第22話 ゼロはただのヤバいやつ

国王様から呼ばれた日の夜、俺が自室に帰ると……

 

 

「あ、こんにちは」

「またきたんですね」

 

 

 例の如くポムンが居たのだった。この人、一歩間違えたら不法侵入だと何回言えば分かるのだろうか。

 

 

「あ、優勝おめでとう」

「どうも」

「祭典で優勝だなんて、ゼロ君はすごいねぇ。父親と姉もしてるんだから当然かな?」

「いや、単純に俺がすごかった」

「おー言うねぇ」

「天才だからね。それと毎回思うんだけど欲しいんだったら人形あげるよ。また人形見にきたんでしょ」

「うん。見にきた。でも、いらないかな」

「あ、そう」

 

 

 毎回人形を観にくる熱心な女の子。いや、歳は俺の祖母であるグランマと同じくらいだったか。女の子は訂正しておこう。女性……ババア、いややっぱり女性だな。

 

 

「そろそろ、会えなくなりそうなんだ」

「あれま、引っ越しとか?」

「そんな感じ。すごーく遠くにいっちゃうんだ」

「へぇー」

「ゼロ君はあんまり他人を労わらないよね」

「はい」

「即答なんだ。他人はどうでも良いって思ってるでしょ」

「まぁ、どうでもいいですね」

「あれま」

「でも、世界は誰かの仕事でできてるとも思ってるんで目の前で無実の人が死にそうなってたら誰であっても助けるかも」

「急に良い人に見えてきて不思議。下げてから上がってるからかな」

 

 

 

 ポムンは話が終わると外に出て行った。今度から勝手に入ったら呪われる魔法でも設置しておこうかと考えたがグランマの知り合いみたいなのでやめておいた。

 

 疲れたのでその日は寝ました。

 

 

 

 そして、次の日を迎えると学園内が騒がしかった。あれあれどうしたんだろうか?

 

 

 

「ゼロさん、出番ですよ」

「ふむ」

「来たんですよ。私の婚約者が」

「なるほど」

 

 

 

 どうやらキャルの婚約者候補は他国の人間らしい。ざわざわとうるさい校内には見慣れない学園の制服を着ている生徒達が数人居たのだった。

 

「きゃーきゃ!」

「かっこいい!」

「きゃー! イケてるー!」

 

 

 

 ふむ、あれがキャルの婚約者なのだろう。真っ白で雪のような髪の毛、紅の目を持っているイケメンであり身長も高い190はあるだろう。顔よし、魔力も高そう、身長も高く、貴族なので学歴もある。お、お前は一体全体何を持ち得ないのだ!?

 

 

「彼の名前はデュベル・ポリカーン。彼の父親は宗教国家ボルトルの伯爵だそうです」

「っち、イケメンかよ」

「貴方もイケメンですよ」

「お、慰め?」

「事実を言ったまでです。貴方のお父様もお顔が良くて、妹も姉も母親も良いんですから貴方も良いに決まってます」

「ククク、確かに」

「性格は褒められた方ではありませんが。まぁ、デュペルさんも顔はいいですからね。今のところトントンでしょう」

「ただ、あっちは魔力もあって人気もある。おい、勝っている場所がないぞ」

「あの方の父親は伯爵、貴方の父親は公爵でしょう。それに祭典で七連続で優勝できる化け物は貴方の父親くらいでしょう」

「ふっ、俺たちはファミリー。これは勝ったね」

「父親を引き合いにだす小賢しい部分は嫌いではありませんよ」

 

 

 流石は俺のパパンだぜ。こんな時でも俺に力をくれる、俺はなんでも使えるのは使う性格だよ。しかし、ここで俺は疑問が浮かんだ。

 

 

「そもそもなんだが、なんでお前の婚約者きてるの?」

「それを説明する前に少し間違いを修正しておきましょう。彼は元婚約者です」

「あれ? 俺は」

「貴方も元婚約者です。元々は貴方との結婚を考えていたお父様なのですが。貴方との婚約が無しになったその後に、婚約を結んだのは彼と言うわけなのです」

「ふむふむ」

「まぁ、彼はお父様がどこか気に入らない部分があったらしく途中で無しになりました」

「あーそうなんだ。どこが嫌だったんだろう。ワキガだったとか?」

「そんな馬鹿な理由ではありません。もっと本能的な……悪い匂いがするとか」

「それワキガやないかい」

「そう言うのではなく、本能的な何かでしょう」

「ふーん、お前のお父さん勘よさそうだしそれは本当じゃね。もしかして、あいつSMクラブ通い詰めてたとか。性癖が狂ってるんじゃない?」

「……くだらない。本当にくだらないです。まさか、一時期とは言え貴方と結婚をしてもいいと思っていた自分を恥じてしまいます」

「あ、俺と結婚したかったんだ。その割に結婚あっさり無しになったよな?」

 

