第23話 シリアスな話
前回までのあらすじ
キャルの婚約者が来た!! 論破したら騎士としての勝負をすることになった!!!
ま、マズイ。どうしたらいいのだろうか
「これはどうしましょうか」
「ふむ、キャルお前が結婚をした場合、芥川龍太郎の本はどうなる?」
「勿論、渡しますよ」
「あれ、このままアイツと結婚してもくれるの?」
「えぇ、一応貴方は律儀に頑張るだろうと思っているのでどうなっても渡しますよ」
「あ、そうなんだ。なら負けても」
「全力でやってください。あちらは魔法、剣術、座学での三本勝負を望んでいます」
「よし。勝てるかな」
「魔法は魔力ゼロの貴方に期待していないので負けは確実。しかし、残りの二つなら勝機はあるでしょう」
「あぁ、勝てる」
あっちはどうやら騎士としての純潤となる勝負を望んでいる様子だった。さーてと俺が相手になってやりますか!!
ふむ魔力を使うと勝手に暗黒微笑BGMが始まってしまい俺の正体がバレてしまうので使わずに行こう。
「さて、私との魔法勝負は逃げずに来たのは感心しますよ」
「逃げないさ。愛するハニーを守るためだからな」
「なるほど、ならば……どこまで出来るのか楽しみにしています」
学園には大きな演習場があるのだがそこには見学ができるスペースがある見学できる観客席がある。円形のようになっていて、祭典が行われたコロッセオみたいだ。
まぁ、こっちの方がだいぶしょぼいけどね。ただ、熱気は大分高い。
意外と、皆興味あるみたいなのだ。デュベルはイケメンだからいきなり人気者になっている。
「よし、ならば先手は私から行かせて貰いますよ」
「あぁ、構わない」
互いに勝負が始まると思われた瞬間、俺は両手を天へとあげた
「なんの」
「降参します。この勝負どう足掻いても俺の負けだ」
「あぁ!?」
「俺魔力ゼロなんだよね。ゼロ・ラグラーだけに」
「──お兄様、それ面白くないわ!!」
「ふざけてるのか!?」
「あぁ、わかってる。俺のギャグが面白くないことも、優雅にランチを楽しんでいる妹が思わず暴言を吐いてしまうほどにつまらないことはな」
「ふん、まぁいいでしょう。これで私の勝ち星が一つ増えたことには変わりありません。どちらがふさわしいか見えてきたようですよ。観客の生徒にもね」
「勝負はやってみないとわからないさ」
「──お兄様やってもないでしょッ、降参してるし!!!!」
「遠くからミニシスターがツッコんでるな。ふむ、最近絡んでなかったから寂しいのか」
「──聞こえてるわよ!! 勘違いしないで! 寂しくなんかないから!!」
「いや、でもなぁ。この間、彼女ができたって言ったら泣いてたし」
「──あ、あれは違うわ!! 花粉!!!」
「あぁ、確かにそうかも」
「──そうよ!」
「あれ、でも、しかし、寂しそうに結婚スピーチの手紙泣きながら書いてたって言ってたし」
「──か、勘違いしないでよね! 偶々、目から汗が大量に出ただけなんだから!!」
「あぁ、確かに」
「私を無視しないでもらいましょうか。さて、相変わらずこちらの優勢は変わりありません、残りは剣術と座学です」
「なら、さっさと剣術しよう」
「貴方が勝てるとでも」
「基本俺って勝てる勝負しかしないから。これはやるぜ」
「ふん、男として情けないですね」
「いや、逆に寧ろ勝ちしかない人生になれるから楽しいよ。俺は彼女にかっこいい部分しか見せないから」
「なんと見窄らしい男ですか……勝てると思っていた剣術でも貴方は負けます」
「勝てるって。魔力ゼロで前期は試験突破してるから」
「なら見せて貰いましょう」
「魅せてやる。見惚れて眼球落とすなよ」
互いに剣を構えた。
「参ったと言うか、気絶か、死亡か、武器破壊の二択だな」
「それは二択と言いません。四択です」
「軽いジョークだろ、流せよ」
「減らず口ですね……いつまで続くか」
「俺が死ぬまで」
「……なら、死ねッ!!!」
「はい、お疲れー」
「なに!? 剣が!?」
武器破壊で勝った。
