第21話 団長の噂

 ま、まずい!! またもや【アルカナ会合】がやってきた。



【星】ジーン、【女王】チャイカ、【月】ロッテ、【魔術師】キルスの面々が席に座っている。



 他にも幹部は居るんだけど任務に行っているらしい。



 そして、隣には副団長が立っている。俺に許嫁が出来てからすっごい不機嫌になってしまっている。




「はい、これから会合を始めます。さっさと話してください」

「凄い不機嫌ですわね」

「ほほほ、副団長殿も何が色々とあるのでしょう」




 キルスとジーンがレイナがほっぺを膨らませていることに言及をする。しかし、すぐさま話を切り替え、別の話題を始める。


「まぁよい。団長、妾としては少しばかり文句があるんじゃ」

「ふむ」

「つーか、チャイカっち。流石に不敬じゃね」

「ふむ、じゃが妾としては文句があるんじゃよ」



 え!? な、なんか俺に文句があるのか!?

 

 おい、レイナ。なんとかしろ!!



「ぷい……」

「おい」

「好きですか?」

「あ?」

「私のこと好きですか? 愛してますか?」

「メンヘラやめろ、状況やばいんだけど。フォローしろ」

「じゃ、いいです。もう既に貴方は彼女作ってますし(邪神)」

「おい」





 おい! お前俺に雇われているメイドであると忘れてるだろ!




「無断でなぜ出たのじゃ。妾も祭典に出場するとあれば応援のお守りも作っていたと言うのに」

「ふっ、すまんな」

「それに……まさか、あそこまで考えての出場であったとは思わなかったのじゃ。なぜ言わん。妾達はそこまで信用に足らんのか」

「……」

「あーしもそこは同意かな。言ってくれればいいのに。あそこまで考えていたら、一言欲しい。だって、バリ協力もできた的な?」

「わたくしも……団長が崇高なるお考えがあるのは承知ですわ。しかし、わたくしもまさか、あそこまでの偉大なる計画をお一人でされていたのであれば一声をいただければ」




 どーれの話なんだぁー!?



 最近、財団Wという商会を立ち上げて一儲けをしていることだろうか?


 結構異世界ビジネス頑張ってるから思っているよりも稼げている……でもそれは誰にも言っていないからなぁ。



 ジーンはどう思っているのか聞いてみるか



「ジーン、君はどう思うかね」

「ほほほ、私はただ団長殿が動かれた際にそれを汲み取り動くのみ。敢えて言わないのもお考えがあるのでしょう」

「ふむ」




 なーんの話なんだぁ! マジで全くと言っていいほどに分からない。トーナメントの話なのは何となく分かるけど……



「おい」

「……なんですか?」

「お前がいてくれていつも嬉しい」

「……好きですか?」

「愛してる、こんな美人が居るとは知らなかった」

「……ッ!(聖神アルカディア様)」




 ふむ、どうやら気分を戻してくれたみたいだ。これだから面倒なんだ。これで神様は盛りすぎだぜ




「えぇ、今回の団長の狙いはシンプルでしたね」

「まさか、お主は既に聞いておったのか」



 レイナとチャイカが視線を交差させている。まぁ、俺は何のことか知らないけど後はまかしておけばいいだろ。


 勘違いしてるのを更に勘違いさせて、この場を乗り切るの立ち回りをするのにレイナは長けている(褒められた才能ではない)




「えぇ、勿論。ゼロ様がした事について理解がずれていると困るので振り返りをしましょう。先ず、祭典が開催され他神の信仰が増えるのを抑制する為、カルマの姿で出場しました」

「それはわかっておる。目立つ為に魔力を敢えて使わず勝ち進んだのであろう? 妾達も把握しておる。というかここまでのことが分かっておらんバカはおらんじゃろ」




 あー、ごめん。知らなかった。しかし、全てわかってましたみたいな顔だけはしておこう。


 腕を組んで不敵な笑みをしておこうぜ!!