 

 

 へぇー、意外。結婚をしたかったんだ。てっきり俺のことはかなり嫌っていると思っていたんだけどさ。イルザと一緒に居る時もちょっかいとか出してきたし、毒舌言われたりしてたんだから。

 

 

 

「昔の話です。それに結婚を断ったのは私のお父様ではなく、貴方のお父様です。魔力を理由にしてでした、私とお父様はそれでも問題ないと言っていたんです。しかし、一応は公爵である貴方の父親からの言葉、魔力と言う真っ当な理由、結婚する本人である貴方も強く打診をしませんでしたから、結婚が無しになったんです」

 

 

 

あー、そうだったそうだった。だって、その時は代行者ごっこで忙しかったからね。【全てはあのお方の思し召し……】と言いまくっていたからそれで忙しかったしね。

 

そう言えば……時間が欲しかったから結婚が面倒だった。代行者ごっこをずっとやっていたいと思っていたんだけどまさか飽きるとはねぇ。笑ってしまうぜ。

 

 

 

 

「なるほど、その後にあっちが来たのか」

「えぇ、相手も他国の貴族で位としても高かったですからね。あっちから打診をしてきました。互いの親子同士で話し合い、了承。しかし、二回目で会った時に断ったので彼とは二回程度しか話していません」

「断っていたのに最近になってまた打診をしてきたと言うことだな」

「えぇ、あまり気が進まないので断りたいのです。しつこいんです。しかし、彼はボルトル国家での大きな貴族。そして、神源教団でも大きな地位があるみたいで、日に日に押しが強くなってるんです」

「ほぉ」

「この間なんて、神源教団の方が我が家を訪ねてきたんですよ」

「それはそれは」

「本当に勘弁してほしいです。ここまでの話を聞いてどう思いますか?」

「マジ人気者じゃん、ウケる」

「死ね」

 

 

 

 あ、これガチでキレてる顔だわ。茶化すのはここまでにしておこう。しかし、こんなに押しが強いとは……ウケる笑。教団も一緒になって実家に訪ねて結婚を迫るってウケるわ。笑っちゃいけなんだろうけど。

 

 

 

「教団から結婚したら聖女の称号を与えるとか」

「聖女……ふっ。聖女ね」

「今、笑いましたね」

「笑ってない」

「はいはい、どうせ聖女みたいに清楚ではありませんよ」

「拗ねるなよ」

「はぁ、まぁ、断れるなら断りたいのでよろしくお願いします。最悪ダメだったらそれでいいですから」

「あれ、いいんだ」

「貴族ですよ。私は。他の人よりも大きな権利がある。それゆえに責任があるのは当然です。全てが上手くいくだなんてそんな贅沢は望めません。抗ってダメなら受け入れます」

「大人じゃん」

「貴方と違ってね」

「ふむ、確かにな」

「一応興味で聞きますが貴方は今後どうするのですか? 結婚は?」

「しない。爵位とか面倒だし。姉と妹のどっちかが家を継ぐだろうから俺は適当にどっかでスローライフをしようかなと思っているよ」

「……貴方を見ていると真面目に人生を向き合おうとしている自分が馬鹿らしくなってきますよ……いけないけない。私は貴族、流されるな。ゼロさんそれでは宜しくお願いしますよ。彼がこちらに気づきました」

「あいよ、ハニー」

「その呼び方キモいのでやめてください」

 

 

 

 

 あっちから高身長イケメンが寄ってきた。ふむ、匂いはそんなにだな、ワキガではなさそうだ。

 

 

「久しぶりですね。キャルさん」

「えぇ、お久しぶりです」

「君はいつも可愛い。それでどうでしょうか。婚約の件なのですが」

「残念ですがお断りします」

「そうか、ならまたアプローチをするだけです」

「残念ですが彼氏ができてしまいましたので」

「なに?」

「イェー元婚約者君こんちは! ゼロでーす!」

「「……」」

 

 

 

 あれ。どうやらウケてないみたいだ。二人とも黙りこくってしまっているみたいだ。

 

 

 ふむ、こんな感じの方が寝取られたみたいで素直に引いてくれるかと思ったんだが

 

 

 

「なるほど、ゼロ君ですね。私はデュベル・ポリカーン。見たところ、黒エンブレム、劣等生ですよね。キャルさんを幸せにできそうに思えませんが」

「出来る! 俺はキャルの幸せを心の底から願っているんだ」

「じゃ、なんで婚約断ったんですか(キャルの小声)」

 

 

 ここは堂々と俺の方が幸せに出来ると宣言をしておくに限るな。とりあえず勢いがあれば相手を引かせることができるだろう。

 

 

