第11話 さらば祖父の家。また会う日まで

 アップルパイ最高! アップルパイ最高! お前もアップルパイ最高と叫びなさい!!


 などと考えながら俺はお風呂に入っていた。祖父グランパの家には大きな浴場が置いてある。流石は名門家のラグラー貴族様とでも言っておこうか。



「ゼロ様」

「うん?」



 湯船に浸かっているとレイナは背を預けてきた。バスタオルを巻いているので裸体が見えているわけではない。


 顔には何も巻いていないのでよく見える。しかし、綺麗な顔なのだが少しだけ悲しそうだった。



「俺がアップルパイ食べ過ぎたから怒ってるのか?」

「いえ」

「なら、太ったなお前って言ったことか?」

「それもあります……でも、違くて」

「ふむ」

「あの闘技場に居た悪魔が怖くて、嫌な思い出が蘇りました」

「……あ、話してた悪魔ね。それが怖かったのか」

「えぇ……ゼロ様、私も偶には甘えたいんですよ。怖い事とか沢山あるんです」

「へぇ」



 ずっと寄りかかってレイナはジッとしている。



「大丈夫では。あの程度は大した事ないし。なんかあったら俺が倒しておくよ」

「偶にかっこいいこと言いますよね」

「8割カッコいいだろ」

「それはちょっと」

「俺が倒すって言ったんだからそれでいいだろ」

「ふふ、確かに。あの悪魔は強かったですか」

「弱い」

「即答とはびびりますよ」



 チラリと見るとレイナは何やらニヤニヤしていた。一体全体何が言いたいのだろうか。


「ふふふ、さては私の美しさに見惚れてましたね」

「……美しいとは思うが見惚れてはない」

「ふふ、嘘が下手ですね。まぁ、童貞のゼロ様には刺激強いでしょうからしょうがないと言えばしょうがないですよ。女神に見惚れてしまうのもねぇ」

「……俺童貞じゃないけど」

「うぇ!?」

「あー、体は童貞だけど。魂は違う」

「何意味わからないこと言ってるんです?」

「前世の話だからさ」

「……は? ぜ、前世?」

「一回死んだことあってさ」

「そ、それで転生したって?」

「そそ」




 ざっくりと日本についての説明をしておいた。レイナは興味深そうな顔をしていた。そして話題は再び恋愛の話に戻る。



「えっと、ゼロ様は何人くらい、そのその、あれは、あの経験あるんですか?」

「うーん、分からん。少し色々あって包丁で刺されたり、睡眠薬と痺れ薬でとかあり過ぎて」

「……に、日本の人って皆そんな風な恋愛を?」

「流石にそれはないと思うが」

「へ、へぇ。日本人ってどれくらいの強さを持っているんですか? ゼロ様とどっちが強いですか?」

「あー、今は俺の方が強いけど。昔はそんなに変わらないな。俺もその他大勢のぼっちだった。飛び抜けた強さはなかった」

「え? 日本人ヤバい集団じゃないですか。過去とは言えゼロ様が飛び抜けてないなんて。魔境ですね。日本はどんな国でした?」

「こことは全く違う発展をしてた。魔法とかはなかったが代わりに科学があったな」

「へぇ、神様とかは居ましたか?」

「信仰してる人は居たよ。宗教とかも沢山あったけど、誰一人として神様を見たことのある人はいなかったさ」



 そう、神様を信仰している人は日本にも沢山いたが誰も見たことある人はない。こっちの異世界でも見たことのある人が居ない。



「神様。ゼロ様は信じてませんもんね」

「神様って言うんだから人間よりも上位存在じゃないとさ。そうじゃないとそれは神とは言わないと思う」

「まぁ、一理ありますね」

「あぁ、良いこと思いついた。レイナはずっと神様を信じているだろ。これから俺より強い存在を神様って事で定義つけようか」

「無茶言うな。最悪なこと思い付かないでください。はぁ、まぁ良いですよ。そうだ、ゼロ様背中洗ってあげます」