「えぇ、知らない方などいないと思いますが念のためです。神源教団が手配した猛者を聖神のエンブレムを使った者が魔力無しで倒すのは最高のパフォーマンスでした」

「団長なら当然じゃ。いずれ妾、清廉一族の番となるのじゃから」

「調子乗んな吸血鬼」

「お主がなデブメイド」

「おいこら! 怒りましたよ!! ふー、落ち着け。そして、天明界の準なる神の実験ですね。それを真正面から潰す」

「ふむ。天明界もまさか準神とかいうのを実験を祭典で行うとはのぉ」

「ゼロ様は敢えて決勝まで残り、正面から潰す選択をされた。カルマの正体が代行者。そしてカルマは聖神アルカディアを信仰していた。話に尾鰭がつき、噂が広がります」

「じゃから、天明界の計画を潰しそれを利用しアルカディア様を復活させる方向に昇華したのじゃろう」





 全然知らん。なにがどーなってんの!? 知ってますみたいな顔をするのも限界なんだけど!?




「えぇ、これはゼロ様が単独で行っています。働きすぎな団員達を気遣い、そしてトップ自らが動くことを存分に見せて団員の士気をあげる為なのです」

「な、なんと! 妾達を気遣っていたのか!?」

「ついでに芥川龍太郎の本も回収しています」

「流石じゃ。妾の夫になる男じゃ」

「だから調子乗んな吸血鬼」

「黙れデブメイド」




 ぇええ!? 知らないんですけど!? 勝手に計画が始まってて勝手に計画が終わってるんですけど!?




 全然知らない間に勝手に計画を潰していたらしい。違法実験をするのもいい加減にしてくれないかな?



 もう神様は諦めてよ。




「流石団長。ひゅーひゅー。あーし達を気遣ってたんだ。今後、飯奢っちゃうぜ。オールナイトでワイン片手にパリーピーポーしよ」

「わたくしを気遣って……しかし、団長自身が危険を犯すなど納得できませんわ」

「ほほほ、キルス殿。団長殿がした決断受け止めるのも団員の務めですぞ」





 知らんわぁ。



「──全てはあのお方の思し召し。これも全ては……私など大したことはない」





 こういう時は、全てはあのお方の思し召しとか言って聖神アルカディアが全部計画してたみたいな感じで投げやりにしよう。


 そんな神様いないけど。




「団長、謙虚だね(やっぱり団長がアルカディアなのかな? 神レベルだし)」

「流石じゃのう(ふむ、団長が神であれば……納得感しかないがのぉ)」

「流石ですわ!(団長が神……それもそれで納得ですわ)」

「ほほほ(これで発展途上とは団長殿に何度驚かせられればいいのやら)」

「ふふふ、ゼロ様は聖神を愛してますからね(ラブです!)」





 なんか、知らんけど今回もギリギリで会合は乗り切った。







◾️◾️




 ふふふ、ゼロ様は私が好きですよね。愛してると言ってましたし、これはもう結婚では? 嫁では? 夫妻ではないでしょうか?!



 私は身内だけで結婚式をするタイプです! 正直友達とか昔からいないですし! 同族の神は人類滅ぼそうとしてたし!!



 子供は三人がいいですね! あれ? そうなると半神半人の子供となる……まぁ、細かいことは気にしても仕方ないです。




「しかし、謎じゃ。団長に一矢を与えたあの本」

「えぇ、わたくしも実際に見て驚きを隠せませんでした。芥川龍太郎……一体何者ですの?」



 あぁ、あの人が書いたなんちゃって世界の真実の本ですか。


 あれはただ単に黒歴史を見て胸が痛くなってしまったのではないでしょうか?