「ふふふ、まさかキャルさんがこんな男を好きになるとは思いませんでした」

「こう見えてですが、彼はゴルザ・ラグラーの息子ですよ」

「──っ!? まさか、祭典を7年連続で制した七冠の魔剣ウェスタ・ワンの息子ですと!? こ、これが」

「えぇ、つまり彼の家は公爵家となる。家督を継ぐ可能性もあります。貴方よりも有望株でしょう」

「ごめんねぇ、元婚約者君ー」

「その話し方をやめなさい」

「あ、はい」

 

 

 キャルに注意されたのでチャラ男寝取られ風に話すことはやめました。さてさて、こっから相手がどう出てくるか。パパンの名前で引いてくれると嬉しいんだけど

 

 

「いえ、私は諦めません」

「そこは諦めとけよ」

「いえ、だって貴方にキャルさんを幸せに出来ると思えません」

「出来るさ。なぁ? キャル」

「……えぇ、まぁ」

「ほら、キャルさんも言い淀んでいます」

 

 

 おい、そこはキャル即答しておけよ。何真面目に考え込んでんでいるんだ。適当に流しておけばいいんだよ。

 

 

 

「なぁ、キャル俺が幸せにできそうだろ?」

「いいえ、私の方が彼女を──」

「──うるせぇ!!!!! 行こうぉーーー!!!!!!!!(ルフィ)」

「きゃぴ!(唐突な大声でびっくりしたキャル)」

「なっ!?」

 

 

 

 ふっ、流石にデュベル・ポリカーンもドン引きしているみたいだな。唐突に大声を出し、何より俺たちの世界じゃ国民的に人気なあの船長の言葉を発したんだ。俺の勝ちだぜ

 

 

 

「ふふふ、随分と愉快な男じゃないですか、キャルさん」

「……えぇ、愛は感じます。実家のコネもあります。妹さんはこの間の祭典でも三位。お姉さんに至っては昨年は優勝ですからね」

「……確かに有益なコネがあるのは認めましょう。確かにコネだけはね。しかし、問題なのは彼自身がどれほどの」

「──うるせぇ!!!!! 行こうぉーーー!!!!!!!!」

「私が話しているだろうが!!」

「ほう、随分と暴力的な言葉じゃないか。これは結婚したら暴力を振るうタイプと見た」

「何を急に!」

「キャルこいつは辞めておけ。俺が俺以外か。お前にあるのはそれだけだ」

「……えぇ、まぁ、あ、貴方を選びます、はい、え、選びますとも」

「私は認めませんよ。キャルは私と居た方が幸せのはずです」

「でも、キャルは俺と一緒の方が幸せだって。それを無理やりするのっておかしくないすか?」

「いいえ、私の方が幸せにできます」

「それって、貴方の感想ですよね? あのー、俺の幼馴染と言うか、彼女と言うか、未来の妻というか、婚約者のキャルなんですけど。俺と一緒にいた方が幸せだって言っています。こう言う時って潔く引くべきだと思うんですよね。それが本当の紳士では」

「な、だ、だがそれは」

「それに貴方と一緒にいた方が良いっていいう、データとかエビデンスないんですよね。俺は彼女を幸せにできます」

「お、お前が幸せに出来るデータは」

「──うるせぇ!!!!! 行こうぉーーー!!!!!!!!」

「な!?」

 

 

 ふむ、なんか俺かっこいいな。めちゃくちゃ論破してるわ!!! 顔もいいし、背もまぁまぁ高い、論破もできるし、名言も言うことができるし。これは最強では!? まぁ、最強なんだけどさ!!

 

 

 流石のキャルも俺に惚れてしまっただろうな!! ふっ、偽恋人役なのにあまりに論破する姿がかっこよ過ぎて惚れられたら面倒だな!!

 

 

 

 

 チラリとキャルを見ると苦笑いをしていた。

 

 

 

 

「こ、こうなりましたか(デュベルさん……私は貴方の味方ではありませんがこの男と口喧嘩は辞めておいた方が得策ですよ。絶対勝てません。基本嫌味な意見で論破してくるし、逆に自分が論破されそうになると大声を出して相手を説き伏せようとする節がありますし)」

 

 

 

 

 これはキャルが俺に惚れてしまう世界線があるな!! うわー、俺スローライフ送りたいから女難は困るぜ!! 俺に惚れると火傷するぜ!!


 ふふふ、もう俺の勝ちだろ!!


 

 

 

 

「こ、こうなったら決闘だ!! 騎士とは言葉ではなく剣で語るもの。結局彼女を守れるかどうか騎士の力できまる!!」

「え? (あ、デュベルさんそうきましたか。まぁ、彼に口喧嘩は勝てませんし)」

「ええ!?」

 

 

 う、嘘。なんだか徐々に面倒な事態になっていないか!?

 

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