さーてと、これで一対一か
◾️◾️
観客席にてゼロとデュベルの戦いをキャルとイルザは観察していた。キャルは勝ち星が互いに一つずつとなり、安堵の表情を見せる。
「ゼロさん、剣術得意ですね」
「お兄様は魔力ないから、あれしか無いの」
「なるほど……」
(随分とお強いのですね。外から見るとそれなりに動きが見えましたが実際だと目にも止まらぬと言ったところでしょう。しかも、事前に勝負すら投げている弱者として認識しているなら尚更……眼は準備をしていない)
「お見事と言ったところでしょうか。事前に不戦勝と言うのではなく、眼の前で堂々と負けを醜態に晒したことで周りのアウェーな空気も味方につけましたか」
「そうね、流石よお兄様」
「えぇ。相手からしたらかなり小さい相手に見えてましたね」
「ミニミニお兄様もおつね」
「え、えぇ。そうですね、おつ、です?」
「えぇ、そうよ、あ! お兄様がこっちみてる! ねぇ、前髪大丈夫? 変じゃない?」
「大丈夫ですよ」
(一対一……座学ならゼロさんの勝ちでしょうか? あの人昔から妙に勘がいいですから)
場所を移動し、いつもゼロ達が授業を受けている大教室へと彼等は移動した。そして、
「では、先に20問正解した方の勝ちとします。問題は私、キャル・スリヌーラが出させていただきます。解答権は早押しです」
ゼロとデュベルの前に赤いボタンが一つずつ置かれている。互いに問題を聞いてわかった方が先に答えると言うシンプルなルールだ。
「では、1問目。一級魔法の──」
「──ピンボン! おちんちん!!!」
「ゼロさん、私の運命がかかっているのにふざけないでください。不正解です。問題の続きは一級魔法の螺旋放射。その術師の最初の文字は?」
「β」
「正解です。デュベルさん」
「あー、そっちか。逆にね」
「ゼロさん、貴方の愛する彼女が盗られそうですけど真剣にしてくださいね。逆もクソも無いですから」
「はい!!」
「返事だけはいいですね」
そして、問題は2問目に移行する。
「現在懸賞金が43億ゴールドついている犯罪者といえば」
「──ピンポン! でっかいちんちんだろ!!」
「ふざけるなって」
「【深淵】のアドス」
「デュベルさん、正解」
「問題──」
「──うーん。流石にこれは……チンチン……かなぁ?」
「……あの、神妙な顔で言わないでください。不正解です。そんな顔しても正解にしません」
そして、ゼロは10点の先制を許す。10対0という点数差がある事実にキャルは僅かに落胆する。
(ゼロさん……貴方という人は。まぁ、本人的には何か作戦があるんでしょうけど。もっとワザと間違えるにも他に言いようあるでしょうに)
イルザとそれを見ていた王女のナナは互いにこの現状を分析する。
「兄弟……ちんちんって子供じゃん」
「ふっ、アタシは分かったわよ。お兄様の戦略が」
「え? ただちんちんと言ってるだけじゃん」
「それが違うの、普通の男のチンチンとお兄様のチンチンは違う」
「ど、どう違うの?」
「見てればわかるわ」
そして、11問目。ここへきてゼロが覚醒する。
「一級魔法。電波天使の術式。その七文字目と三百文字目は?」
「──αとZ」
「え、あ。せ、正解」
「なに!?」
先ほどまでのアホ丸出しの解答をしていたとは思えないほど渋い声で彼は真実を表す。眼鏡をかけて、インテリ感を全開へと広げる。
「ふふ、始まったわ」
「な、何が始まったの?」
「お兄様は最初からこれを狙っていたの。最初にあえて負ける。大負けのフリをして相手を優位な状況とする。その後にじわじわと後ろから追い詰める」
「な、なるほど敢えて大負けを演出することで相手は自尊を高める。そっから落とされたらたまったもんじゃない」
「えぇ、しかもさっきまでちんちんちんちんと馬鹿みたいに言っていた相手が急に真面目に。的確に。繊細に。解答を見事に積み重ねていく……ふふふ、想像をしてみて。さっきまでちんちんと連呼していた男が急に術式などの超難問を正解していく様を。後ろから強烈な才能が迫ってくるのを」