「ふむ、どうやら団長が一冊持っておるようじゃが」

「団長は言っていましたわ。見たら呪われると……そんな内容を団長がわたくし達に見せることはあり得ません」

「ふむそうじゃのぉ。ロッテ、お主はどう思う」

「うーん、団長優しいから見せないと思う。内容知りたいなら自力で取らないといけなーいゼット! みたいな?」

「ふむふむ」

「ただ、仮に呪われるとして団長クラスにダメージを与えるって相当やばいんじゃね? ヤバ谷園じゃね?」

「団長は神の疑惑があるからのぉ。それが真実であったとしたら神すら呪う代物という解釈となる」

「それは流石に飛躍してるような気がすっぜ。あーし的には団長が神である確認が取れたらでいい気がする。でも、団長が胸押さえるって相当なのは間違い無し。初めて見た、団長が胸押さえるところ」

「わたくしは団長が胸を押さえているところを見て、自分のことのように苦しくなりましたわ」




 あ、あ、あ。あの、じ、実は私が神様なんですよね……こ、これって言っても絶対信じてもらえないんですけど




「あ、あのぉ、私その、神をしてたというか」

「流石にそのネタおもんないよ。レイナっち」

「おもんないのぉ」

「面白くありませんわ。流石に」




 う、うぅ、本当なのに!! あ、そうだ! 今回の祭典、ゼロ様が私のエンブレムをつけて出場してくれた(勝手につけた)



 おかげで信仰が高まっているんですよね! ふふふ、この魔力を刮目せよ人間!!




 ──お前達の前にいるのは3000年前に生まれた神であるのだぞ



 神パワー解放!!



「どったの、魔力高めて」

「団長の方が軽く百倍はあるんじゃが」

「それでも手を抜いてますわ」





 うわぁああああああああ!!!!







◾️◾️





 私が彼と出会ったのは……許嫁としてでした。運命とでも言った方がいいのでしょうか。



 初めて見た時、悪くない……そう思いました。顔は美しかった。見た目も悪くない。


 ただ、そう言った部分ではなくどことなく空気感がいいなと思ったのです。最初は許婚で結婚をするというのはあまり気が進まない部分がありました。


 だが、私は貴族であり貴族であることで大きなメリットを授かっている。そのことを考えれば責任でもあると感じていました。


 権利と責任とは表裏一体。どんな結果になろうと受け入れるべきなのかもしれないと自分に言い聞かせていた矢先。



 出会ったのが【ゼロ・ラグラー】という男でした。



 私の父、【キュリテ・スリヌーラ】は彼の父親【ゴルザ・ラグラー】と学友らしい。


 お父様が言っていたゴルザは天才だと。彼の息子なら権力的にも貴族的にも問題はない。彼の息子なら性格も問題ないと




 ふむ。それなら悪くない。




 私は天才だ。私よりは天才ではないだろうと思うけど仲良くしてあげようかと思っていました。





「初めましてゼロさん。キャル・スリヌーラと申します」

「初めまして、ゼロです。こちらこそ」




 ふむ、悪くない。挨拶も割とちゃんとできている。気になるのは彼の後ろに彼と同じ金髪のツインテール女の子が隠れていることか。


 こちらを伺うようにチラチラと彼の背に隠れながら見ている。


 ──そう、これがゼロとイルザの二人との出会いだったのです。




◾️◾️




 ふふ、お父様が言っていた婚約者は悪くないですね。ただ、彼の後ろに隠れているツインテールの子は




「その子は、ゴルザの娘のイルザさんかな?」

「あぁ、娘だ」

「そうかい。キャル、二人と遊んできなさい」

「はい、お父様」



 

 遊んであげましょう。ゼロさんは私より年上だと聞いてますが、私の方が天才ですし。


 年下だからと言ってリードをしないというのもおかしな話と言うもの。



 お父様が言っていました。上の者は下の者に施しを与えるべきであると。



 ゼロさんとイルザさんと一緒に部屋を出ました。どうやら彼の部屋に向かうようですね。イルザさんとは同級生ですが、この調子だとどう考えてもまだまだ幼く私の方が天才でしょうね。




