第10話 最強団長マジバリやばい

「神への信仰が足りない。大地神を復活させるには」

「予言ではあと少しだとか」

「うむ」

「人々の信仰を高めねば」



 広いとある会議室、六人の人間が机を囲い会議を行なっている。彼らは神源教団しんげんきょうだん。神を信仰し、その信仰心により神をこの世に甦らせる者達。


 天明界は神の力を我が物にしようとする存在。彼等は神の純粋な復活を望んでいる者達。



「天明界も好き勝手に動いている。あやつらは神への冒涜者だ」

「我々は動くしかあるまい。再び、この世に信仰の心を」

「しかし、神々の復活は近い。あと少しあと少しの信仰心なのだ」

「ならば、あの催しを利用するしかあるまい」

「武闘会か。して? その作戦とは」

「……武闘会に二人我々の剣士を送り込む。大地神の加護を受けたとする剣士だ。そして、その会場に神の【眷属様】を送り、観客を襲わせる。それを剣士に討伐させるのだ」

「なるほど。それにて会場の人間の心に信仰心を植え付け、高めさせる。神の化身が災いを討伐したと」

「優勝と準優勝を強奪してからが理想ですな。大地神の力を存分に受け継いでいる剣士、我らが同志。その優勝の後に眷属様を送る」

「会場の人間は数人殺してもかまわんでしょう。その方が大事を解決したと認識する」



 こつこつと机を指先で叩きながら、軽快なリズムで会話を弾ませていく六人。


「代行者……それはどうされますか? 介入が予想されますが」

「あいつは放っておけ。所詮ただの愚神を信仰する愚かな信徒よ」

「えぇ、20年前に活動を断念したのが良い証拠、本質は臆病なのでしょう」

「純粋な神を信仰する我々の敵ではあるまい」

「さよう。放っておけ。もし出てきたとしても、眷属様に潰させる」



 ◾️◾️


グランパの家に来て数日が経過した。その間に夏休みの宿題はバッチリ終えることができたのです。


「ゼロよ。今日は近くで戦士武闘会があるから儂と一緒に観に行こうじゃないか」

「うんいいよ」

「アタシも行く!」



 グランパと俺、リトルシスター、レイナ、パパンもママンもグランマも皆一緒に武闘会に行くことになった。



「お兄様、参加したらどうかしら? お兄様は魔力ゼロだしこういうところで実績を作っておいた方がいいわ」

「え?」

「魔法学園での評価のためよ! 出ておいて損はないわ! 少しでも勝ち上がったらアタシが頑張ったって言えばいいし」

「えぇ」

「出なさい、お兄様の為よ」

「厳しい」



 

 しょうがないので出ることになった。魔力は使用不可なのはいつものことだけどね。


 武闘会の会場にて受付も行われているのでそこに並んだ。他にも屈強な戦士達がエントリーをしている。



「ちーす、団長」

「ロッテか」

「団長も来たってことは、あーしと同じてきな?」

「あぁ」

神源教団しんげんきょうだんが主催の武闘会だし。何かあるとは思ってたけど団長もおそろね」

「……ふ」


 全然知らん。


「ひゅー、団長やるぅ」

「ところでロッテ。神源教団しんげんきょうだんについて説明せよ。分かりやすいようにな。言語化のテストだな」

「あーしからしたら超余裕。六大神を強く信仰する存在。天明界との違いはあいつらは神の力を自身のものにしようとしてる。教団は神の復活を純粋にしようとしている狂信者が多い」

「ふむ百点だ。花丸あげよう」

「ま、別に嬉しかないけど、あざーす」



 見た目は如何にも生意気なヤンキー少女である。髪は紅でブリーチみたいに黄色も一部入っている。眼は左右で色が違う青と赤、オッドアイ。


 格好も制服に酷似したのを着ている。着崩してて若干不良っぽい。しかし、めっちゃ性格は真面目なのである。あとついでだがエルフという耳が尖って魔法が得意な種族でもある。あるあるファンタジーエルフギャルみたいな女の子である。