「確かにちんちんと言ってた馬鹿が急に賢い雰囲気出したら怖いね!」
「ちんちんとさっきまで言ってたもん。また、ちんちんかな? と思わせての高難度問題の正解。これは相手は相当焦っているわ。お兄様の勝ちね」
そして、案の定ゼロが勝った。しかし、デュベルはそれでは納得がいっていないようで顔を歪めていた。
「これでは終われません。私にはなんとしても彼女と結ばれなくてはならない」
「諦めろよ。お前負けたじゃん」
「何か不正をしたのでしょう。貴方が」
「どう不正すんだよ。ここまで、俺お前の武器破壊して、チンチンと問題言って問題正解しただけだぞ。どこに不正の要素あるんだよ」
「いや、これでは終われません。必ず必ず、私は諦めません」
「デュベルさん。申し訳ありませんが私は貴方と結婚しません。お父様も認めないでしょう。そして貴方はゼロさんに負けた。これ以上は正直見苦しいでしょう。貴方は……あ、あの、その……お、おち、おち、おち」
「おちんちんね(真顔ゼロ)」
「もう! ぼかしてたのに言わないでください!! 恥ずかしいから言わないようにしていたんです! 取り敢えずデュベルさん、貴方はこんな男にも負けるような男であったということです。そして、私は彼と結婚します。貴方とはここまでとなります」
「いや、認めない。認めない。認めない……風雷の神への貢ぎを……。またくるぞ。ゼロ・ラグラー、そして、キャル」
「まだ、お前と関わる件あるのかよ」
そのままデュベルは消えていった。彼の顔はどこか憎しみを抱いており、並々ならぬの事情を感じさせた。
そして、これが強大な事件へと発展する導火線であることにまだ誰も気づいていない。
「なぁ、キャル。男の股間についてる物はなーんだ。まさか天才のキャルがわからないなんてことないよな!? 天才だもんな?」
「……お、おち、おち」
「おちんちんね」
「……くっ、殺せ」
◾️◾️
「デュベル。まさか失敗したとはな」
「申し訳ございません」
「神源教団、風雷派。その信徒の中でも
「はい」
「あれは【選ばれし者】だ。分かっているな」
「キャル・スリヌーラはどんな手を持ってしても手に入れます」
神源教団には信徒、大司教、宗王、眷属様の順で序列が組まれている。そして、信徒は…一星から七星までの七つの階級に実力順で分かれている。デュベルは信徒の中では大きな実力を保有している。
なお【神覚者】はどの位にも該当しないが、神覚者となるとその支配権は眷属様に移行することとなっている。
「──神覚者となることができる貴重な素材だ。神覚者の信仰が神に与える量は常人とは一線を超えている」
デュベルと白衣の男が話している。白衣の男は姿をさらさず、背丈しかわからない。デュベルより少し下だが歳や立場は上であった。
「近頃は代行者と言う愚者によって、神覚者が消されている。天明界とは互いに対峙しないと盟約を交わしているがやつらもまた【選ばれし者】を実験体として求めている」
「はい。風雷神復活のためにキャル・スリヌーラは必ず」
「イルザ・ラグラーもいるがあれは代行者が一度現れたと聞いているからな。下手に手は出せん。王女も事が大きくなりすぎる」
「はい、キャル・スリヌーラは必ず」
「うむ、援軍を向かわせよう。お前と同じく
「はっ、そちらも」
「うむ……全く。神源教団からの派生組織如きが【天明界】と名乗り今や我が物顔で交渉してくるとはな」
「天明界。神の力を自らにしようとする者達ですか。吐き気がしますね。神とは信仰し崇め、そのままに力を振るうべきだと言うのに」
「その通りだ。だからこそ、此度は」
「はい」
「最悪死体でも構わん」
「心得ました」
「ならばいけ」
白衣の男がそう言うとデュベルは再び動き出した。彼が向かったのはキャルが住んでいる女子寮。
ちょうど、彼女が学園から帰ってくる場所にデュベルは立っていた。
「また、ですか。悪いですが何度来ても結果は変わりません」