「妹はシャイだから気にしないでくれ」

「えぇ、構いませんよ。さて、何して遊びましょうか。なんでもしてあげます」

「ふむ……」

「おにいしゃま、このひと、こわい」

「うむ、気にしないであげてくれ」

「えぇ、構いませんよ。イルザさんも一緒に遊べる簡単な遊びがいいでしょうね」

「あぁ、そうだな。それなら謎解きはどうだ。俺が問題を出すから二人で考える」

「それはいいですね。そうしましょう」

「しょれがいい! しょうしゅる!」



 どうやら舌ったらずのようですね。常に甘噛みをしているような印象です。

 イルザさんは同い年ですがお世話をしてあげないといけません



「では、問題です。春、夏、秋、冬、一年の中で一番長い季節とは?」

「はい! 全部短い!」

「イルザどうしてだ」

「おにいしゃまといっしょだと毎日楽しいから! 時間短い!」

「残念不正解」

「むむむ」




 ふむ、イルザさんは相当なブラコンなのでしょうね。さて、問題ですか。この問題は実質四択。


 昨今の季節変動の情報などもしっかりとチェックし学んでいる私からすれば造作もありません。


 しかし、引っ掛けがあり得るとすれば一年中寒く、冬のような国もあります。


 前提条件をはっきりとさせなくては



「はい」

「お、わかったか」

「いえ、その前にその季節どこの地域での長さを回答すればいいですか」

「ふむ、ならばこの国にしようか」

「ふむ、それなら秋ですね。ここ10年の四季情報を得ている私からしたらすぐに割り出せました」

「残念」

「え!?」



 そ、そんあ!? ば、バカな!? 天才である私が出し抜かれた!? いや、もしかしたら正解したのに不正解と言っている可能性もある。子供ですし



「はい! いちねん!」

「正解」

「え!? ど、どういう」



その瞬間にハッとした!!!


「では、問題です。春、夏、秋、冬、一年の中で一番長い季節とは?」



一年の中で、この文言が隠れていた。四択ではなく、五択の問題……くっ、こんなクソ問題魔法学園の入試では出ません



「わうあああ! おにいしゃま、いいこいいこして!」

「はいはい」



 くっ、頭を撫でてイチャコラと……こんな問題入試では出ませんよ



「次です、次を出してください」

「いま、きゃるが0ポイントであたしが1ポイントね!」

「くっ、ゼロさん早く次の問題出しなさい!」

「よし、ならまずカネと10回言ってくれ」

「かねかねかねかねかね!!」

「かーねかねかーね」



 私とイルザさんが互いに10回『かね』という単語を言いました。そして……


「では、家のずっと上にあるのは?」

「屋根です! はい正解ですよね?」

「あおいそら!」

「イルザの正解」

「わーい! いいこいいこしてー」



 なななな、こんな初歩的な問題に引っ掛かるとは焦っていたというのですか!? 天才の私が……


 というかいいこいいこ好き過ぎるだろ!



「じゃじゃじゃあ! 今度は私から出しましょう! 一級魔法【戦いの鼓舞】の術式の最初の文字と千十五文字目を答えてください!」

「うーん、わかんなーい。つまんないしー」




 ふふふ、流石のイルザさんもお手上げですね。やっぱり私の方が天才!!


