第12話 神の体

『──神とは永遠の存在なり』



『老いることもなく、永遠を生き魔力を多大に持つ人間を超えた存在だ』



『悪魔とは神の眷属である。多大なる魔力の特徴を受け継ぎ、悪魔は老いることのない超常的な生物である』




考古学者兼著者、芥川龍太郎あくたがわドラゴンたろう。『世界神域書物シリーズ』第1巻『羅生門』より抜粋。




「……芥川龍太郎。何者だ」

「い、いえ、分かりません」

「ここ最近だ。この著者の本が見つかったのは」

「兄貴、こいつはもしかして我々天明界の存在に気づいていたのでは」

「だとしているなら、かなり以前からの存在になるだろう。紙の古びた具合から最近の人間ではない」

「天明界はずっと水面下で行動をすることを徹底し、目立つ行動は避けてましたぜ」

「だとしてもそれとこれとは別だ。明らかに六大神について知っているかのような記述が書かれている」



 黒衣の男が軽く芥川龍太郎の本をテーブルの上に置いた。それを見ていた子分の男は恐る恐る言葉を発する。



「こ、殺しますか?」

「もう死んでいる。その男はな。これはかなり前に書かれた紙質だ」

「そ、そうですか」

「ただ、この本の内容が世に知られるのが問題ということだ。天明界の思想についてかなり鮮明に書かれている。この本を集めるように天神人様に進言をせねばな」

「は、はい。そのように。それと例の【神覚者】の二人はどうしますか」

「あぁ、初めての【若返り】の成功者だ。厳重に確保しておけ。天神人様に差し出す。そうすれば俺は上級会員から特上会員へとなれる。そして、いずれは俺が天神人となるのだ」




 場所は変わり、宗教国家ラキルディスの王都付近。そこを二人の子供が走っていた。一人は小さな男の子、もう一人は同じくらいの年齢の女の子だ。


 二人とも8歳くらいの子供だ。大雨の中を走っている。


「走れ、シズカ!!」

「お、お兄ちゃん。あ、足が」

「ダメだ! 走るんだ! 捕まるぞ!!」

「い、痛い。足が、痛い!」

「ダメだ! それでもだ!! 止まったら捕まる!」



 走る音が聞こえないほどの大きな雨音、ずっとずっとそれが響き続けている。



 二人は走って走って走り続ける。だが、その後を黒衣の集団が追っていた。



 ここから数日後。この二人を巡り大事件が発生する。




◾️◾️



 さてさてさーて、夏休みが終わり明日から学校が始まる。夏休みの宿題もバッチリ終わっていることだし、何事もなくいつものように隠キャぼっち落ちこぼれムーブをすることが可能となる。


 卒業だけしておけばリトルシスターも騒がないし安全なのである。明日からの学校に備えて前日に学校寮へとやってきた。



「ふーんふーんふーん、グランマからアップルパイを冷凍で貰ってしまったぜ」

「あとで一緒に食べましょうね」

「おい、なんでついてきてるんだ」

「ゼロ様に下手な虫がつかないようにと奥様から言われておりますので」

「一人部屋だよ」

「添い寝係ですよ」

「あー、はいはい」



 勝手に付いてきたレイナを無視しながら自身の部屋を開けると、


「あ、久しぶり。ゼロ君」

「……あ、お前」

「ゼロ様、浮気ですか。あぁ、そうですか。今後の団長としての行動が楽しみですね。私がうっかり口を滑らせて一生人に追われる人生が楽しみですね」

「やめろ、お前はヤンデレかよ。でも残念だったな。そういう感じの人に既に昔腹刺された事あるからダメージ俺にはゼロだぞ。ゼロ・ラグラーだけにな」




 俺の部屋の中に勝手に居たのは以前闘技場で会った、ポムンと名乗る少女だった、茶髪に茶色の瞳の可愛い子である。

 俺の祖母であるグランマと知り合いの子だったと思うが……


「ごめんね。ゼロ君、その子に勘違いさせちゃったかな?」

「誰ですか? 貴方は、勝手に入られては困るんですけど不法侵入で騎士団に突き出しますよ」

「えっと……私の名前はポムンなんだ。あのね……勝手に入ったのは本当にごめんなさい」

「えぇ、何も言わなくて結構です。一目見た時から仲良くできそうにないなと思っていましたし」

「あー。もしかして、そんなに嫉妬してるのは貴方はゼロ君の奥方だからかな?」

「マイベストフレンド、ポムン様。初めまして、見る目ありますね。一目見た時から永遠の心の友、略してずっ友になれる気配はしておりました。アップルパイはいかがですか?」

