第25話 試練を

 最近になって俺はある事を考えるようになっていた。



 それは【全てはあのお方の思し召すままに……】これは何かあった時に全部【あのお方】に責任転嫁ができるようになってるのではないか。




 これはまさに画期的な発見だ。ノーベル賞クラスの大発見。正規の大発見であるのだ。



 だって【あのお方】なんて存在していないんだから。どんだけこいつのせいにしても問題ない。存在していないんだから名誉毀損も何もない。



 あのお方って一応は聖神アルカディアって事になってるけど。神様とかいないし。問題ない。



 それをメイドに言ったら




「うわぁああああ!!!!」

「なに?」

「許しません! 許しませんよ!!! 神様を冒涜するなんて!! 特にアルカディアはダメです!!! ダメなんです!!!!!!」




 レイナお前ってやつはやはり情緒が安定しないのか。彼女の太ももに頭を乗せながら俺はため息を吐いた




「あのさ、そんなに神様が居るなら連れてこいって」

「ここに居るでしょ!」

「居ないって」

「こうなったらやはり貴方には矯正が必要なようですね」

「なにかするん?」

「この間キャル様が聖神アルカディアの遺跡を回ると言っていたでしょ。それを一緒に回りますよ!」

「えー」

「行きますよ」

「うーん。面倒だなぁ。それよりお前の太ももに頭乗せながら寝てる方が良くね?」

「私もゼロ様との時間は至福ですが今回ばかりはそうは行きません」

「あっそ。お土産は無難にまんじゅうでいいぞ」



 なんでそんな面倒なのに俺がいかなければならないんだろうか。面倒だから休ませてくれよ。



「ゼロ様、行きますよ!」

「えー」

「また耳掻きしてあげますから」

「えー」

「今なら私のハグと囁きボイスもつけてあげます」

「そういうのはいらない」

「おおい! 一番のオプションでしょ!!」

「だって、太もも枕だけで正直いいから」

「くっ、こうなったら結婚もつけてあげます! 私と一生ラブラブできる権利ですよ!!」

「いらん。結婚とか面倒だし。そういうのいらないから膝枕だけしてくれない?」

「クズですか!!!」




 相変わらず太ももむちむちしてるなぁ。これは66キロか67はあるな。



「48キロです」

「67だろ」

「違います!!」

「でも67ってむしろ痩せてくるくらいじゃね? お前180は身長あるし。デカ身長メイドなんだから」

「そ、そうですか? 太ってはないですか?」

「お前はムチムチ太ももが良いところだろうが!! 他に良い所そんなにないんだから捨てようとするな!! お前はこのまま太っているだけで良いんだ!!」

「きゅ、きゅん! くっ、人間のくせに神を誑かせるとは……いえ、ちょっと待ってください。シンプルに私に悪口言ってませんか?」

「言ってないって」



 ぶっちゃけるとそもそもこいつ太ってないけどね。肉付きがある程度あるってだけでさ。




「それでですが、既に遺跡見学を予約してるので行きますよ」

「えぇ……俺って結構忙しんだよ。最近【財団Wざいだんダブル】を作ったから今社長なの」

「社長とは?」

「商会の一番上みたいなのだ」

「そ、そんなのをいつの間に……流石は私の夫」

「ならないぞ。なんで俺がお前と結婚なんだ。面倒だ」

「面倒!? こんなに良妻なんです!! うさぎみたいにリンゴを切れて、具沢山のおにぎりを作れて。膝枕もできるのに!!!」




 さて、良い加減にして欲しいと思っているのだがそうもいかないらしい。




「やだやだやだやだやだ! 聖神アルカディア様の遺跡一緒に行くのー!! 行くのー!!」




 じたばたと随分と煩いメイドだ。俺に雇われているという事を忘れているのではないだろうか。




「お前俺に雇われている風情でよくそんなことが言えるな。俺貴族ね。公爵家の息子ね、お前自称神のメイドね。立場違うよ立場が。もっと敬って。労って。貴族である俺を」

「なんというカスな言動!! 万死に値しますよ神である私に向かって!!!!」

「カスも何もない事実だろ」

「やだやだやだ!! いくの!!! 遺跡に行くの!!!」





 もう面倒なので仕方なく一緒に行ってあげる事にしてあげたんだ。



 さて、学園が休日である日を使い、俺は彼女と共に遺跡へと向かう事にした。休日の服装は黒い服に黒いズボンである。最近ちょっと寒くなってきたので長袖服である。



「お待たせしました! 美女が来ましたよっと!」