「あぁ、私もこれ以上はしないですよ。私はゼロ・ラグラーに負けた。でも、貴方は譲れません」
「……貴方私のことを好きではないでしょう」
「えぇ、そうです。もう取り繕う意味も無くなりました」
「それは」
「貴方に縁のある者。これから全て殺し回ります」
「──っ。そこまでしますか」
「えぇ、貴方の父も友も愛する人間も全部。教団全ての力を使います」
「教団がそこまで力を入れてくるとは……私に固執しているのは貴方ではなく。神源教団だったと言うわけですか」
「えぇ。逆らっても無意味でしょう。これは脅しではない。あれを見てください」
「あれは……魔力の塊?」
デュベルが指を差す場所は空。空に向かって赤い魔力の塊が放たれ。それが唐突に爆ぜる。夕方の夕日に僅かに残っていた雲がその衝撃波によって全て吹き飛んだ。
あまりに大きな爆発に王国内で驚愕の声が上がる。
「なっ!? あんなのを王都の空に……大馬鹿者ですか!? 国家転覆と間違われでもしたら大問題でしょう!?」
「私達の真似とは誰も思わないでしょう。我々は神を信仰する存在。この国にも我らが同志は数多存在している。今度は……この寮にでも落としても構いません」
「……そこまで……少し考える時間をください」
「ダメです。今この場で即答をしてもらいます。盟約・思念・相乗の約束・私は真の絆を誓うもの……
「特級魔法……
「えぇ」
「……」
(……誓わなければ私は殺されるか、寮が消滅か、領地が消えるか、友が消えるか。全ての可能性もある。特級魔法まで出してくるとは。いや、そもそも使える領域の存在でしたか……)
彼女は空を見上げる。空には何も浮かんでいない。
(詰み。ですか。まぁ、こうなるのもしょうがない……貴族ですから)
「良いでしょう。貴方の言うことをなんでも聞けと、それを私に了承させるつもりですね」
「えぇ。その対価に私は貴方の友にも家族にも領地や寮にも手を出さないと誓います。ただし、手を出されると私が判断したら誰でも容赦はしません」
「……随分と私に不利。貴方は場合によっては約束を反故にできるとは……まぁ、おどしとはそう言うのでしょうね。えぇ、誓いましょう」
(
「えぇ、このことは誰にも言ってはなりません。それもわかっていますね」
「勿論ですよ。そうれば反故にすると条件を貴方はつけているでしょうし」
「えぇ、ならばその通りに」
「……」
劇的な表情をの変化を彼女は見せることはない。しかし、彼女はどこか寂しげな瞳をしていた。
「お父様、私は結婚をすることにしました」
「……キャル、何があったかちゃんと話せ」
「何もありません。私はただ私の生きる道を決めただけです。私は……」
「待て待て待て。オレになぜ話をしない」
「お父様の手を煩わせるほどではありませんでした」
次の日、彼女はいきなり実家へと帰り、自身の父親に結婚をすることを伝える。普段のように軽やかに伝えた事実であった。
しかし、その行動に彼女の意思が伴っていないと父親はすぐさま把握する。
「結婚式は急ですが明日行うことになっているそうです」
「……おい、キャル。オレに説明しろ。どう言う要件だ」
「そのままですよ。お父様。貴族に自由はありません」
「だとしてもそれをするなら親に話は通すだろ。当主は現時点でオレだ」
「……えぇ、そうですね」
「貴族は権力がある分、他よりも苦労をすべき。権利と責任は表裏一体だ。それはオレが教えてきた事だが……なんだ、特化的な魔法か?」
「……」
「沈黙か。やっぱり変なやつだったか。最初会った時はそこまでの何かを感じなかったんだがな」
「お父様、何を言っても何があっても私はもう決めたのです。どうせお見合いだったのですし」
「だとしても相手があるだろ。貴族同士が納得し自身の利益を追求し領民を導ける選択ならば肯定されるべきだ。その道筋の果てに自身が縛られるのならまだしも今回は違うだろ……少し待ってろ。ゴルザを呼ぶ。それでうまく回せ」