「ゼロ君、変わったメイドさんに世話させてるんだね」

「おい、お前のせいで変な奴認定されてるだろ。ちょっと黙ってろ」



 ポムンと名乗る少女は少しだけ苦笑いをしているようだった。見た目は可愛い系だが感情の変化が薄い雰囲気の子だ。声音もどこかダウナー気質である。



「あの、一応俺昔から勝手に異性が部屋に居ることが多くて、刺されたりとかの習慣あったのでそんなに驚かないのですが、一応聞いておきたくて。どうしてここに?」

「なんか、ゼロ君の闇に触れちゃった気がするけど……えっと。気になったことがあって」

「監視カメラとか盗聴器とかでなければ許します」

「あ、そうなんだ。何も聞かないでおくね。実はこの人形をね」

「……あぁ、学園の入学祝いでもらった人形ですね」

「そうそう。これが珍しくてね」



  彼女が見ているのは魔法騎士育成学園に入学をした時に、革命団の部下がくれた人形だ。なんだか珍しい人形で年代物だから高いとかなんとか言ってたな。



「珍しいから勝手に入ったんですか?」

「ごめん。許してくれる、かな?」

「うーん、一応不法侵入なので……」

「そうだよね。ごめんね」

「でも、俺心優しいので」

「お、許す流れだね」

「騎士団に突き出す程度にしておきますね」

「優しくないんかーい。なんかメイドさんとそっくりだねぇ。勝手に入った私が言うことじゃないけどね」

「冗談です。今回は許します。その人形がそんなに欲しいならあげますよ」

「うーん、そう言うことじゃないんだけどね……その人形大事にしてね。今はもう誰も遊んでくれないからさ」




 感情を感じさせない彼女の顔だが妙に真面目な声音で言ってくるのが少しだけ気になった。



「用が済んだから帰ろうかな。ありがとうね。ゼロ君、ゼロ君の奥さん」

「えぇ、アップルパイ食べていってくださいよ」

「俺のアップルパイ勝手に食わせようとするなよ」

「うーん、確かにルバザのアップルパイは大好きだけど。いいの? ゼロ君のアップルパイだよね?」

「大丈夫です。心の友にそんな失礼なことはできません」

「あ、えっと、いいの?」

「……しょうがないから一切れだけなら」

「なんかごめんね。今度お礼持ってくるから」



  アップルパイを一切れ彼女にあげた。そう言えばグランマとの友達、なのか? 随分と若い見た目の女の子だけど、俺と一緒くらいではないだろうか。美魔女ってヤツかな?



「あ、美味しい」

「ポムンは歳いくつ?」

「もうゼロ君、女の子に歳を聞くのは失礼だよー」

「あ、そうなんですか。でも、会話の内容合わせたりするのに年齢ってすごく大事な要素だと思いまして。何歳なんですか?」

「あ、全然引かないよこの子、ルバザそっくり」

「それで」

「あ、うん。一応、産まれてからだと50とかになるのかな?」

「随分、若いような気がするけど」

「あー、よく寝てるからかな」

「へぇ。知り合いの吸血鬼も200歳で若いからそれと一緒か」

「え? 吸血鬼の知り合い居るの?」

「最近まで封印されてたらしいから、ほぼ寝てた人だな」

「変わった知り合いが多いのもルバザそっくりだね。まぁいいか。アップルパイごちそうさま」

「はいどうも」

「それじゃあね。今度お礼持ってくるよ」

「どうも」




 ポムンか、変わった人だな。年齢は間違いなく16歳くらいだけど実年齢は50歳か。美魔女ってレベルじゃないからロリババアと言う概念なのかもしれない。



「あーあ、ポムン様帰っちゃった」

「お前も帰れ」

「はいはい、私も帰りますよ」

「はぁ」



 思わずため息が出るぜ。ちょっと外の空気でも吸って気分転換でもしようじゃないかぁー



 辺りは既に暗くなってきている。あーあ、明日から学校と思うと少しだけ憂鬱だぜ。今日もこんなに疲れたし、またあの第三王女の世話をしないといけないのかな。夏休みの手紙何通も送られてきたけど無視してたから怒ってそうだな。