 麦わら帽子に爽やかな白服、緑長袖スカート。あらまぁ、可愛いじゃない。俺はそこら辺はちゃんとした価値観を持っている。


 つまり、レイナは可愛いと思う



「あら、可愛いじゃん」

「そうでしょうとも! えっへん」

「まぁ、だからと言って給料は上げないし、立場も上げないし、結婚もしないけどね」

「おおい! 全部してください!! 全部欲しいです!!」




 さーてと無視して出発しますか。遺跡に行くには馬車に乗っていくのである。走って行った方が早いんだけどね。こういう時はたまに馬車に乗るのが風情があるのである。


 だって、なんでも正論で解決ってつまらないじゃん?




「ふふふ、ゼロ様二人きりはドキドキしちゃいますね」

「ちょっと静かにしてて。今後のビジネス考えてるから」

「おい、かまちょですよ私は。構ってください」



 馬車って普通対面で座るはずなのにわざわざ真横に座って、ベタベタ馴れ馴れしく体くっつけてくるやつってあんまり好きじゃない。



 まぁ、ちょっかいを出してくるレイナを躱したり、しつこいので頭叩いたりしてたら遺跡に到着した。




「いいですか。ゼロ様。ここは聖神アルカディアを祀る遺跡なのです。3000年前から作られていると言われているのです。つまりは神々が生まれた神話の時代ですね。嘗ての神々の戦いや聖神の素晴らしさ、葛藤、嘆き。そして滅びまで全部刻まれているのですよ。聖神アルカディアは馬鹿な一部によって、愚神とか邪神とか言われてますがそれは違うんですよね。その点この遺跡はちゃんと真実を載せてるんですよねぇ? えぇ、最高のちゃんとしてる遺跡です」




 ──はい。神様とか居ないし興味ないので覚える必要ない説明だな。



 オタクが早口になるとこんな感じなんだな。俺もオタクだから気をつけないと。興味がない事を他人に意味がないと今わかった。



 そして、遂に遺跡の中に入った。中は埃臭いしなんか汚い。帰りたい。





「神話の時代って、全然知らないじゃなですか? まぁ、3000年も前ですからね。分からないのしょうがないです。でもでも気になっちゃいますよね? どういして聖神が死んでしまったのか滅んでしまったのか。そう、全ては7人の神様が生まれた所から始まったのです。この壁画を見てください」




 あ、ゴキブリいた。やっぱり埃っぽいからな。レイナがめちゃくちゃ説明してるけど全部無視でいいだろ。



 






 ──歴史って基本勝者が語るから信憑生薄いんだよね。俺の目で見て、俺が生きてる間の歴史が分かればあとは興味ない



 ──だって、俺は世界で一番強いから常に勝者だからね。俺の目で見たのをそのまま俺の中で歴史にするんが最高よ。




「つまりですね。聖神アルカディアとはぺらぺーらぺらら、ぺらぺーらぺらぺらぺらぱぺれぱれ、ぺらぺらー」



 なんか熱く語ってるけど基本スルーで問題ない。前世の中学の興味ない授業もこんな感じで聞き流していたのも記憶に残っている。




「あれ、お兄様!!」

「ん?」




 おや、リトルシスターもここに来ていたのか。ついでに彼女隣には第三王女のナナ様も一緒にいる。おいおい。王族がこんん所に一人で来るなよ。


 更についでにナナの護衛だろう。一人の女騎士も立っている。初めて見たな。



「お兄様、こちら。ナナ様の護衛騎士。【神聖騎士団】で、更に【聖騎士】のくらいを持っているディズレット・メロポーさんよ」

「王女を国外に出すってヤバい護衛騎士だろ」

「まぁ、一応祭典ベスト4らしいから。アタシもね。なんかあっても大丈夫なのよ!!」




 祭典ベスト4が2人いるから大丈夫って不安なんだけど。だってあそこに居たのそんなに強くない……



 いや、俺基準だとダメか。



「イエー兄弟! また会ったね!」

「昨日も会ったぞ」

「イルザちゃんがアルカディアを調べるっていうから。それに付いてきたんだぜ?!」

「ふーん」

「護衛騎士がどうしてもと言うからついでに連れてきたぜ☆」




 まぁ、こんなのとは言え王女様だからな。護衛は当然だな。そして、護衛騎士がどうやらかなり厳しめの顔つき。


 美女が怒ると怖いと言うが別にそうでもないな。



「ほほほ、皆様3人共聖神アルカディアを知りたいのですね! ここは私に任せておいてください!」

「この人って、誰だっけ?」



 王女と護衛騎士のディズレットはしゃしゃり出したレイナに首を傾げている。


 確かに会ったのは初めてかもしれない。


 