「お父様ラグラー家の力は借りたくありません。もう決めてしまったのです。これを破れば……」
「……まさか契約にしてもやって良い契約魔法があるだろうがッ 単なる罰則ではなく生死を天秤にする特級を使われたなッ!! キャル!!」
「……」
「掛けるのは簡単だが解呪はその比じゃないんだぞ! 使うのも本来なら御法度だ! 自衛でもないなら犯罪行為だ……くっ、やはりゴルザを呼ぶ。あいつなら呪いは解ける可能性がある」
「お父様、もうやめてください。お願いします」
「……」
キャルがそう言うが父親のキュリテがそれで納得をするはずもなく、親友であったゴルザ・ラグラーを呼び寄せる。彼はキュリテが知る中で最も魔法の才能を持っている存在だ。
特級魔法クラスを無効とすれば同等クラスの魔法ではたりない。仮に同等クラスで無効にするならば【使い手のレベルが極端に違う】と言う条件がつく。同じ魔法でも使用者によって効果が変わる。
しかし、特級というのは誰でも使えないからこその特級。それよりも格上の魔法使いは本来そう簡単に見つからない。
だが、祭典を学生の身分で優勝を勝ち取り、神童とすら言われている魔法騎士は幸運なことに一人だけ存在していた。
「私に用とは何だ」
「あぁ、娘が魔法をかけられている。特級だ」
「……なるほど盟約を強制させる魔法か。それなりの使い手だな」
「ゴルザ、解くことはできるか」
「ふむ……確か君はキャルか。その状態でゼロには会ったか?」
「……はい。会いましたが」
「ならば。いや、そうか……悪いが私にもその魔法は何もできん」
「おい! ゴルザ! なんとかできないのか!!」
「キュリテ、悪いが何もできん」
「……嘘をつくな。お前の天才ぶりはよく知っている。オレが絶対に勝てないと本物の天才だと認めたのはお前だけだ。できるだろう! お前なら!!」
「……できん」
ゴルザは冷めたように言葉を低く、小さく一定に保ったままだ。その態度に真剣に向き合っていないとキュリテは思ってしまった。それゆえの激昂だった。
「他人の娘はどうでも良いのか……。あの時の
「怒ってはいない。私にできるのはそれだけだ」
ゴルザはそれ以上は語らず席をたち、帰路に向かう為歩き出した。キュリテは何も言わずにかと言って睨むことなく悔やむように椅子に座った。
キャルは様々な思いが交差し、ゴルザを追った。
「あの」
「どうかしたか」
「色々と申し訳ありません。ご迷惑をおかけしてしまって」
「構わんさ」
「……ゼロさんは結婚するんですか」
「さぁ私にはわからない」
「そうでしたか。あの、昔、魔力が……ゼロさんは……すいません。うまく言葉が纏まりませんでした……」
「そうか」
「貴方はゼロさんによく似ていますね。イルザさんより、アルザさんより、貴方が一番似ています」
「普段のゼロは私のように静かではないと思うが」
「テンションではないです。淡々としている所ですね」
「目指すのがはっきりしているだけだろうな」
「……彼にも何か目指しているのがあると」
「ふっ、あの子は産まれた時から今に至るまで何も変わっていない。安易に見せないだけだ」
「ただの馬鹿に見えますけど」
「それはどうだろうな」
ゴルザと彼女は特に口数を増やさない。彼女には去り際の彼の背中が、ゼロに似ているように見えてしまった。
だが、ゼロの方がその背中が色濃いような感覚が少し心に残った。
その後、ゴルザが帰った後に彼の娘であるイルザ・ラグラーが家を訪ねてきた。キャルとイルザは外に出て二人きりで話す時間を設けた。
「アンタ、結婚するんだって」
「そうですよ。イルザさん」
「……いいの、それで」
「私が決めたことです。悔いはないというわけではありません。でも、これが人の人生なのでしょう。悔いない人生は存在しません」
「……夢を見たの」
「はい?」
「アンタ、洗脳されて兵器みたいに扱われてた。そして、沢山人を殺した」
「夢ですよね。私のことを好きで考えていたから夢に出たのでは?」