「よろしく」

「なんなら、下半身も洗ってあげましょうか?」

「頼むわ。一度言ったんだから命かけろよ」

「こ、怖い! え、ええ!? あ、あの」

「ふっ、そいつは脅しの道具になんてなりゃしないのさ。分かったらさっさと背中を洗え、このメイド」

「くっ、これで勝ったと思うな!」





 そして、風呂から上がりグランパの家の俺の部屋に戻った。ついでにレイナも付いてきている。




「夏休みの宿題も終わったし、無事帰れそうだ」

「充実してましたね。アップルパイ食べれましたし」

「ゼロ。少し良いかの?」




 部屋をノックする音が聞こえて、グランパの声が聞こえた。部屋に通すと真面目そうな顔して彼は入ってきた。一体全体何があったのだろうか。




「ふむ、ゼロよ。これから話すことは少しばかり重い話になるかもしれん。すまんがレイナよ。外してもらえるかの」

「いえ、何の話かわかっています……六大神のことですね」

「なんと! 知っておったか!」

「はい。実は……私とゼロ様は六大神との戦いに勤しんでいるのです」

「なんと、レイナも一緒に戦っておったか!」

「はい。日々、戦っております」

「ふむ……そうか。ゼロよ。これからお主には辛い戦いが待っているが覚悟はあるのか」

「勿論でございます。ゼロ様が覚悟のないことなどあろうはずがありません。メイドである私が保証します」

「ふむ、ゼロよ。お前は天才だ。儂も昔は才に溺れたことがあったがお主ならそうはならんと思うがやれるな」

「ゼロ様は天才の中の天才。天才の上澄のお方、自惚れることなどあろうはずはないでしょう」

「うむ、ゼロよ。仲間を大切にし、真実の先に行きつき、この世界を六大神の魔の手から救い、欲に乱れた人を滅ぼし、伝説となる覚悟は……あるのか?」

「ゼロ様なら言うまでもないでしょう。あるに決まっております。既に仲間は200人を超え真実には辿り着いております。ゼロ様は未来を常に的確に見抜くお方」

「そこまでメイドに言わせるとはの」

「ゼロ様ならば当然です」

「うむ。ならばゼロよ──」

「──ゼロ様ならその程度」



……


……


……



「そうか。ならばゼロよ──」

「──ゼロ様ならその程度、朝飯前」




……


……


……




「うむ。ならばゼロよ──」

「──ゼロ様ならその晩飯の前にちょちょいのちょい」






 ──いや、俺何も言ってないやん(半ギレ)






 めちゃくちゃ勝手に話進めてるじゃん。え? グランパって厨二病まだ卒業してなかったの?



 おいレイナ、お前どんだけ勝手に返答してるんだ? 



 あのね、神様なんて居ないんだよ。俺より強い奴もいないし。俺はこの目で神を見たことないし、神を見た人も誰一人としていないの!!!!



 もうね、マジで良い加減してほしい。俺もさ少しくらい信じてるくらいならそんなに強く言わないよ。日本なら俺も初詣とか入ってたからさ。


 でもこの世界の人って、ガチで信じててさ。神の復活とか神の力を我がものにするとかで違法実験とか不法行為しまくってるじゃん? 常識ってないのかな。グランパ、あんたは少しパパンを見習った方がいいぜ。


 あの人、厨二病は既に卒業してるしさ。




「ゼロよ……頼むぞ。この世界を」

「……あ、はい。あ、勿論」



 そんなキラキラした中学2年生みたいな眼を向けられたら了承するしかないだろ。でも、俺も人のことって言えないからな。昔は厨二病で好き勝手異世界で暴れたらから。


 因果応報、自業自得なのかもなぁ




「ではゼロよ。今日はよく休むといい」

「あ、はい」

「代行者としての活躍を期待しておるぞ」



 代行者であるのもバレてるのか……。



 もう、引くに引けないだろ!!!