「ゼロ・ラグラー様の専属メイドのレイナと申します。聖神アルカディアについて誰よりも詳しいのでガイド役は任せてください!」

「へぇー、兄弟のメイドさんって詳しいんだね」

「初めまして。神聖騎士団、聖騎士、護衛騎士のディズレットと申します。お詳しい方でしたら案内等を任せても問題ありませんか」

「えぇ、問題ありませんとも」




 つまり、俺、レイナ、イルザ、ナナ、ディズレットの5人で遺跡を回る事になるのかぁ



「お兄様がこんな所来るなんて珍しいわね」

「まぁ、ね」

「二人きりとね。メイドとね……どういうつもりなのかしら?」

「本当はキャルも来るはずだったけど風邪引いたらしい」

「うん、ならいいわ! 許す!」

「勝手に許された」




 遺跡の中は思っているよりも広かった。


「お兄様ー、怖いー!」

「ねぇねぇ兄弟。代行者とか最近何かわかった?」



 イルザがベタベタしてきている。王女様はこそこそ話で隣にいる。



「これはアルカディアのぺらぺーら、ぺららぺらー(超早口説明)」



 レイナは無視しておいていいだろうな。護衛騎士さんは真面目な顔でレイナの話を聞いてる。アルカディアオタクなんだろう。


 我が革命団にも歴史考察班みたいなのであんな集団がいたりもしている。



 そして、遺跡内を歩き続けるととんでもなく大きな壁画が見えてきた。


 壁画があるこの部屋は凄くデカい。ここだけ大分大事な部屋んだろう。



「お兄様、六人の大きな巨人が一人の巨人と争ってるように見えるわ。これが六大神と聖神の戦いなのかしら」

「そうじゃね」

「兄弟、でもこれって人間も聖神に向かって剣を向けてるから実質聖神と神と人々の戦いなのかな? あ、でも、聖神の周りに一部人間いる」

「糸こんにゃく買って今日はすき焼きかな」



 やばい、マジで興味がない。イルザとナナはかなり興味あるそうだけど。そして、レイナは壁画を手で触れて真面目な顔をしていた。




「……こんな事もありましたね」



 レイナが暫く壁画に触れていると彼女はある事に気づいた。壁画の端にボタンみたいな何かが置いてあったのだ。



「え!? あ、あれ? これ、なんでしょう」

「おい、押すな。絶対押すな。面倒ごとの予感がする。もう帰るんだよ。壁画は見たし、歴史はわかったから」

「……こ、これは、お、押したい!! 押したいですよゼロ様!」

「押すな」

「あ、あー! 私の右手が勝手に!!」




 レイナが右手を突き出そうとするので咄嗟に右手を掴み取った。


 危ない




「えい! これなに? 王族スイッチかな☆?」




 ナナ様が押した……




──ゴゴゴゴゴぉぉぉぉぉ




 遺跡が動き出した。強制転移が始まり気づくとまた知らぬ部屋に5人居た。





「ここは試練の場所……清廉一族が作り出した神聖なる場所。神の歴史を知りたい者よ。進め。そこに真実がある」

「おい! 僕は王族だぞ! 全部タダで出せ!!」

「黙れ、この場は全て試練の受ける者だけだ」

「うぎゃああああああ!!」




 急に矢が飛んできたのでナナの手を引いて躱してあげた。俺居なかったら脳天に刺さってたぞ



「俺居なかったらお前死んでたぞ」

「う、うん、よくやったね! 王族を救うとはくるしゅうない!」

「今後は放っておこうかな。脳天に刺さって死んでも」

「うわぁあああ!! ごめんなさいごめんなさい! 多大な権力を持って育ったから対等な言動ができないんだよぉぉ!!!」

「はいはい、ひっつかないでね」



 本人的にもマジで死ぬ寸前だったのが分かっていたのだろう。震えて抱きついてる。



「ね、ねぇ、ちょっと漏らしちゃったんだけど変えの王族女の子パンツ持ってない?」

「んなのねぇよ。てか王族のパンツって何?」

「最高級の布で出来てる熊の刺繍が入ってるオーダーメイドのことなんだけど……」

「もう滅べよ」







 

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