「変に強がらない方がいいわよ。アンタ……手が震えてるじゃない。本当はわかってるんでしょ。結婚とか、そんなレベルじゃない大きな何かに巻き込まれてるって」
「……」
「私のは夢よ、ただの夢。でもね、一つだけ言わせて。アンタが一番最初に殺すのは誰だと思う」
「さぁ? その辺の領民ですか?」
「父親よ」
「……ぁ」
「ずっと母親がいなくて寂しいはずのアンタをそう感じさせないように育ててくれたの……あの父親なんじゃないの。いいのこれで」
「だから、夢でしょう……」
「当たるわよ。アタシの夢は。だから、逃げてほしい。今ならまだ間に合う」
「逃げません。私は……私は貴族なのです。私は私を律する。大きな責任が私にはあるんです」
「なら、手足折ってもこの場に残そうかしら」
「やってみるといいですよ。私は負けません」
「──っ そう! なら、やるッ?」
突如として爆発的な魔力の練り上げを彼女は感じた。イルザの周りには空気が歪むと錯覚するほどの莫大な量が出現していた。
「祭典からさほど、経っていないのに……ここまで腕を上げていたとは」
「勝てるの、アタシに」
「……ふふふ、あぁ、なるほど。やはり私は勝てないですね。分かりました。諦めます」
「どっちを」
「結婚をですよ。貴方のいうことに従います」
「ふん、最初からそうすればいいのよ」
「勝てない勝負に挑むほど馬鹿ではないですよ。私は天才です。愚行はしないのですよ」
「そう、頭いいじゃない」
「えぇ、あのイルザさん。ありがとう」
「な、なによ。急に! ふん、アンタが面倒だから仕方なくね!」
「えぇ、面倒ですね」
互いに笑い合っていると
「……アンタさ、本当はお兄様のこと好きだったんでしょ」
キャルの瞳が初めて見開かれた。一瞬だけ彼女は彼と未来を歩んだらどうなるのか考えてしまった。
「さぁ、どうでしょうね」
「違うの?」
「さぁ、本当にわかりません。でも、そうですね。それはいつか答えが出るでしょう。イルザさんは本当に良い人ですね」
「な、なに! 急に! べ、別に勘違いしなで! アンタのためじゃないから!!」
「貴方に会えて、貴方が友達で私は──」
──その瞬間イルザの意識は刈り取られてしまった。彼女が目を覚ました時、知らない天井であった。
「あれ、ここって……」
目が覚めたら見知っている天井だった。どこか懐かしさを感じるその部屋には1通の手紙が置いてあった。
【イルザさんへ。この手紙を見ている頃には私は結婚をしているでしょう。手短に要件を話します。私を止めてくれてありがとう。貴方の友で競い合えて幸せでした。最後に不意打ちをしちゃって、ごめんなさい。私の分までゼロさんとお幸せになってくださいね】
「馬鹿野郎が!!」
イルザは手紙をクシャクシャに握りしめて、宗教国家ラキルディスに向かう。しかし、彼女の速度では間に合わない。
なぜなら、彼女が走り出した時に既にキャルはウェディングドレスを着ていたからだ。
「美しいですね」
「デュベルさん。話しかけてないでください」
「はいはい。盟約通りに結婚するまで私と私の仲間は誰一人として貴方に触れません。貴方の友にもね」
「そうですか」
「そうだ。ドレス姿を彼にも見せてきたらどうですか。喜びますよ」
「貴方彼のことをわかっていませんね。彼は絶対に何事もなく接しますよ。ただ、そうですね、そうさせてもらいましょう」
キャルはゼロの部屋に向かった。純白のドレス姿に男子生徒たちは見惚れているが、彼女の顔は暗いままだ。
彼の部屋に入るとゼロはベッドの上に座って本を読んでいた。
「あ、結婚おめでとさん」
「嫌味ですか」
「違うって」
「結婚式来ないんですか?」
「あんま興味ないんだよね、他人の結婚式」
「でしょうね。しかし、仮にも元許嫁、愛しているとか啖呵を切ったのだから来てもいいでしょうに」
「そうね。来て欲しいなら行くけど」
「いいですよ、隣座りますね」
「あいよ」
ゼロはいつもと変わらぬのほほんとした態度だった。それが妙に苛立ったが同時に彼女は落ち着き感を持っていた。