「ふっ、当然だ」

「ほほ、それでこそ自慢の孫じゃ」




 どこにこんな孫自慢するんだよ。自虐好きじゃないけどさ。はぁーーーー(クソデカため息)



「ゼロ様?」

「お前、何乗ってるんだよ」

「ゼロ様がボロ出ないようにフォローしてたんじゃないですか」

「勝手に好き勝手言ってたろ」

「どうせバレてましたよ」

「お前さ……フォローするとか言って俺を絶対に団長と代行者から辞めさせないようしてないか?」

「そそそそそ、そんな、そんな訳ないでしょ! 言いがかりですよ!」

「おい! なんだそのテンプレな分かりやすい反応は!!」

「うへぇ、ほ、ほっぺたつねらないで!」

「はぁ……まぁいいわ。疲れたら今日は寝る」

「ふふふ、添い寝は任せてください」

「そうは行かないわ! この淫乱メイド!」

「そ、その声は」



 急にドアがばあんッと勢いよく開いた。おい、ノックしろよ。



「アタシを差し置いて、お兄様の隣を陣取るなんてなんて奴なのかしら。お兄様はね、可愛い妹であるアタシが居ないと寝れないの!」

「さっき怖い話の本読んでたから、寝る瞬間に怖くなって一人で眠れなくなったんだろう」

「お、お兄様! 適当なこと言うと魔法放つわよ!」

「分かったから寝させてくれ、もう疲れた」




 本当に疲れた。そして、俺は益々……引けないのだ。まさか、こんなことになるなんて思わなかったんだ。



全てはあのお方の思し召すままに……と言いまくってたら引くに引けなくなった



 こ、こんな事になるなんて。まぁ、大丈夫だ。これから少しずつ真っ当な道を歩んでいけば問題はないのだ。人間誰しも間違う時がある。


 でも、そこからなんだ。少しずつ


 一歩ずつ、間違いから正解に進んでいく。それが人生なんだ。



「すぴー、すぴー、ふぇぇ、お兄様、筋肉、マッソー」




 変わった寝言を言っているリトルシスターはさておいて、俺は今後は真っ当に生きることを改めて心に決めたんだ。



「ゼロ様」

「なんだ?」

「ありがとう」

「……なにが」

「いえいえ、色々です」

「ふーん、まぁ、どういたしまして。でもあれだからな。これ以上厄介ごと増やすなよ」

「増やしませんよ。出来るメイドですから」

「そうは見えんが」

「とやかく言いますが元はと言えば悪いのはゼロ様ですよ。代行者ロールプレイとか意味わからないことしているからそうなるんです」

「何も言えなくなるからそのカード禁止な」

「いえ、言い続けます」

「勝手にしろよ、でも、俺はこっから真っ当に生きるって決めてるから。まっすぐ自分の言葉は曲げねぇ」

「ほぇ、流石ゼロ様。カッコいいセリフです。全部終わったら結婚でもしますか?」

「さぁね」

「それがいいのでしましょうよ」

「やだね」

「む……まぁいいですよ。ゼロ様ならいずれ……きっと世界を」

「世界とかどうでもいいわ。普通に生きるしさ。代行者も団長も怪盗とかもう飽きたよ」

「そうですか…………ん? 怪盗?」

「ん? なに」

「一応聞いておきますが……怪盗とかしてました?」

「前に少しな。でもあれだぞ代行者の方がカッコよかったと当時思ってたからあんまりしてないぞ」

「……なんで怪盗とかしてたんですか」

「ママンの部屋に怪盗グッズが色々おいてあったから」

「……」

「あの人マニアなんだよ。怪盗とかね。あと伝説の書物とか昔書いてたわ。知ってる? 紅茶を新品の紙に垂らして火で炙ると古臭い年代物みたいに見えるんだぜ。加工した本とか色々ある」

「……そんなことばっかりしてるから、引くに引けなくなるですよ。お馬鹿さん」

「あ? こら? 喧嘩売ってる?」

「買いますよ」





 まぁ、今日はとりあえず寝よう。これ以上こいつに付き合うのは面倒だしな。

 





 

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