「アメンボ赤いなあいうえおー」

「にゃ」

「お、レイにゃ。お前夏休み中どこいたんだよ。ずっと探したのに」

「にゃー」

「おうおう肩に乗るか」



 レイにゃを肩に乗せて道を歩く。王都の平民や俺と同じような貴族の生徒が沢山歩いている。



「夕飯どっかで食べてこようかな。貯金したいけど明日から学校だし元気を沢山……ん?」



 路地裏に子供が二人倒れている。一人は男の子でもう一人は女の子だ。見逃してもいいんだけど……あぁもうねぇ



「おーい、君達大丈夫かい?」

「……」「……」

「二人揃って返事なしか」

「う……」

「あ、男の子の方が目を覚ました。おーい、君こんなとこで寝たら風邪引くぜ」

「っ! 来るな!!」

「おっと」


 男の子が殴ってきたので手のひらで止めた。



「っ!! お、お前、な、何者だ!」

「魔法学園の生徒ですが。倒れていたので声をかけました」

「そ、そうか。あ! 妹は!?」

「そっちに居る子かい」

「あ、シズカ! シズカ!」

「お、お兄ちゃん」

「よ、良かった」



 ふむどうやら兄妹のようだな。酷い怪我をしている訳ではないけど疲れているんだろう。



「騎士団に介抱して貰った方がいいぜ」

「き、騎士団は……ダメだ」

「え? なんで」

「だ、ダメなのはダメなんだよ」

「じゃ、どうするよ」

「……ひ、一晩だけ泊めてくれ。俺と大事な妹だ」

「うーん」

「一晩だけだ。か、金はないけどいずれ払う」

「うーん……まぁいいよ」



 まぁ、既に一人勝手に入ってたし二人増えた所で変わらないか。



「か、顔を見られたくないんだ。なにか無いか?」

「あ、あの、お兄ちゃん」

「大丈夫だ。お兄ちゃんに任せておけ」



 顔を見られたく無いか、犯罪者なのだろうか。うーん、どうだろうか。考えても分からないし取り敢えず考えるのはやめよう。見た感じかなり怯えているから害を与えてくる様子はない。