「私、結婚します」
「そう。辞めたいなら逃してあげるって言ったのに」
「仕方なかったんです」
「俺があの男のスキャンダルを手に入れて外にばら撒いて相対的にあいつの株を落とす作戦を実行してたら急に、やっぱりあの人と結婚したいとか言い出すからびっくりだったぜ」
「そんなクソみたいな作戦で勝ってもね」
「知り合いに頼んで探ってもらってたのに。勿体無い」
「その知り合いに謝っておいてください」
「はいはい。まだ帰ってきてないから帰ってきたら謝るわ」
「こんな無駄口ももう、叩けませんね」
彼女はベッドの上に横になり天井を見上げた。
「私、綺麗ですか」
「綺麗だな」
「あら、それは嬉しい」
「見た目はいいさ」
「どうも」
「元気ないじゃん」
「そうですかね」
「──なんとかしてやろうか?」
──ぞくり
身の毛がよだつとはまさにそれだった。強烈的に直感的に感じ取った。王者の言葉。
全てを変えられる言葉。
しかし、彼女はそれを断った。
「いいえ、問題ありません。ただ、最後に一つだけ」
「なに?」
「ゼロさん、幸せになってください」
「湿っぽいな。やっぱ辞めとけって」
「私の覚悟を揺らさないでください。これでいいのです」
「ふーん、まぁ、お前がそれならそれでいいさ」
「えぇ」
そう言って彼女は起き上がり彼の部屋の扉に手をかけた。最後にもう一度だけ振り返った。
「また、ね。ゼロ」
「おう」
◾️◾️
嫌なら辞めればいいのに! と俺は正直思った。部屋を出ていったキャルだが絶対に本当は結婚したくないんだろうな。
まぁ、なんとかしてやろうかって百回くらい聞いた気がするし。本人的にはあれでいいんだろう。
折角、相手のスキャンダルがないかキルスに調べさせたのにさ。SMクラブに通ってたとかだったら絶対に俺の好感度爆上がりする。勝手に相手が下がるから俺の株が上がるんだよね。
そしたら消えてくれるかもだし。
キルスとかジーンに週刊誌みたいに張り込んでもらったのにさ
「団長! 大変ですわ!」
あ、帰ってきた。ごーめん、そのスキャンダル意味がない
「あの男、デュベル・ポリカーンは老若男女の脳みそをすり潰した特殊な霊薬を保持しています!! それをずっと長期間大量摂取し大きな魔力を得ていたのです!! これは神覚者の元である【選ばれし者】を生み出すまでの実験で作られて霊薬でして、沢山の人間を犠牲にしていたのですわ!! このままだとキャル様が死んでしまうかもしれません。というか絶対に死にますわ!!」
「団長殿が私達に調べさせていた意味が分かりました。奴は学園のあらゆる場所に爆弾も仕掛けていたそうなのです。キャルさんに強制的に魔法をかけていうことを聞くように仕向けており、破れば全員が死ぬように手筈していました」
「あーしも調べてきたよ。あいつ、かなりの人間殺してたらしい。悪魔の仕業に見せかけて騎士とかも攫って実験にしていたらしい。因みにあーしが学園の爆弾全部処理したよ。ただ、結婚式場にあいつらの仲間がいるからそれはまだだけど」
……SMクラブどころじゃないな。
ふーむ。式場ぶっ壊したら犯罪者か……それは嫌だなぁ……まぁ、今更か。昔からやってるし。
キャルには本ももらった。特に親父さんにも少しだけお世話になった記憶がある。遊びに行ったらココアとクッキー食べさせてくれたし。
ふーむ。代行者どうせやめるし、なんかあっても代行者の犯罪にしちゃえばいいか!!!!!
「これも全ては……あのお方の思し召し。結婚式場を壊せ。それもあのお方の思し召し。ついでにこれで本格的に指名手配されても全てはあのお方の思し召し」
あ、そうだ。ついでにあのお方が仕組んでたってことであのお方が全部悪いってことにしよう
「っ!!!!!!!!??????」(元凶にされたことに勘づいたアルカディア様)
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