 一級魔法なんてそもそも一般公開されてないし、私のお父様にこっそり教えてもらったんですし。


 分かったらおかしいですよ


「αと8」

「……え? あ、せ、正解です」

「おにいしゃますごーい! いいこいいこしてあげる! いいこいいこー」




 な、なんですか。しかもイルザさんは今度は兄の頭撫でてますし……な、なんですか?! この、



 ひ、人として負けた感じは……




 そう、これが人としても知識としても全部敗北感を植え付けられた瞬間でした。





◾️◾️



 夏休みが終わりついに俺は学園にやってきた。適当に授業は終わらせてお昼休み。図書室でまったりとしている。急に肩を叩かれた



「うげ」

「おい! 僕を見てうげって言うな! バカって言うぞ!」

「ご勝手に」



 第三王女ナナ様だ。関わりたくない人だ


「夏休み中に手紙送ったよね。何で無視するの。世界の秘密を明かすって約束したじゃん」

「あー、俺じゃない方がいいですって。ほら黒エンブレム、劣等生の証ですし」

「そこは王族権力でカバーするよ」

「するなよ。もっと有効的に使えよ」

「実は面白い事実が分かったんだ」

「一応聞いてあげます」

「わあー! ありがとうだぜ☆ 兄弟!」




 そういえばこの人、俺のことを兄弟とか言ってくるんだっけ。



 ぼっちなんだろうなぁ。



「代行者のことなんだけど」



 俺のことだな



「多分、相当な人格者だと思う」



 残念、ハズレ。正解はクソ厨二男でした



「代行者が祭典に現れて、準なる神を倒したんだって。代行者には僕も助けられているし、代行者は人類の味方で何かしらの大きな目的のために動いてる。そしてそれは僕達への害意がないとまで気付いたんだ!」

「深読みしすぎ」

「いやまてーい! 僕はそう思ったんだ! 正解と思われる!」

「深読みしすぎだって。てか、この件に首突っ込まない方がいいんじゃない」

「いや、こう見えて僕英雄になりたいからさ」

「どうやったら英雄になれると思うんだよ。そう言うのって恵まれてない奴がなるだろ。生まれ持っての王族って」

「たはー! それ言われちゃっう? それ言っちゃう? 気にしてたのにさ」

「……なんか、お前テンション高くね?」

「あー、夏休み一人で寂しかったからかなぁ。お父様が友達が遊びにきてるのかって僕の部屋開けたんだけど。部屋に僕しか居なくて首傾げててさ。実は独り言をずっと壁に向かってたのを」