「団長って、学園でテスト通過したんだってね、おめ」

「おめでとうと言いたいのね」

「これ、ガチプレ」

「ガチのプレゼントの意味ね」

「そそ」



 プレゼントの中を開けたら香水だった。あら、すごいオシャレ。



「じゃ、戦う相手だったら手抜いてね。あーし死んじゃうから」

「はいはい」

「あ、この間弟に魔法教えてくれてさんきゅ。めっちゃ喜んでた」

「あいあい」

「今度お礼するから予定あけといてね」




 そして、武闘会が始まった。一回戦はロッテが戦っている。エルフだから魔法が得意だけど、近接も得意なんだよね。俺が以前教えてあげたからな。



「まぁ、あーしなら余裕っしょ」

「嬢ちゃん。さっさと負けを認めた方がいいぜ」

「あーし、ものすげぇ強いよ。あーしの師匠は天才の中の天才、完全無欠の魔力野郎のジーニアスだから、すげぇ、ものすげぇから」

「あ?」

「だから、あーしは絶対勝つってこと。勝利の方程式は決まってっから。これあーしが勝ったら焼肉もらったわ」



 あ、昔俺が教えた決め台詞も完璧に覚えてるんだな。ちょっと嬉しいな。ただ外から見ると少し痛々しいのが傷だな。



「魔力練り上げ……」

「ガキが!!」

「……純粋なパンチライトニングウルトラゴールデンスマッシュ

「あは!?」

「ネーミングセンスも活かすわ、師匠」



 ロッテの純粋な魔力パンチで一発KOだった。勝ったらロッテは席に座っている俺にウインクしてきた。


「あいつ、お兄様に色目使ってるわ」

「ほう、あの少女やるな」

「えぇ、ゼロちゃんに気があるみたいだし。お嫁さんにどうかしら?」

「お母様完璧なメイドがここにおります」


 リトルシスターがイライラしているようだった。パパンとかママンとかはロッテの戦いぶりが見事で誉めていた。


 次戦うのは俺みたいだ。



「次は魔法騎士育成学園の生徒ゼロ・ラグラー。そして、神源教団、【神覚者】ベゼブ・ストルドーム」



◾️◾️




「お兄様、大丈夫かしら」

「余裕っしょ」

「あ、アンタ」

「ども、妹ちゃん」

「アンタ、お兄様の知り合いなの?」

「まぁ、それと一緒」


 イルザ、その隣にレイナ更に隣にロッテは座った。


 ロッテはジッと大司教ベゼブ・ストルドームの様子を伺っていた。剣士としてはレベルが非常に高い存在である。



(まぁ、団長が負けるはずないけど。ゼロ・ラグラーとしては適当に戦うんだろうな)


 その存在と自らの主人である団長が剣を交えている。ゼロと相対する剣士は腕は見事だが眼がどこか虚となっている。ゼロは魔力が使えない。だとしても未だ負けていない、長く戦い追い込まれているように見せている。




(相変わらず、剣のセンスうっま)



(あの剣士、様子おかしいな。まぁ、あれが【神覚者】。信仰心を強制的に植え付け悪魔による細胞を入れることで神の力を再現した戦士。そもそもこの大会自体が【神覚者】を活躍させて、大地神の信仰を高める為の催しだからね)



(レイナも居るし、団長も気づいて参加してるんだろうなぁ)


「レイナっち。あの剣士どう?」

「……えぇ、この感覚懐かしいです」

「懐かしい?」

「あの剣士、意志が乗っ取られてます。しかも大分人間としての部分が消えてしまっています」

「……確かに様子変だけど……あ、団長降参した」

「えぇ」

「大分、手抜いてた。実力出すわけにはいかないだろうけど。まぁ、あーしが優勝したら全部終了っしょ」

「それに期待してます」



 そして、二回戦となりロッテと神源教団しんげんきょうだん大司教ベゼブ・ストルドーム。事実上の決勝戦が始まった。





◾️◾️



 ふむ、一回戦で負けてしまった。あれ以上やってたら下手な目立ち方をしちゃうだろうし。魔力無しなのに勝ったら不自然だしね

 

