか?」

「神を信仰する存在が多いんですよ。宗教も経済とも密接なのです。その発言は私達以外にやめた方がいいですよ」




 気づいたら二人はソファに並んで話していた。大きいソファなので二人を挟むようにナナが寝ている。


 ぐーすか、気持ちよさそうに寝ている王女の頬をディズレットは撫でた。




「王族。と言われている彼女の正体がわかりますか?」

「我儘の化身」

「違いますよ。嘗ての六大神、それを最も信仰していた一族。それの末裔なんですよ。つまり、彼女達の前で神の存在の否定はあってはならないんです。貴方がそう言ったとしても、それを彼女は許しているのです」

「ふーん、優しいなぁ」

「まぁ、大地神を信仰する我が国の王族は、他国ほど信仰がありませんから許されていますけど。他の国なら死刑の場合もあります」

「やっぱ神を信じる人にろくな奴はいない」




 ゼロはやはり王族と含め、神様関連の存在はろくな奴らが居ないのだなと再認識をしていた。




「ゼロ様、これだけは覚えておいた方がいいです。近頃、全世界の人々の神の信仰が薄まっていますがそれを復興させようとしている者達がいるのです」

「神源教団ね」

「えぇ、そういうのに目をつけられる言動は控えた方がいいでしょう」

「がってん承知の助」

「よくわかってくれたようで嬉しいです」




 次の日、歩き続けてついに移籍の最新部へと彼等は到着した。大きく開かれた扉の内を潜ると石像が待ち構えていた。


 すると石像は急に形を変えて、顔は狛犬、体は人間という奇妙な形に変形した。



『よくぞ、たどり着いた。これが最後の試練。打ち倒してみよ』



 異形の銅像。その数は最初は一体であったが大きな広い部屋、その土の下から続々と異形の人形が増えてしまう。




「ちょっと、面倒じゃない!! アタシがやってやるわ」

「僕だってやるよ! 王族だしね!」




 イルザとナナが全方位に向かって魔法を放った。それと同時に護衛騎士のディズレットとレイナが防御魔法を展開した。

 


 イルザとナナが放ったのは火球。膨大な魔力が内包されているのだが、銅像達それが当たったとしても意味をなさなかった。



「これは……魔法耐性!? なんて高性能な銅像なのよ!」

「ここまでのは僕も初めてみた……。遺跡内は古いのに性能は現代より発展してるような強さって」

「馬鹿みたいに高性能。魔法耐性だけでも珍しいのに……お兄様危ないから下がってなさい!」



 銅像には魔法に対して大きな耐性がある。正攻法では倒せないと分かり、イルザが魔力を更に高くする。




「イルザさん、あんまり魔力大きくすると遺跡が崩れる場合あるから」

「大丈夫よ、王女様。多少の魔法で壊れる柔な遺跡じゃないのは分かるわ」



 イルザが魔力を大きく高めた所でレイナがゼロの元に駆け寄った。小声でハグしながら声を発する。




「ゼロ様、少々面倒な展開になってきましたね」

「確かに」

「ここはゼロ様。代行者としてとっとと解決を」

「そうだな。流石に飽きてきたし」

「ゼロ様、今なら全員見てません。適当に連れ去られたと言うことにしておきますから」




 小声で言われゼロはため息を吐いた。




「全てはあのお方の思し召すままに……そう、全てあのお方のせいなんだ」

「やめてください! あのお方は悪くないです!!」





 イルザとナナ、そして護衛騎士のディズレット。全員が攻撃と防御を両立させながら、銅像と戦い続ける。しかし、一体も倒せず、全ての魔法が弾かれている。



 耐性によって無意味となっている。




「もっと大きな魔力で……」

「ダメだよ! これ以上はこの遺跡自体を壊してしまうかもしれない!」

「なら、どうすればいいのよ! 王女様!」





 あまりに大きな魔力を出してしまうと遺跡が崩れて土砂崩れとなってしまう。だからと言って、このままであるとジリ貧で体力尽きてしまう。



 悩みかけたその時、




【あーあーあああ、ふぁーあーああーあーあーあーーあーあーあーあーああああああ】



 

 ──代行者が降臨する





 

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