「あぁ、分かった。お前がぼっちなのは。一人くらい相手はいなかったのか?」

「いーなーいぜ! 夏休みの宿題初日で終わったよ。ねぇ、誰も誘ってくれなくてさ、唯一手紙出したのは君なんだぜ? なーんで無視するかなぁ」

「すまんすまん。まじですまん」

「これから国王直々、至急返信求みたいな書状付け足すぞ☆」

「だから、権力ちらつかせるなよ! お前は洒落にならん! そんなんだから友達いなんじゃない?」

「……友達いないって言うな。権力出すぞ」

「これが国の闇か……。あのさぁ、もっと普通に友達作れよ。異性同士だと色々噂面倒だしさ」

「一応話できる人はいるんだよね」

「あぁ、猫かぶってるもんな」




 こいつ、俺と話すと権力ちらつかせるけど。普通の学生と話す時は大和撫子みたいに柔らかくて性格良さそうに話すんだよね。




「あぁ、ナナ様」

「あ、ルーベちゃん!」

「さっきの授業ありがとね」

「うんうん、僕達友達だもん! これからも頼ってね」

「えぇ!? で、でも王族の方に失礼じゃ」

「そんなのないよ! 貴族だろうが平民だろうが、王族だろうがそうでなかろうが心は繋がっている。間接的にはファミリーだぜ!」

「おおー! うん!」



 あれ、誰だろうこの子。別人格を見ているのだろうか。



「ふー、乗り切った」

「今のままなら、友達できると思うが」

「うーん、やっぱり素が出ちゃいそうで怖いんだよね。ほら、僕って結構歪んでるじゃん?」

「相当ね」

「おいこら、否定しろ。讃えよ。王族だぞ☆」

「ファミリーの説どこ行った?」

「結局、皆爵位とか気にしてるじゃん。綺麗事だよ」

「延々と続く貴族の闇だな」

「こう見えて王族だからね、誰よりも闇は見てる」

「唐突に深い人間性が見えてきてびっくりだな」

「でも、素で権力を堂々とちらつかせられるのは君だけだよ」

「嬉しくない。俺以外でよくない?」

「君しかいない。この気持ちを……受け取ってくれるのは」

「うぜぇ」

「おい、激カワボイスで言ったぞ! 讃えて、褒めて、敬って!」

「小さい娘にこんな権力を持たせた国王戦犯だな」

「あー! 僕のお父様の悪口言った! 聞ーちゃった! 聞ーちゃった! 国王様に言ってやろー!」

「ガキじゃん」

「あ、そういえばお父様が君に会いたいって言ってた」




 えー、国王様が俺に会いたいって……まぁ、パパンと一緒に厨二サークルをやっていた人だしな。


真神を知る七人の賢者セブンクラウンだっけ? パパンと国王様がやってたサークル名は。


 世界の真実とか、俺が最初にパパンの部屋で見た厨二ノートの原点はここだったのかもしれない。





「もしかして……結婚相手とかに推薦だったりして」

「絶対に嫌だな」

「え! おいおい、僕と結婚できたら最高だよ。可愛くて、スタイル良くて、権力もあるぜ!」

「権力はそこまで求めない、可愛い子は知り合いにいる、スタイルいいならメイドもいるからいらない」

「……そかそか」




 急に黙りこくって面倒というか情緒が安定していない。それはこいつだけに言えたことじゃないけどさ。




──そして、俺は国王様に放課後呼ばれてしまった!!!




 嘘だろ……国王様が俺を呼ぶって本当だったのかよ……あのバカ娘を色々言ってるのがバレてたらやばい!!


 普通にパパンと一緒に遊んでた人だから旧友の息子が気になったとかだったら問題ないけど



 宗教国家ラキルディス。大地神ラキルディスを祀っている国だ。


 その王族はラキルデュース家



 第三王女はナナ・ラキルデュース。



 そして、国王の名前は【ブルドロア・ラキルデュース】


 王族城の最上階で国王の椅子に太々しく座っている男だ。


 今俺の目の前にいて俺をじっと見ている。眼つきが尋常ではないほどに悪いのはパパンと似ている。いや、こーわい!


 帰りたいです



「お前がゼロ・ラグラーだな?」

「はい! 国王様! ゼロ・ラグラーと申します」

「うむ、畏まる必要もない。お前のことは聞いている」

「ははー」

「今回呼んだのは他でもない。お前、あのノートを見たか?」

「……」



 あのノートと言うのは以前ナナが持っていた世界の真実の書のことか。ナナが俺によく見せてくる厨二ノート。



「えぇ。拝見しました」

「そうか……ナナはかなり我儘でな。迷惑をかけていないか」

「クソやろ……いえ、とても良い子でございます」

「そうか。これは独り言だが……あの子には……オレのようになってほしくはない」




 は! 国王様、娘も厨二の歴史に行くのは嫌だと思っているんだな!



 嫌だよね。俺も娘が厨二病になったらさ……嫌だよ。



「分かるってばよ……国王様の気持ち」

「そうか。世界の闇だと──」

「それ以上言う必要ないですよ。分かるってばよ。国王の気持ちは。俺も同じ気持ちです」

「そうか。お前も同じ気持ちか」

「えぇ、パパンもきっと同じ気持ちを俺に持っていたはずです」

「──そうだな……ゴルザも俺と同じだったか」




 暫くすると国王はクツクツと笑い始めた。



「ククク」

「なにか??」

「いや、頭の回転が速い奴は話がスムーズで助かるなと思っただけだ。俺が何を言いたか大体理解している」

「ふふふ、いえいえ」

「……最後に少し付き合ってもらうとするか」

「え?」



 そう言うと国王は剣を二本取り出した。どうしたどうした?


 ふむ、戦いということだろうか。



 ──国王が戦いたそうにコチラを見ている



 戦いますか?