 でも、一回戦で負けたらリトルシスターに怒られちゃうだろうな。熱りが冷めるまで適当に時間潰さないといけない。


 武闘会の会場は闘技場のような造形となっている。そこを出て少し離れた場所で歩き回っていた。



「もし、そこのお方」

「え?」

「えぇ、貴方です」

「あ、どうも」

「どうも。先程の剣舞、凄かったです」

「あ、あぁ、どうも」

「負けてしまいましたが、わたしの目には貴方に軍配が上がっているように見えました」

「あ、ど、どうも」



 誰だこの人……。いや、どっかで見たことがある。誰だっけなこの人。茶髪に茶色の瞳の女の子。見覚えがすごくある。



「敬語じゃなくてもいいかな?」

「砕けた感じでどうぞ」

「ならそちらもどうぞ。わたしの名前は……ポムン」

「ゼロだ」

「ふーん、いい名前だね」

「どうも」

「ねぇ、ルバザは貴方のおばあちゃん?」

「よくご存知で」

「だよね、似てるもん」

「どうも」

「……ねぇ、家族と来てるの?」

「はい」

「なら、逃げた方がいいよ」

「なんで?」

「暫くしたら悪魔がやってくる」

「やべぇじゃん」

「うん。だから、逃げてほしいなって」

「それ本当?」

「うん」

「嘘じゃない?」

「嘘だったらゼロ君の恋人になるね」

「じゃあ、やばいな」

「逃げてほしいけど、会場の人も危ないだろうし。……君ならなんとかできそうだね」

「あ、そう?」

「うん、すごく強いんでしょ?」

「え、そう思う?」

「うん。正直、ぱっと見したら強さわからないけど。でもねルバザがよく言ってたよ。孫は天才だって」

「もしかして、俺の祖母の知り合い?」

「うーん、友達かな。昔はよく遊んでたんだけどね……」



 そのポムンと名乗る人は大人しそうな雰囲気の人だ。今にも消えそうなくらいな白い肌が不思議な女性。




「悪魔なんだけどね、この闘技場の地下にいるんだ」

「へぇ」

「案内するから、退治してくれたら嬉しいな」

「俺でできるかな」

「出来るよ。君、自信持ってそうだもん。焦ってもないしさ」




 ふむ、この様子だともしかして実力バレてるのかな。面倒だなぁ。団長引退後はスローライフ計画があるから下手にバレてると本当に面倒臭い。



「大丈夫、誰にも言わないから」

「そうですか」

「その代わり、ね? お願い」

「……まぁ、悪魔くらいなら」

「ありがと。ゼロ君、かっこいいよ」

「そんな感情感じさせない瞳で言われても」

「あーごめんね。おとなしい性格だから。取り敢えず付いてきてくれる?」

「わかった」

「これ上手く行ったらジュース奢るね」





 ポムンと名乗る女性は歩いてどこかに進み始めた。こんな手間をかけるのは性分ではないが悪魔が出てくるとなると少し話が変わる。グランマがアップルパイを後で作ってくれると約束しているのだ。

 