「うーん、この片目欠けている仮面と、神父の服とかでいいか?」

「……な、なんでこんなの持ってるんだ」

「貴族の嗜みだよ(適当)」

「そうなのか。なら、借りる」



 妹の方に仮面を被らせて、お兄ちゃんは神父の服をローブのように被った。


「じゃ、取り敢えず俺の部屋に案内するから」

「頼む」

「あ、ありがとう」



 兄と妹はお礼をきっちり言える子のようだ。その子達は俺の部屋に入れておいた。


「あ、夕飯どうしよう」

「俺、何もいらない」

「わ、私も」

「あ、そう。じゃ俺は外で食べてくるわ……食べたかったらアップルパイ食べていいぞ。それもう直ぐ賞味期限きれるから。食べきれなくて困ってたんだ」




 それだけ言って部屋を出た。一体全体、あの二人はなんなのだろうか。まぁ、一晩だけだしこれ以上は考える必要はないんだけどさ



「にゃー」

「レイにゃはどう思う、あの二人」

「にゃにゃ!」

「なるほど。あぁ、俺も地獄から訪れし天使と悪魔の生まれ変わりだ思ってたぜ」

「にゃー」



 猫に話が通じるはずもない。腹減ったし適当にどっかで食べてくるか。


「夕飯どこで食べようかな……」

「おい」

「ん?」



 気づいたら後ろに黒服の男が立っていた。しかも二人。一人は目つきが怖くてヤクザみたいだ。もう一人はサングラスみたいなのをしている


「はい?」

「お前、学生か」

「はい」

「そうか。ここでこんな二人を見なかったか?」



 写真、いや絵画か。恐らく二人組のリーダーみたいな人が差し出したのは妙にリアルに描かれた二人組の子供だ。


 あ、さっきの二人、兄妹じゃないか。もしかしてご子孫なのだろうか。いやでも似てないしな


 でも、顔が似てないから違うって判断は失礼だろうか。俺は今後は真っ当に生きると決めたばかりだ。偏見は良くない


「しゃー!」


 レイにゃはなんだか鳴いている。


「おい、どうなんだ! 知ってんのか!」

「いえ、分かりません。あのその二人がどうかしたんですか?」

「あ、てめぇに関係ないだろ」

「おいやめろ。下手な騒ぎ起こすな」

「うす、兄貴」



 なんだこいつら。変な奴らだな



「あぁ、家族みたいなもんだ。それで本当にこの二人に見覚えはないんだな?」



 兄貴と言われていたリーダーが俺を覗き込んできた。うわ、眼がやばい、これはわかるちょっとやばい系の人だ。


 あ、でも、見た目で判断は良くない。俺は真っ当に生きると決めた



「はい、分かりません。ごめんなさい」

「そうか……おい、次行くぞ」

「うす、兄貴」



 どう考えてもやばい事件の匂いがぷんぷんするぜ。でも関わりたくないぜ! あーでも、一応あの二人追っておくか。子供二人の情報わかるかもしれないし


 気配を消すのは得意中の得意だ。昔怪盗をしていたからねぇ? ママンの【超絶怪盗の絶技シリーズ】と言うノートには気配断絶も書かれていたぜ!



「さてさーて。どんな関係なのかな」



 二人組は路地裏に入っていった。



「兄貴、あの二人どこにいますかね」

「焦るな。そう簡単に遠くには行けねぇ」

「うす」

「ククク、あの二人は俺達から逃げられねぇよ」

「流石です兄貴」

「ククク、楽しみだぜ。あの二人の体はよ。最高の体だからな」



──こいつら、ロリコンじゃねぇか!!!!



 うーわ、どうりでやばいと思ったよ。なんかもう見た目から怪しそうだったし!! でも俺偉いよな? 見た目でずっと判断しないでちゃんと会話してたし。


 うーわ……あ、でも、これだけでロリコンと判断するのも失礼かな



「絶対にあの二人は俺達から逃げられねぇ。探せ」

「うす、兄貴。へへへ、あの二人の体手に入れたら最高っすね」

「ククク、ありゃ神の体だからな」



 あ、お巡りさんこいつです。こいつら倒して騎士団に突き出した方がいいかな



「兄貴、でも、あの二人に騎士団を頼られたらやばいんじゃ」



 確かに、そうなったらどうするんすか? 兄貴



「ククク、安心しろ。騎士団にも俺達の仲間がいる」

「流石っす兄貴。どこにも隙がねぇ」



 マジっすか兄貴! 変態すぎるぜ!! あ、あの二人が騎士団で介抱を避けていたのはこう言うことか!! ロリコンが入り込んでいるからだろうか!!


 どんだけあの二人に執着してるんだよ、兄貴


 ってか、この二人以外にも仲間いるのか。異世界ってこんなロリコン集団いるのか。やばいぜ。


 騎士団にもロリコンか。これが法で捌けない悪というやつか……。暫くあの二人匿ってあげよう。


 

 汚れてたし、暖かい湿ったタオルとご飯用意してあげよう。一晩泊めたら面倒ごとに関わりたくないからスルーしようとしたけど、流石に介抱してあげよう。



「レイにゃもロリコン達にあの二人渡したらやばいと思うよな」

「勿論です」

「え? しゃべった!?」

「にゃー」

「気のせいか。でも、幻聴が聞こえるくらいロリコン組織を潰しておきたいと思っているんだろうな。うん、確かめて潰そう。革命団使うと余計にややこしくなりそうだし、俺が潰そう」




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