─はい

─いいえ



「戦いますか」

「手加減するな。王とは言え剣士でもある」



 戦うしかない。とは言え手加減はするさ。俺が本気出したらあんた死んでしまうぜ。



「来い。ゼロ・ラグラー」

「おす」

「っ!?」



 勝負は一瞬だった。適当に負けておこうかと思ったがこの人にはなーんかバレそうだったから勝っておいた。


 ごめんちゃい! 国王様許してちょ!



「……なるほど。道理でというわけか。ふん、ゴルザのやつ随分と化け物を育てやがって。それ故の【継承】か」

「あの」

「いや、なんでもない。見事な太刀だった」

「いえいえ」

「お前。ナナとは仲良いのか?」

「普通でしょうか」

「お前、ナナはどうだ? 婿としてお前がくるか。それとも嫁としてナナを出すか」

「え!? あー、その彼女いるんです」

「そうか。なら仕方あるまい。下がって良い」

「はい!」



 うっひゃああああああああああ!! キャルが居なかったら危なかったぜぇぇ!!!


 国王の娘とか地雷だろ。元々面倒だけど、爵位がもっと面倒だ。俺は卒業したら適当にスローライフでも良いかなと思っているんだ。


 優秀な妹と姉がいるからな!!!




「キャル〜! 愛してるぜぇ!!!」

「……はぁ。一応、ありがとうと言っておきましょう。ゼロさん」




◾️◾️



「貴方ぁ。手紙が届いたわよぉ」



 妻のエルザが私の書斎に手紙を置いて行った。この手紙は……ブルドロアか。



 嘗て学園で世界の闇と戦うことを決意をした同士だった。しかし、私達は互いに違う道を行った。



 そして、私は一人で代行者の道を選んだ。



 それから一向に接触が無かったが……このタイミングで一体何のようだ。


 とそこまで察しの悪い私ではない。



 ゼロ、代行者のことだろう。



 手紙を開いた、昔のように暗号化されて書かれていた。



『よう、久しぶりだな。お前の息子、代行者に会ったぞ。随分と頭の回転が速いそれに騎士としての実力もとてつもなく高い、わずかに交えたが見事な太刀だった。お前を超えるであろう紛れもない天才だ』



 そんなことは知っている。息子は天才だ



『年下のくせに俺に手加減をしやがった。お前以来だったよ、剣術で手加減をされたのは……』



 ふん、当然だ



『代行者。最近聞く名だと思ったがやはりお前の息子だったか。直で剣を見て確信へと変わった。昨今、名前を聞くようになった。特に祭典での一件が大きかったのだろうな』



 確かにな。だが、噂になっているのは一部。大部分では大したことない。ただの悪戯や噂に尾鰭がついているだけだと言われている。


 あれを直で見たのなら実力の高さが分かるだろうが



『ゴルザ。息子を直で見ているお前なら分かるだろうが』







『……時代が動くぞ。ここから先、確実に』









『父親同士。きっと心情は同じはずだ……子供に危ない道を歩ませたくない。自分のように危険なことをさせたくはない』



『俺も同じ気持ちだ。俺は戦いから遠ざけようとした……だが、お前は見守るのだな。自分の子を』



『柄にもなく長文となったな。代行者についてこっちでなるべく動きやすくするように働きかけよう。それでは……あぁ、最後にゼロ・ラグラーは親の【子供に危ない道を歩ませたくない】というのも理解してたぜ』






ふっ。あの子ならそうだろう。


天才だからな。


ブルドロア。お前の手紙には一つだけ間違いがある






『……時代が動くぞ。ここから先、確実に』




──違う、既にあの子は時代をその手に掴み取っている




 時代は既に動いている。そして、それは──





「ふ……情報規制のため手紙は燃やしておくか」

「あら、貴方手紙燃やしちゃったの?」

「あぁ、問題ない」

「でも、お友達からのお手紙でしょう」

「……なんかカバーある?」

「はい。これ透明カバーよ。お友達からの手紙は大事にしないと」



 まぁ、久しぶりの友人の手紙だ。しまっておくか。




 

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