 アップルパイは大好物なので美味しく食べたい。悪魔で被害とか出た後に食べると美味さ半減だよ。


「闘技場にこんな地下室があるんだ」

「そうだよ。ゼロ君こっち」

「はいはい」



 一緒に歩いていると門番と思われる二人組が扉の前で談笑をしている。


「この大会が終わると悪魔を放つらしいぜ。大地神の加護を高めるための儀式だな」

「しかし、あの女妙に強いな。ブロウ様は勝てるだろうか」

「勝てなくても、憤怒の眷属様が」



 あら、本当に会場を襲うらしい。



「本当にピンチだね」

「こんな地下にやばい奴が」

「うん、あれは神源教団だね」

「……神様を甦らせるとか言ってる」

「うん。純粋に狂ってる人達だよ」

「神様とかずっと信じているのはやばいよな」

「神様は信じてないんだね」

「見たことないしさ。取り敢えず、ちょっと待ってて」



 すっと、移動して恐ろしく速い手刀で二人を気絶させておいた。


「うわ、すっごく速い」

「俺でなきゃ見逃しちゃうレベルだろ?」

「うーん、何言ってるか分からないけど。凄いのはわかったよ」


 淡々と歩き続けていると、他にも監視者とかが居たのでそれも気絶をさせておいた。


「神様を信じてる人達はこんな居るのか」

「ゼロ君。神様は信じてない?」

「うーん、俺は基本的に自分で見たりして評価するから。今まで生きてきて神様を見たことがないしさ」

「ふーん。確かにわたしも見たことないな。信じてる人はたくさん居たけど」

「俺もだな。多分迷信なんだろうさ。でも自称神様のメイドは居る」

「へぇ、自称神様なんだ」

「まぁ、神様じゃないけどね」

「意外と本当に神様かもよ」

「神様って言うくらいだから人間より強くて凄い存在だろ。俺より強そうではないから」

「あぁねぇ。じゃ、君より強くて凄い存在がいたら神様って思うんだ」

「言い得て妙だね。確かにそうかもしれない」

「ふーん。神様……大地神は隕石を作って落とせるらしいよ」

「そんなの俺だって出来るよ。七ついっぺんに作ってお手玉みたいにできるさ」

「……大地神は地震とかもできるって」

「それなら俺も生まれて半年でできたよ」

「……えっとね、海王神ってのがいてね。海を二つに割ったんだって」

「うーん、それくらいで神様って言えるのかな?」

「……なんかこれ以上ゼロ君と話しても不毛な会話になりそうだからやめておくね」

「うん。結局神様なんて、居ないんだよ。居る存在と居ない存在ははっきり分別をつけるのが大人なんだ」




 地下室を歩き続けていると牢獄のような場所に大量の悪魔を発見した。その数は余裕で百を超えている。



「じゃ、さっさと倒しておきますか」

「うん、よろしくね。ありがとうゼロ君、超かっこいいよ」

「ふふ、まぁね」

「あ、君が意外とちょろい人なのはわかったよ」





◾️◾️




「どういうことだ。あの女が決勝戦に残っているではないか」

「決勝は大地神の加護を持った同士に争わせる手筈。それを戦わせることで決勝の舞台にて大きく大地神の力を宣伝する策略が狂った」

「だが、あの女は途轍もなく強い。どこにあんな存在が……」

「魔力制御のレベルが高い。魔法は使用していないのにあそこまでの戦闘力を持つとは【神覚者】ではないのか」

「天明界の者か」

「今は互いに不可侵のはずでは」

「あんな奴らに約束など通用するはずもありますまい。しかし、もう一人の神覚者にもあの女に勝てるかどうか」

「この大会そのものが無駄にするのは……」

「このままあの女に優勝を持って行かれてたまるか! 信仰心は年々人々から薄れつつある。しかし、人口が増えたことでかろうじて大地神の力の総量は変わらんのだ。ここで加護を持つものが優勝できないとなれば、それは大問題だ!!」

「ふむ、今回の大会は広く知られています。大地神の力を宣伝する為にと思い広報に力を入れたのですが」

「──それなら僕が出ましょうか」



 スッと話に割り込み、気づいたら六人が話し合う机の上に少年が乗っていた。白い肌、額には宝石が乗っている。



「け、眷属様」

「憤怒のアシッド様……」

「いつも信仰ありがとう人間の諸君。さて、話は戻すがあれは相当の実力だ。僕が出ようじゃないか。決勝の前に僕が入り、あの女を倒す。その後、もう一人の神覚者が僕を倒す。勿論僕が倒される時は演技さ。これら全てをあの会場にて行う。どう?」

「あ、アシッド様ならば倒せるのですか?」

「当然でしょう。僕は……大地神の力に最も近い眷属なのだから。あと会場には結界魔法を構築し逃げられないようにしてくれよ。さらにこれを大きく金をかけて宣伝すること。わかった?」

「は、はい」

「オーケー。なら、さっさと終わらせようか」



 六人の男達を抜けて、悪魔の少年は一人闘技場の選手控え室に向かった。もう直ぐ決勝戦であり既に負けた選手は退場しているので誰もいない。



「……役立たずどもが。神覚者も随分と程度が低い。他にも必要だね。ねぇ? 大地神様……?」

『……ふ、ふっかつ、のとき、は、ち、ちかい』

「わかってますよ。信仰は大地にあり、ってね」




 ニタニタと少年の悪魔は笑っていた。その悪魔は闘技場に向かって歩き続ける。そこには既にロッテが決勝で戦う為に待っていた。



「あ……? 何この感じ? まぁまぁの魔力持ってる奴あーしの前に来た感じ?」

「まぁねぇ、そういう感じかもねぇ。魔法結界発動」

「そうだろ? まぁ、殺すから予想とかねぇ?」



 突如として闘技場を結界が覆ってしまった。闘技場内に在留していた観客を閉じ込め、恐怖を植え付ける。



「な、なんだこれは!?」

「魔法結界!?」

「や、破れない!!」

「おいおいおいおい、ふざけんなよ!」

「あれは悪魔か……!!」

「人の姿をした話せる悪魔なんて……上位種か!!」



 ざわざわと闘技場内が恐怖が生まれていく。全員が結界を叩いたりするが外には出られない。



「お父様、あれって」

「あぁ、悪魔。しかも上位種か」

「……っ」

「レイナ、あんた大丈夫? 震えてるけど」

「……い、いえ。も、問題ないです」

「そ、そう?」



(レイナがこんなに取り乱すなんて……)



 ゴルザは腕を組みながら鋭い目つきを向けている。またジグザも同様に目を鋭くしていた。



「……この戦いどう見ますか?」

「ふむ、ゴルザよ。あの少女の勝ちと見た」

「私も予想は一緒です」

「ただ、被害がゼロかと言われると」

「それも同様に思います」

「出るか、儂らも」

「……いえ、問題ないでしょう。奴が……来る」

「ふむ、だろうの。ゴルザお主の全盛期ならあの二人倒せるか」

「……はい。両方とも倒せます。しかし、無傷は厳しいでしょう。特に少女の方は」

「ありゃ、化け物じゃろうて。どこにあんなのがいたのか。儂の全盛期ならば倒せたかもしれんが。だとしても魔力の練り上げ方が尋常ではなく素早い、速さを保ちながらの流れもまた美しい大したもんじゃ」

「エルフなので見た目による判断は難しいですが言動から察するに年齢はまだ若め、発展途上……ですか」

「末恐ろしいのぉ」



 客観的に冷静に逃げることをせず観客席に座り二人は観覧をしていた。



「あなた! ゼロちゃんがいないわ!」

「あの子なら問題ない」

「なら、あのゼロちゃんの嫁さんはどうするの! 助けなくていいの?!」

「まだゼロの結婚相手と決まったわけじゃない。それにあの少女なら負ける確率は低い」

「お父様! アタシはあんなエルフがお兄様の嫁なんて反対よ!」

「あら、イルザちゃんあの子可愛いしゼロちゃんにぴったりよ」

「お母様! お兄様にお嫁さんは早いと思うわ!」




 ぎゃーぎゃー騒いでいるが今まさにロッテと悪魔の戦いが始まろうと──



「あぁ、さっきの言葉なんだけどさ……あーしが予想ちょいと外れたって言った意味はさ……まさか、あのお方が直々に出てくるんだって意味なんだよね」

「なに?」




『─デデンでんででんーでんでんでんでん。るーるるーるるー』




 ──上空に黒鳥が浮かんでいた



「な、バカな!? ゴルザ、気づいたか!?」

「……黒鳥が転移魔法を使いこの会場にやってきておりました」

「……なんと、ではあれを鳥に教えたと?」

「そう、なります。理論上は可能かも、しれませんが……だとしても転移は特級クラスの魔法」

「儂とて使えんのに」

「私も使えません」



 

 ──そして、その存在が上空より彗星の如く飛来する



 ──ドゴンッ!!!


 闘技場の地をガラスのように破り現れたのは仮面を被った男。悪魔と少女の間に割り込むように立っていた。



「……相変わらず、かっこよさぱねぇ。あーし勝てる気しないからこうさーん」


 両手を上げてロッテは観客席に登って行った。レイナの隣に陣取りうっとりとしながら闘技場を眺めていた。イルザは声を彼女にかけた。



「ねぇ、あんた」

「あーし?」

「そうよ。アンタあれに勝てたんじゃないの?」

「勝てたと思うけど? なに?」

「そう、勝てるのね。あれに」

「勝てたけどちょいと荒れただろうから。任したほうがいい的な?」

「いい的な?」

「てか見学したかった的な?」

「的な?」

「まぁ、見てればわかるよ。立ち姿だけで分かるっしょ、格の違い」




 代行者がポケットに手を入れながら優雅に佇んでいる。悪魔もそれを見て微かに笑いながら声をかけた。



「なるほど。君が噂の……調子はどうだい? 愚神はそろそろ復活しそうかい?」

「まさか悪魔如きに心配されるとは。無論、問題はないとも」

「そうかいそうかい、随分と自信に満ち溢れているなぁ。しかし、可哀想にその全てが打ち崩されることを知らずに」

「そうか、ならば是非ご教授頂きたいものだがね。その壊れた時の私を」




 その様子を見ていた。ゴルザとジグザは深い息を吸い込んだ。あの存在のわずかな挙動を見逃さぬように。



「……この域に至れるとは」

「あの凄さを理解できるのは一体この会場に何人おるかのぉ」

「少なくとも、私が観測する限りは五人でしょう」

「あのエルフの嬢ちゃん、儂とお主。イルザとメイドちゃんか」

「えぇ、悪魔は理解できぬようです」

「哀れとは思わんの。あの魔力の流れを理解しろと言うのが無理な話」



(見せてもらうぞ、息子よ。お前の力を)

(さて、孫よ。どこまで魅せてくれる)




 まず最初に動いたのは悪魔の方だ。腕を五倍ほどに巨大化させ代行者に向かって殴りかかった。



「残像だ……千切り」



 手刀にて悪魔の腕を豆腐のように切り裂いた。しかし、すぐさま悪魔も腕を再生させて戦況を五分へと戻す。


「へぇ、人間のくせに」

「その人間に腕を斬られているのだが、少し焦ってはいかがかな」

「この程度で図に乗るなよ。憤怒火球インフェルオ


 黒い炎の火球体を代行者に向かって放射する。しかし、それに代行者は手を触れカウンターのように返した。そのまま炎の球体は悪魔へと激突する。



「できるのか! そんなことが!!」



 ゴルザが思わず立ち上がり、驚きの表情を見せる。その表情にまたイルザも驚いた。



(お父様がこんなに驚くなんて……)



「お、お父様今の何が凄いのかしら?」

「私も初めて見た。魔力の抵抗レジストを応用したカウンターだ」

「か、カウンター?」

「あーしが説明しちゃるよ。自分の魔力で作った魔法は自分へのダメージが極端に抑えられる。反対に自分以外の作った魔法だと大きなダメージなの」

「それで、どうなるのよ」

「だんちょ……あ、代行者は火球が放たれた時、それが炸裂する前に火球の全体を自身の大量魔力で包み悪魔の魔力を侵食した。その瞬間魔法の主導権も代行者になったんだよ」

「ふ、ふーん、魔力で魔法を包んで自分が作った魔法にして、じ、自分へのダメージを最小限にできるんだ」

「それ、簡単に言うけど超効率悪いから。普通に防御系統の魔法を作ったほうが効率いい的な? しかも包んで侵食させた魔法の主導権取ってんのがやばい。バリバリセンス必須の激ヤバカウンター曲技的な?」

「て、的な?」

「んで、それをあの一瞬でやってるのが相当にぱねぇってこと。無理無理、ありゃ真似できねぇわ」

「そ、そう」

「しかも」

「まだあるの!?」

「大量の魔力で包んでったから威力を底上げしてる。あれできたら天下取れちゃうの、もうとってっけど」

「て、的な?」

「そうそう。的な?」





 何をしているのか殆どの者には理解ができない大技の応酬。ゴルザの妻であるエルザもよくわかっていないようだった。



「よくわからないけど、あの神父の方すごいってことなのねぇ。あの人すごいわぁ」

「……私もやろうと思えばできるがね」

「あら、貴方も?」


(お父様、お母様があの人褒めたら独占欲で始めてるわね。こういう所はアタシとお父様が似てるなって思うわ)



「貴方ならあの仮面の人倒せるの?」

「……あぁ、行けるな」

「お父様、それ本当に?」

「あぁ」

「どうやるのよ、お父様」

「先ず、魔法使わないことだな。カウンターが来る」

「そ、そう。でも相手は魔法使ってくると思うけど?」

「攻撃魔法はお願いして使ってもらわないようにすればいい」

「お、お父様!?」



(お父様、お母様の前でカッコつけたくて本末転倒なこと言ってしまってますけど!? それカッコ悪いですけど!?)




「え、えと、それでも代行者様は近接も得意そうですが」

「私も剣術なら負けない」

「あ、えと、あの人体術だけで悪魔圧倒してますけど」

「ふむ、目を瞑って貰えばいい」

「お、お父様!? す、すごいハンデ戦になってる!?」

「じわじわと武器を使い削ればいい」

「ひ、卑怯では?」

「毒も使えばいい」

「で、でも、代行者様、回復魔法無詠唱で使えますけど」

「じゃ、もう無理やんけ(半ギレ)」

「お、お父様!?」




(こ、こんなカッコ悪いお父様見たくなかった!)



「あら、大丈夫よ。私貴方を愛してるもの」

「……そうか」

「ふふふ、独占欲が強いのね。イルザちゃんもあなたにそっくりになって」




 家族で談笑をしているうちに代行者対悪魔の決着がやってくる。代行者の腕が悪魔の背中から突き刺さっていたのだ。



「あ、ありえん。どう、やれば、お前のような化け物が生まれるんだ。有り得ないフザケルナ!!! ふざけるな、なんだ、なんなんだおまえ!!」

「私はただ、あのお方の思し召しのままに生きる存在。下等な悪魔などに理解はできんがね」

「ふ、ふふふ、しかし、これは引き分けだ。少しの合図で、悪魔が百体でる。会場の連中は無傷で済むかなぁ? 流石のお前もこれで!!!」

「それなら既に葬ってあるさ」

「な、に!?」



 その様子を見ていた。ロッテは団長の狙いに気づいてしまった。



(ああー、なるほどんぶり。あーし出汁に使われてたなこれ。大会で活躍させておいて、自分は速攻で負けて裏で悪魔事前に叩いてたのか。うわぁ、団長に出し抜かれてるじゃん)



(敵を騙す前に味方欺く的な? うーわ、鬼恥ず。自分でチェックメイトする的な? 感じ出しておいてバリバリ駒として使われてるじゃん)



(流石だけど、してやられたわぁ、まーじで勝てねぇわぁ。団長)




 代行者は悪魔を倒すとすぐさま姿を消した。そして、武闘会に代行者が現れたことは人伝で伝わることとなる。



◾️◾️




 全部終わったのでグランマのアップルパイを食べながら部屋に引きこもりタイムをしている。



「ちーす、団長」

「ロッテか」

「どもども。てか、頭の回転どうなってるん? 団長」

「ふむ」


 どういう意味で言ってるのか知らんのけど、バリわからない的な?



「一回マジで解剖して脳みそをしわまで見たいわ」

「そうか」

「人的被害ゼロとはやるね」

「ゼロ・ラグラーだけにな」

「え? それ笑ったほうがいい感じ? 部下だから爆笑かっさらってて流石っすねみたいな感じだしたほうがいい感じ?」

「いや。忘れてくれ」

「まぁ、失敗してる部分もあって、あーしからしたら安心したわ。あぁ、そういうの狙ってた感じ?」

「ふっ」

「あーだからね。団長がこんなクソ寒いクソおもんないギャグ言うはずないとは思ってたわ」

「ふ」


 そんな言う?! ギャルロッテちゃんばりばりのバリギャグセンスに厳しすぎ的な?



「団長。それ美味い?」

「アップルパイか」

「そそ」

「バリ超美味い」

「マージ? 舌落ちる的な?」

「最早溶ける的な?」

「舌が実質はちみつ的な?」

「そうそう」

「……あ、上司にこんなこと言うのあれだけどさ。一口くんない?」

「いいよ。ほら」

「あーんして」

「あいあい」

「……めっちゃ美味いね」

「だろ」

「……あ、ちょっと待って」

「どうした」

「これ、間接キスじゃん。どうしよ!? あ、えと。嘘!?」

「いや、間接キスくらい」

「あ、ええええ!? ああああ!? 団長に初めて奪われてしまいました。私!?」

「口調どうした」

「う、うわぁあ。これってもう結婚しないと……あれ?! そもそも子供できちゃう?!」

「出来ないって」

「キスすると、鳥が子供勝手に運んでくるって」

「違うよ。落ち着け」

「う、うん。わかった。で、でもキスはキスだし。あーしは嬉しいけどさ……ああもう、ちょっともう帰る!!」



 騒がしい奴だ。




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